広域連携による観光ブランド化。せとうちDMO視察報告。

2016-10-28 01:12:55 | カテゴリ:活動報告


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10月27日は「市民・文化観光・消防委員会」の視察最終日。広島県議会を会場にさせていただいて、せとうちDMOの取組を伺ってきました。

瀬戸内エリアの広域観光推進組織

DMOとは、「Destination Management/Marketing organization」の頭文字をとったもので、観光地活性化のために多様な関係者が連携し、データに基づく目標設定(KPI)、評価サイクル(PDCA)の確立を行い、プロモーションなどを行っていく組織です。せとうちDMOは、兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛という瀬戸内海に面する7県が参加し、瀬戸内エリアへの観光客の誘致と、ブランド力強化のために設立されています。

せとうちDMOは2016年4月に設立され、「一般社団法人せとうち観光推進機構」と、「株式会社瀬戸内ブランドコーポレーション」から構成されています。せとうち観光推進機構は、綿密な調査に基づくマーケティング戦略によって、プロモーションや観光商品の開発などを行っていて、上記の県の他、JTBや近畿日本ツーリスト、JR西日本、JAL、楽天トラベル、など20の団体が加盟しています。瀬戸内ブランドコーポレーションは、地方銀行や政策投資銀行、信金、運輸会社やメーカーなど46社が出資者となり、観光関連事業の事業開発支援のため、98億円のファンド「せとうち観光活性化ファンド」を設立しています。金融機関ならではの、経営支援や人的ネットワーク支援などを行っていて、持続可能な経営基盤の構築を支援しています。

AUTHENTIC JAPAN ありのままの日本の魅力はここにある。

訪日外国人旅行客の「ゴールデンルート」というのがあり、東京、富士山、京都を回るルートとなっています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたり、従来のルートだけでは観光客を収容しきれなくなるため、「第2のゴールデンルート」を形成しようとする観光庁の「広域観光周遊ルート形成促進事業」において、瀬戸内ルートが国交大臣の認定を受けています。

瀬戸内は古代から海上交通の要所であったので、歴史も文化も豊富なエリアとなっています。1860年に来日したドイツ人地理学者リヒトホーフェンは、「広い区域に亙る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであろう。」と評しています。この世界に誇る瀬戸内の景色や、食や匠の技、700以上の「多島美」と呼ばれる島々を活かして、他にはない「ありのままの日本の魅力」を売りに、外国人観光客の増加を目指しています。瀬戸内に訪れるであろうターゲットとしては、「2度目以降の来日観光客」とされています。東京や京都などを楽しんた後もう一度日本へ来た時に、昔ながらの日本の風景が残る瀬戸内を選んでもらおうという戦略です。そしてまた、一度来たら、二度、三度と訪れたくなるように、DMOとして取組を進めようとされていました。

「2020年、瀬戸内のあるべき姿」というビジョンもあり、vision1)瀬戸内が一度ならず、二度、三度と訪れてみたい場所として定着している、vision2)国内外から人々が集まる、vision3)地域が潤う、vision4)輝かしい未来に向けて住民の間に誇りと希望が満ちている、という4つが打ち出されています。世界から瀬戸内を目指して観光客が訪れることで、世界的から評される街に住んでいてよかたと、働いていてよかったと、そう思ってもらえるようにしていきたいと力強く、ご説明もあり印象的でした。具体的な目標としては、(1)瀬戸内への「来訪意向」を2013年の27.9%から、2020年までに北海道や沖縄と同程度の50%まで引き上げる事と、(2)外国人延宿泊者数を2013年の120万人泊から、2020年までに3倍の360万人泊を実現しようというものになっています。

支援実績

せとうち観光活性化ファンドの支援第1号に決まったのは、クルーズ船の建造資金の一部拠出というものです。せとうちDMOのマネジメント体制の中には部会があり、地域産品、アート、クルーズ、食、サイクリング、宿の6部会となっています。瀬戸内の歴史・文化を楽しんでもらうためには、クルーズは欠かせない要素です。株式会社せとうちクルーズが運行を予定しているクルーズ船の支援を行うもので、瀬戸内ブランドコーポレーションは建造資金の支援のみならず、クルーズ船の事業開発の支援を行い、せとうち観光支援機構は運行に向けてのプロモーションやクルーズ商品の開発支援を行い、瀬戸内の多島美と食を満喫できるハイエンドな宿泊型瀬戸内クルージングを行う予定となっています。

瀬戸内エリアの魅力発信としては、「瀬戸内Finder」というWebサイトの運営が行われています。瀬戸内Finderでは、グルメ情報にホテル・宿情報、アートにお土産など、瀬戸内の情報が掲載されています。特徴は、地域のライターが、住所や営業時間などといった単純な観光情報とは異なる、地元目線での取材によって記事を提供していること。今時は、飲食店もホテルも、自前のWebサイトを持っています。そうした当事者発信の情報ではなく、第3者の記者が取材をして、口コミもような情報提供を行うことで、瀬戸内の魅力を高められるよう、メディア運営が行われています。

