明石市視察。全国初の離婚後のこども養育支援。

2016-08-10 00:34:11 | カテゴリ:活動報告


明石市議会

8月9日(火)、明石市を訪問しました。今回の視察の目的は、明石市が全国で初めて取組み、注目を集めている、「離婚後のこども養育支援」について学ぶため。両親の離婚に際し合意書を作成したり、養育プランを作成したりすることで、こども達が安心して暮らし、健やかに成長していけるようにしようと、取組が行われています。

泉房穂市長からの話:全てのこどもを対象にした子育て施策

明石市議会の会議室を訪れると、冒頭にわざわざ市長が時間を作ってくださって、これまでの明石市での子育て施策について、ご説明をしてくださいました。明石市では子育て施策を実施するにあたり、所得制限などを設けずに、全てのこどもを対象としています。例えば、保育所や幼稚園の保育料は、第2子以降は完全無料化していたり、中学生までのこども医療費を完全無料化しています。これは、親の所得によってこども達の育ちが影響されないようにしようという、市長の考え方によります。市長は明石市を、こどもを産み育てやすい街にしようと、予算のシフトなどを行ってきました。子育て施策を充実させたことによって、平成24年に290,657人で底を打った人口が、平成27年には293,509人に上昇し、関西で唯一の人口のV字回復を実現したと言います。子育て施策に力を入れたことで、神戸や姫路といった近隣の自治体から、25〜40歳の人口と、5歳以下の人口が流入してきていると言います。まさに子育て世代と、そのこどもが、明石に転入しているという流れです。この結果、地価が平成26年、27年と上昇し、固定資産税収入が増え、財政収支も改善していると言います。今後は在宅での子育て支援にも力を入れていくことや、平成29年度には児童養護施設の新設を行いこども支援の拠点とすること、平成30年度には中核市へ移行し、平成31年度には児童相談所を設置することなどが示されました。

泉房穂市長
説明する泉房穂市長

こども養育支援にあたる職員には、弁護士が雇用されていました。現在市には7名の弁護士が雇用されています。市長は人事にも力を入れていて、約2,000名いる市職員のうち、1%にあたる20名位、弁護士や社会福祉士などの専門職員雇用し、現場の機動力を高めて、施策のパフォーマンスを高めるようにしています。人事異動も年4回程行い、必要な人材を必要な時に配置することで、事業をより効果的に進めるようにされています。部長や課長なども、従来型の年功序列ではなく、能力のある若い人材を配置したりもしています(市長からは野球に例えて、ピッチャーも先発、中継ぎ、抑えがあるように、市の施策実行にも適材を適したタイミングで投入していると説明がありました)。子育て施策を充実させれば、それだけ予算も必要になります。第2子以降保育料無料化についても、毎年7億円が必要です。こうした予算は財政の担当に「7億円は無いものと思ってほしい」と指示を出して、予算編成をしてもらっていると言います。また水道施設の補修工事に係る費用を平準化することで、予算を捻出したり、新たなハコモノを作らずに、既存施設の転用で済ませることで、支出を最小限に抑える努力をしています。職員の人件費についても、できるだけ定時で職員が帰宅できるようにすることで、残業代の支出を減らすよう取り組んでいると言います。市長になって2年位は「カネがない」と思っていたものの、実際は無いのではなく「やりくりができていない」ことに気づき、限られた予算のやりくりに努めていると仰っていました。重要なのは人事と予算で、必要な人材を配置して、やりくりすることができれば、実現できることはまだまだあると仰っていました。

離婚後のこども養育支援

泉市長は、弁護士出身。大学では教育哲学を専攻していたそうです。こうした背景があって、子育て施策の充実があり、また離婚後のこども養育支援施策の実現があります。弁護士をされていた当時、離婚する父や母の弁護をすることがあったが、泣いているこどもを弁護する仕組みがないことに、愕然としたといいます。海外の事例などを調べても、ヨーロッパならこどもの意思を確認してから離婚が成立したり、アメリカなら離婚後も共同親権であり、一方の親が、もう一方の親とこどもとの面会を拒絶すれば逮捕されるなど、こどもを守る仕組みがあります。一方こどもを守る仕組みが無いのは日本だけだと分かり、裁判で養育費の支払いが命じられても支払われなかったり、こどものとの面会が断絶してしまう状況が起きており、これをなんとかしようと、市長の長年の思いのこもった施策として、取組が始まっています。

