白馬村の奇跡と、防災訓練の重要性。長野赤十字病院視察から。

2015-11-12 20:28:38 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

11月12日は「減災対策推進特別委員会」の視察で、長野赤十字病院を訪問しました。

長野赤十字病院は、「地域災害拠点病院」及び「基幹災害拠点病院」として長野県の指定を受けています。「地域災害拠点病院」は、災害時の救命医療を行う高度の診療機能を有し、傷病者の広域搬送への対応や、DMATの派遣受け入れ機能を有する病院で、長野県下に10の指定病院があります。「基幹災害拠点病院」は地域災害拠点病院の機能を更に強化して、県の災害医療に関して中心的な役割を果たす病院で、長野県には長野赤十字病院の1つだけとなります。DMATが3チーム(31名)が待機していて、医療救護班は常時5個班35名が待機しています(DMAT:災害派遣医療チーム。大規模災害などの現場で急性期に活動する機動性のある医療チーム)。

院内災害救護訓練:病院避難訓練

今回は主に、防災訓練についてお話を伺いました。長野赤十字病院では毎年10月初旬の平日に、院内災害救護訓練を行っています。これまでは主に自身を想定して、「多数傷病者受入れ訓練」が行われてきましたが、今年は初めて「病院避難訓練」が行われています。病院避難訓練とは、病院が被災したことを想定し、患者さん達をいかにして避難させるかを訓練するものです。2015年10月3日8:30〜12:00に行われた訓練では、平日の10:00頃に、長野盆地西縁活断層帯が震源とみられる最大震度6強の地震発生により、病院建物全体に甚大な被害が生じ、ライフライン途絶状態の中、入外患者及び職員全員を院外へ退避させざるを得ない状況が想定されました。

訓練の目的は、1.病院避難訓練を行うことで安全確保、避難手順等の確認を行うこと、2.災害対策マニュアルの検証を行う、3.病院全体の災害対応能力向上を図ること、とされています。具体的には、(1)災害対策本部の立ちあげ及び運営、(2)各部署における避難時のアクションカード作成・検証、(3)外来患者帰宅誘導訓練、(4)病院/手術室/透析室の避難訓練(患者の避難順序決定のシミュレーション、エアーストレッチャーを利用した避難訓練)、(5)搬送待機エリアの設営訓練、(6)オクレンジャーを利用した職員安否確認訓練、の6つの項目で訓練が行われています(※(2)のアクションカードは、担当毎に初動に何をするのか、災害対策マニュアルの要点を簡略化して記したもの。)。訓練終了後には全体検証会が行われ、何ができて、何ができなかったかの話し合い、確認が行われています。最終的には、今後一層検証作業を行い、まとめていく予定とのことでした。

災害発生時の医薬品の備蓄は3〜4日分となっていて、院内の備蓄スペースの制限と、在庫限度(使用期限による)を考慮しての備蓄量となっています。災害の規模や状況によっては備蓄品だけでは足りなくなる可能性もあります。そうした場合は、医薬品問屋さんに長野赤十字病院が基幹災害拠点病院であることを理解していただいた上で、優先的に搬入してもらえるようお願いをしているそうです。ただ、明確な協定などはないため、その点は課題のようでした。

御嶽山噴火・神城地震と、白馬村の奇跡

長野赤十字病院は、昨年9月27日に発生した御嶽山の噴火、11月22日に発生した神城断層地震災害にも対応にあたっています。御嶽山噴火に関しては、県災害対策医療本部に、DMAT隊員10名を派遣。その他現場には、DMAT1チーム8名、日赤救護班1班9名、こころのケアチーム(被災者家族サポート)2名の、現場派遣は合計29名。院内災害対策本部の運営委員としては、院長以下約20名が派遣されています。長野赤十字病院第一救急部長の岩下さんは、たまたま噴火当日に信州大学のドクターヘリに搭乗していて、医療従事者としては最初に現地入りをしています。噴火での対応を振り返ると、当初被災状況が全くわからない事で、初期段階に多くの応援が入ってくれたことで大いに助かったと言います。結果的に、死亡58名、重症27名、行方不明5名、軽症32名と、戦後最悪の火山噴火災害となりましたが、当初は入山者の数の把握ができず、本当に大変だったようです。一方医療現場としては、局所的にな災害で病院が被災することもなく、普段通り機能できたことが震災で想定されることとは異なる点として指摘されました。

一方神城断層地震災害は、「白馬村の奇跡」と呼ばれています。地震の規模はM6.7、最大震度は6弱という地震でした。被害の状況は、建物被害が全壊50棟、半壊91棟、一部損壊1,426棟。人的被害は、負傷者41人(うち重症者7人)、そして死者が0人。同等の規模の地震ではこれまで死者が出なかったことはありませんでしたが、白馬村では死者が0人ということで、「白馬村の奇跡」と呼ばれます。

地震の発生は、22:08。長野赤十字病院の職員は22:10から自主登院をはじめます。登院基準は、長野市周辺5強以上、県内6弱以上、近接県6強以上の地震発生時と定められています。この基準に従い、最終的には180人が自主登院をしています(全職員数約1,300人)。

自助・共助の取組が、「白馬村の奇跡」を生む

白馬村の被害が少なかったことにはいくつか要因が示されました。その1つが「災害時住民支えあいマップ」です。助け合い体制をマップ上に落とし込み見える化。要配慮者と、その配慮者を支援する家庭を明確化することで、発災時に迅速かつ漏れのない救助・避難活動が可能になったといいます。2つ目の要因が、自治会単位での安否確認システムです。自治会長(区長)が村役場に安否確認を報告する仕組みになっていて、自治会長には班長(伍長)から情報が上がるようになっています。各自の役割が明確になっていて、スピーディーに救助を行うことが可能になているということです。3つ目は、訓練とコミュニティ意識です。自主防災会や自治会による訓練の実施と、高いコミュニティ意識と強い結びつきが、白馬村にはあるということでした。

これまで阪神淡路大震災で生き埋めになった人たちの、67%が自助(自力か家族による救助)、28%が共助(友人、隣人、通行人)によって救出されたことが明らかになっています(自助・共助で95%)。長野県によれば2004年の梅雨前線豪雨や中越地震では、無事避難できた人のうち75%が、地域の人の支援によるものだったといいます。こうした取組をみると、白馬村は「奇跡」ではなく、人を助けるための準備がしっかり行われていた結果であると言えます。横浜市も、そして市内各地域においても、こうした安否確認経路の明確化、担当者の明確化は有効に機能するのではないかと考えます。また佐久市でも防災訓練の開催が課題となっていましたが、赤十字病院では新たな訓練を行いながら検証作業を進め、白馬村では日頃の訓練の結果として「奇跡」が生まれたと説明されています。10月5日の消防局審査では、「地域防災力の向上」について消防局と議論を行いましたが、改めて地域防災の重要性、防災訓練の重要性を、強く認識した視察となりました。

長野赤十字病院
基幹災害医療センターには、様々な備蓄が行われています。

長野赤十字病院
非常食

長野赤十字病院
医療救護班の個人装備

長野赤十字病院
DMAT災害時出動機材

長野赤十字病院
カセットガスボンベの発電機も

長野赤十字病院
ヘリポートの設置された駐車場

長野赤十字病院
年間100回ほど、ヘリポートが使われているといいます。長野県下では、年間1,000回ほどドクターヘリの出動があるそうです。

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