お土産関係では、「瀬戸内ブランド」という登録制度があります。これまで576の商品が瀬戸内ブランド商品として、32のサービスが瀬戸内ブランドサービスとして、登録されています。瀬戸内エリア特有の「自然」、「食」、「歴史」といった資産を元に開発されていて、瀬戸内のアイデンティティを体現する商品やサービスを、せとうち観光推進機構が登録しています。登録にあたっては、商品のパッケージデザイン向上などの支援も行っています。非常に多くの商品・サービスが登録されていますが、登録されると「瀬戸内ブランドマーク」を付けられるようになり、販路も拡大しやすくなり、店舗での棚の獲得にもつながっているそうです。例えばイオンで「瀬戸内フェア」が行われるとなれば、登録されている商品の方が棚を得やすくなります。最近では「檸檬蜜」の販売が好調で、登録商品にレモン関係が多くなり、レモンの生産が間に合わないほどになっているそうです。もともとレモン生産量日本一は広島県で、近年のレモン商品の人気によって、新たな商品開発が加速度的に進んでいると言います。

海外向けでは、旅行のコンセプト開発のために、トランシーニファミリーというスイス人家族を招いたプロモーションを行っています。トランシーニファミリーは、ユニークな体験や美しいと感じた観光地の映像をWebサイトやSNSを用いてヨーロッパに発信しているということで、11日間瀬戸内を周遊してもらい情報を発信をしてもらうとともに、ヨーロッパの人が日本の旅をどうやって楽しみたいと思っているのか、どんなコンテンツに魅力を感じるのかといったことを把握し、今後の瀬戸内観光のパッケージづくり、プロモーションに活かそうという企画でした。またイギリスに本社のある英語圏富裕層向け旅行海外「Trafalgar社」が開催する「グローバル・リーダーシップ・カンファレンス」の場で、瀬戸内のプレゼンテーションと瀬戸内全域を横断する5つの視察ツアーを行っています。トラファルガー社が作る旅行商品の訪問地に、瀬戸内エリアが組み込まれることを目的として行われています。参加者からは、「京都以外にも美しい寺を見られるとは知らなかった」、「個人的にまた来たい」といった意見も聞かれたそうです。

成果と課題

せとうちDMOを立ち上げたことのメリットは、(1)観光資源、(2)経営資源、(3)顧客、の3つを7県が共有できるようになったことだといいます。例えば「広島観光」となったとしても、安芸の宮島と原爆ドームを訪れるくらいなら、日帰りで十分となってしまいます。でも、広島観光と合わせて、近隣他県の観光地にも誘導できるように企画を打てれば、瀬戸内エリアでの宿泊につながり、消費額の増加につながります。楽天トラベルやじゃらんもメンバーなので、新たな旅行商品が開発されれば、Webの旅行予約サイトで掲載されます。また「岡山が好き」、「松山が好き」といった、特定の地域のファンや、旅行代理店の顧客等にも、アプローチをかけられるようになり、松山に行ったついでに他の地域でも観光消費を行ってもらうことが可能になっているといいます。

また、一般社団法人化したことにもメリットがあったといいます。せとうちDMOの前身となったのは「瀬戸内ブランド推進連合」という2013年4月に設立された任意団体。せとうちDMOと同じ7県が設立した団体でしたが、任意団体ということもあり、各県の都合に左右されやすい面があったといいます。今回の法人化により、県の都合よりも、マーケットインの視点を入れることができるようになったといいます。とはいえ、県は出資者でもあるので、完全に無視できるわけではなく、県毎の公平性などには気を使っているようです。

課題としては、資金面があります。せとうち観光推進機構の年間予算はおよそ4億円。そのうち1億円は、県や企業からの出資で、残りの3億円は、観光庁の「広域観光周遊ルート」から得られる予算となっています。観光庁の方は5年の年限があります。現状では自主財源が無いのが大きな課題です。DMOは欧米でよくある組織体ですが、事業収入などで自主財源を確保しています。アメリカのDMOの視察なども行っていて、今後どうやって自主財源を確保していくか研究をしているそうです。また欧米のDMOではスタッフは正規雇用で、行政からの出向スタッフが居ないという体制になっているようです。私もDMOのような組織は、権限と、財源をもちつつ、専門的かつ持続可能なスタッフ体制が必要だと考えています。せとうちDMOのスタッフは、県庁や出資企業、金融機関からの出向者となっています。どうしても役所の職員は、3年程度で異動になってしまいます。組織運営における、資金面、人材面には課題があるようでした。

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