離婚後のこども養育支援

離婚後のこども養育支援の取組のポイントは、「こどもの養育に関する合意書」、「こども養育プラン」という離婚前に父母で取り決めを行うための書式と、「親の離婚とこどもの気持ち」という冊子を離婚届と合わせて配布すること。また離婚や、こども養育のための相談窓口を設けたり、「明石市こども養育支援ネットワーク連絡会議」という体制を構築していること。さらに、「離婚前講座」や「こどもふれあいキャンプ」といった、心理ケアの場を用意していることです。面会交流についても、「こどもと親の交流ノート」という養育手帳を配布し、父母間で連絡を取りづらいケースのための連絡調整サポートを用意しています。そして、それぞれの取組を支える「基本理念」があり、
 (1)こどもの立場で:親の離婚やこどものに与える影響が大きい
 (2)基礎自治体(市)の責務:親だけでなく、社会(行政)の支援が必要
 (3)普遍性:全国どこでも、低予算で実現可能な施策に
という3つが掲げられていて、この理念に則って施策が作られ、運用されています。

「こどもの養育に関する合意書」には、養育費の額、支払期限・期間、面会交流の回数などを記載する書式になっています。「こども養育プラン」には、養育費用のほか、こどもの生活拠点、交流頻度や場所、連絡方法などを記します。「親の離婚とこどもの気持ち」には、子どもとどう向き合うか、夫婦間の問題とこどもの養育をどう整理するか、年代別のこどもの気持ちと対応の仕方などが記されるとともに、母子・父子家庭支援のための行政サポートのメニューが記されています。

こうした様々な施策が用意されていますが、利用するかどうか、合意書などを作るかどうかは、あくまでも任意となっていて強制されるものではありません。そのため、実際に合意書などをどれだけの方が活用しているかは、数として把握できるものではないといいます。とはいえ、児童扶養手当の申請時に、養育費の取り決めを行っているか聞いてみると、合意書を示してくださる方もいらっしゃるとのことでした。面会交流の支援なども、離婚の理由にはDVなどもあるので、強制的に面会の機会を設けることはなく、父、母、子の3者が望んでいる場合に限って、支援を行っているといいます。

日本においても離婚率が高まっているなかで、父母間の事情だけによる離婚ではなく、こどもの養育の視点にたった支援を制度化し、実行していくことは非常に重要な取組だと考えます。国においても、「親子断絶防止議員連盟」によって明石市モデルの法制化の動きがあるといいますし、「子どもの貧困対策会議」では、合意書を全国の自治体で配布することが定められています。明石市が作成した合意書の参考書式を配布したり、参考にして新たに書式を作成・配布している自治体が、全国に9自治体に広がっているなど、国と地方双方で重要な取組として推進が図られてきています。横浜市においても、こうした取組を積極的に推進していく必要があると考えます。

ヒアリングをしながら私が感じた課題は、自助(ピアサポート)グループの必要性です。明石市ではこどもふれあいキャンプなどで、同じ経験をもつ方同士の交流が図られてきていますが、行政が中心となって、行政と個人との関係だけでは今後の支援体制や、社会的な理解の促進には限界があるのではないかと思います。NPOなどで自助グループが形成されれば、行政のサポートだけでなく、実際に離婚と合意書の作成、こども養育を行った経験のある人が、これから離婚しようとしていたり、離婚したばかりで悩みを抱えている人をサポートできるようになります。明石市では、まだこうした自助グループは立ち上がっておらず、市としても課題と認識されていました。

<参考>
明石市のホームページでは、全ての書式などがダウンロード可能となっています。
明石市ホームページ:離婚後のこども養育支援 ~養育費や面会交流について~

藤崎浩太郎

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