総合型地域スポーツクラブ。ソシオ成岩スポーツクラブ視察。

2015-11-09 22:33:51 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

本日(11月9日)、愛知県半田市にある「ソシオ成岩スポーツクラブ」へ視察に訪れました。成岩スポーツクラブは「総合型地域スポーツクラブ」として運営され、成功事例としても取り上げられているクラブです。

成岩地域では少子高齢化により、地域の小学生が参加する野球などの少年団の団員不足や、指導者の高齢化などの課題を抱えていました。また当時は学校の週5日制が導入された頃で、土日の2日間を子ども達にどうすごしてもらうか、ということが議論にあがりました。1994年には成岩地区において、学校と地域の自発的な取組としてクラブづくりが始まり、翌1995年には、文部省(当時)から「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」に指定されます(母体は「成岩地区少年をまもる会」)。そうした中「土日はスポーツを通じて、地域の中で子ども達を育てよう」という考えから、学校、地域、スポーツ少年団が協力し、1996年にクラブが設立されます。2002年にはNPO法人ソシオ成岩スポーツクラブが設立され、2003年に「学校地域共同利用型施設」としてクラブハウスが竣工すると、ソシオ成岩が指定管理者として運営を行うことになります。

部活の延長でもあり、部活以上でもある

クラブの導入目的が元々子ども達を地域で育むことに置かれていたこともあり、小中学生の部活の延長上として利用されてきた傾向が強いのが、成岩スポーツクラブの特徴でもあります。設立当初は、土日の部活は学校では一切行わないこととなり、全てクラブで行うこととされました。そのため、土日に部活を行うためには(正確には部活ではない)、クラブに入会することが必要となりました。また地域のスポーツ少年団は再編され、小学校区毎に分かれていた野球チームなどは1つにまとめられ、クラブチームとして統合されます。小学生のスポーツ団はクラブチームとして、中学生の土日の部活動もクラブメニューとして提供されることとなったわけです。クラブにおいては、サッカーや野球、陸上や剣道など、部活動と同じメニューが提供されています。

また「ウィングプロジェクト」という自主事業では、参加費を払うことでプロのアスリートによる指導を受けることができます。部活動だけでは得られなかった、高いレベルの指導を受けられることが、1つのメリットとなっています。クラブの会員として参加するので、部活であれば野球部は野球だけ、陸上部は陸上だけ、となってしまうところを、個人個人の好みに合わせて複数の種目を掛け持ちしたり、適正が合わなかった時には種目を変えたりと、柔軟にスポーツを楽しむことができるのも、メリットの1つです。2014年からは学童保育のような「放課後スクール」(月会費1万円)や、自習の補助として英語と算数のサポートをする「スタディサポート」といった、子育て・教育支援事業が提供されています。

成岩スポーツクラブには現在約50名の指導者が在籍しています。この指導者は「ボランティア・アシスタント(V.A.)」と呼ばれ、地域住民が登録しています。登録には市が付与している「地域認定スポーツアシスタント」という資格が必要となります。資格取得には指導者としての活動を行うことと、講習を受けることが求められ、受講が完了すると3年間の資格が付与されます。ボランティア・アシスタントは、有償ボランティアであるのと、アシスタント資格を得ると市内の社会体育施設を個人利用に限り、安く利用できるというメリットがあります。

半田市には5つの中学校がありますが、現在では全ての中学校区に総合型地域スポーツクラブが設置されています。成岩はその第1号であり、モデル事業として牽引してきたクラブでもあります。「成岩地区総合型地域スポーツクラブハウス」は成岩中学校の敷地内に有り、学校地域共同利用施設という位置づけ通り、中学校の体育館としての機能と、地域スポーツクラブのクラブハウスとしての機能が一体となっています(成岩中学校の元々の体育館は老朽化により取り壊し)。こうしたクラブハウスを持つのは、半田市の5つのクラブの中でも成岩だけとなります。クラブハウスの利用に関しては、行政>学校>地域という優先順位が付けられています。一般の中学校の体育館同様、災害時は避難所になったり、選挙の投票所になったりもするため、そうしたケースには行政の事情が最優先となります。クラブ自体は常勤5名、パート等で10名、理事等は全てボランティアという体制で運営されています。クラブの収入は、年間7000万円程。会費収入が約1,660万円、事業収入が約5,300万円、その他が143万円となっています。事業収入の内訳は、ウィングプロジェクト(自主事業)から約2,000万円、指定管理費が2,000万円、放課後事業が500万円程度、国等からの委託費が500万円程度とされています。

クラブ設立の経緯から、会費は少年団の会費などを参考に、小中学生は1,000円/月と低額に抑えられています(※小中学生以外の個人1,500円、親子ペア1,500円、家族2,000円)。会員は2,172人(2014年度)で、小中学生が40%を占めます。30代が10%、40代が22%となっていて、20代5%、50代6%と比べて高いのですが、これは親子会員、家族会員で底上げされている状況で、子ども達の入会の際にも親子で入会する方が費用面でお得なことも案内されているそうです。

20年の運営から明確になった課題と、今後

およそ20年に渡りクラブの運営が行われてきていますが、その間課題にも直面されてきていました。当初は土日全ての部活動がクラブの管轄下になりましたが、指導者不足の問題から、実際には中学校の部活の顧問(教師)が、土日もクラブで指導を行うという状況が続きました。クラブから教師に払う謝金が少なかったり、学校によって差があったり、教師が土日休めなくなったり、学外活動になるので校長の指導が及ばない等々学校側の問題や、部活動とほぼ同等のものに会費を払わなくてはいけないことを保護者に理解してもらいづらい、クラブの事務職員の負担が大きい等、クラブ側も問題を抱えてきました。その結果、2012年に中学校の部活動の運用が改正され、土日祝日の部活動を行うかどうかの判断が学校長に委ねられることになります。この方針をうけて現在成岩中学校では土日にも部活が行われることとなり、クラブの会員数も2011年の2,729人をピークに、2014年までに500人以上減少しています。

地域住民の認識としては、元々の流れがあるので小中学生のスポーツの場としての認識が強いようですが、部活動の方針転換以降は、大人の利用者が、クラブをスポーツだけでなく交流の場として活用する姿も増えてきていると言います。今後は、会員数の増加と収益性の向上が課題になりそうでした。地域の方が気軽に集まれる社交の場としてクラブが機能したり、学校内に施設があるメリットを活かして、市と学校と地域が一層協力して、提供されるサービスに付加価値をつけていくことなどが、今後のクラブの在り方にとって重要ではないかと考えます。OECDの調査などから学校の先生が部活動に多くの時間を割かれていることを考えると、こうした事業が部活に回帰するのではなく、部活のアウトソーシングの徹底として機能し、先生が学業に専念し、地域がそれを理解し支えるような取組に転換されていくことを、期待したいなと思います。

ソシオ成岩スポーツクラブ

ソシオ成岩スポーツクラブ
左がクラブハウス、右は中学校。

ソシオ成岩スポーツクラブ
屋上のテニスコート兼フットサル場。

ソシオテラス
ソシオテラスという、パーティーなどを行えるスペース。

ソシオ成岩スポーツクラブ
浴室やシャワールームもあります。

ソシオ成岩スポーツクラブ
メインアリーナでは、中学校の集会が行われていました。

ソシオ成岩スポーツクラブ
サブアリーナ

ソシオ成岩スポーツクラブ
サブアリーナ

ソシオ成岩スポーツクラブ
沢山のトロフィー、盾などが飾られていました。

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