横浜市の児童養護施設、三春学園の視察報告。

2014-06-17 23:30:34 | カテゴリ:活動報告


三春学園

本日(6/17)、横浜市の児童養護施設である「三春学園」の視察にお邪魔してきました。児童擁護施設は、保護者の居ない児童や、虐待されている児童などを入所させて養護し、自立のための援助などを行う事を目的としています(児童福祉法第四十一条)。

現在定員54名が在籍し、高校生が約46%、中高生となると、約74%となり、比較的年齢の高い児童となっています。その要員としては、(1)社会的養護の必要な子どもの年齢が上がっていて、その背景には虐待が顕在化、重篤化するのが学年が上がってからであること、(2)民間の施設では色々な都合で年齢の高い児童を預かりづらいという事情もあり、公立で受け入れている、という2点が指摘されました。

三春学園への入退所は、横浜市に4カ所ある児童相談所の判断によります。入所という措置が取られる理由はには色々ありますが、昔のように「棄児」や「服役」といった件数は非常に少なく、家庭的環境が理由の多くを占めます。現在の54名中家庭環境が理由となっているのは、50名。そのうち、虐待が理由で入所しているのはなんと42名であり、約78%となります(家庭環境の内虐待以外の理由や、養育能力、親子関係)。

施設で働く職員の方々からは、子ども達がここ数年で明確に変化してきている、という事が指摘されました。その1つは虐待の重篤化です。そしてもう1つは、自閉症、発達障害、ADHDといった障害を抱える子どもが増えているということです。職員にも2名心理職の方を配置したり、セラピーを受ける児童がいたりという状況になっているということでした。また精神面などで課題を抱える児童が増えているものの、施設だけでは受け入れきれないため、近年は里親にもケアの必要な児童をお願いするようになっていて、そのための講習等も行っていると言います。

養護が必要な児童が増加している状況もあり、横浜市としてはこれまで施設を新設したり、一時保護所の対応力強化などに取組んできました。現状では市内でおよそ500名の児童が施設に入り、概ね80%の児童が養護施設に入所、里親制度の利用は10%、といった内訳になっています。一方諸外国をみると、家庭的環境での養護が主流となっていることもあり、厚生労働省は、里親・ファミリーホーム、グループホーム、児童養護施設および乳児院、の3つの分野における擁護を、3分の1ずつに変えていきたいと方針を打ち出してもいます。とは言え横浜市の児童擁護の現状を考えると、まだまだ受け入れ先も不足し、一時保護も長期化する傾向もあることから(長いと1年!)、国の方針通り進めるのは難しいという意見もありました。

施設不足や定員不足は、三春学園も同じです。国の指針の変更により、1人あたりの床面積が広がったり、個室化へのニーズや、プライバシー保護を改善することが第三者評価で指摘されたりして来た事もあり、4人部屋を2つに分けて、1人部屋を2つにする工事が今後行われます。当初は70名定員として作られた建物も、現在では暫定定員が63名となり、手狭になってきています。定員不足を補うために、職員寮だった建物を転用したり、近隣のアパートの部屋を借りたりと、定員増加策にも取組んでいるものの、簡単に借りる事もできず課題となっています。

もう1つの課題は、進路です。特に大学進学。2009年から児童養護施設の中学生に対して、塾に通う場合の費用を国が2分の1補助する制度ができ(市が2分の1負担)、早ければ中学1年から、中学3年になると全員が通塾しているということで、今年の4月に高校に進学した子どもは、全員公立高校に進学できたといいます。一方大学進学に関しては、現時点でのサポート体制も不十分で、経済的理由で進学できない子どもも多いそうです。今年の3月に高校を卒業し退園した6名の内5名は就職。1名は大学に進学したものの、親からの金銭的支援が受けられたことが影響していると言います。就職に関しても、なかなか長続きしないケースも多いそうです。三春学園では退園後も、悩み事などを職員に相談できるようにしています。また合わせて、職員からも退園したOBに連絡をし、励ましたり、所在を把握しつづけたりと、寄添い型の支援を続けています。頼るべき親が不在だったりするため、寄添う存在が必要なためです。施設の子ども達にとってのロールモデルは親ではなく職員になるため、進路希望では福祉職を目指す子どもが多いと言います。

1つ印象的だった職員の方の指摘は、「対象像の曖昧化」です。児童擁護施設で受け入れる子どもの変化や、社会環境の変化により、もはや児童養護施設の枠内だけで全ての対応を行う事が困難になっているという指摘です。また貧困の連鎖、虐待の連鎖に対する問題意識も改めて提起されました。横浜市の予算も勿論限りがありますが、何に優先順位を付けて行くのか判断するのが政治でもあります。豪華な建物を建築する事に優先順位を置くのか、それともそういう公共工事は最低限度に抑え、社会的課題と向き合い、予算付けを行って行くのか。私は後者が大事だと考えます。

三春学園
食堂居間

三春学園
小中学生3名の居室

三春学園
高校生2名の居室

三春学園
卓球が強い。三春太鼓も地域で人気。

三春学園
野球はいつも3位ということ。。

三春学園

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