渋谷区のLGBTと男女の人権尊重の取り組み。

2017-08-08 00:06:30 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

本日(8月7日)、民進党横浜市会議員団の会派視察で、渋谷区役所を訪れました。目的は渋谷区が先行して取り組んでいるLGBT(性的少数者)関連事業について、横浜市として参考にするため。民間の調査では、LGBTを含む性的少数者は人口比で7.6%という結果もあり、見えにくいものの、多くの方がその困難に直面しているとみられています。

ちがいをちからに変える街、渋谷区

渋谷区では2015年に長谷部区長が誕生し、20年ぶりに区の基本構想が改定されました。新しい基本構想で示された渋谷区像が「ちがいをちからに変える街」。ロンドンやパリ、ニューヨークのような「成熟した国際都市」を目指して、高度な国際競争力と、強烈な地域性の重要性が示され、その条件として「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(社会的包摂)」の重要性が示されています。「街の主役は人」であるという考え方から、多様性を受け入れて、人種、性別、年齢、障害を超えて、渋谷区に集まるすべての人の力を、まちづくりの原動力としていこうというのが、「ちがい」を「ちから」に変える街という未来像に込められています。

2015年3月に可決された「渋谷区男女平等および多様性を尊重する社会を推進する条例」が、LGBT事業を推進するものとして注目をされています。特に同性カップルの「パートナーシップ証明書」を発行することが注目されたことから、「パートナーシップ条例」と伝えられることがありますが、条例の一部を示しているに過ぎません。条例で示されている基本理念の1つが「男女の人権の尊重」。具体的には(1)DV(ドメスティックバイオレンス)等がなくなること、(2)性別による固定的な役割分担にとらわれないこと、(3)男女とも立案や決定に参画する機会が確保されること、(4)教育の現場で男女平等の意識が形成されること、(5)男女ともに仕事と生活のバランスがとれた暮しができるようにすること、(6)妊娠、出産について男女がお互いに理解、尊重すること、(7)国内外における男女平等参画の取り組みを理解し、推進すること、といった内容が定められています。

そして基本理念の2つ目が「性的少数者の人権の尊重」。具体的には、(1)偏見や差別をなくし、性的少数者が個人として尊重されること、(2)偏見や差別意識にとらわれずに、性的少数者が多様な生き方を選択できること、(3)教育の場での性的少数者への理解の形成、当事者への対応も行なうこと、(4)国内外における性的少数者への取り組みを理解し、推進すること、の4つが示されています。このように、条例は性的少数者だけでなく、男女の人権一般を扱ったものとなっています。その背景には、例えばレズビアンは女性であり性的少数者であるという「ダブルマイノリティ」であったり、例えばトランスジェンダー女性の「生きづらさ」は女性のそれと繋がっているなど、「男女の平等」と「LGBT」は別個の問題ではなく地続きの課題であるという認識があります。

差別や偏見はマジョリティの問題

LGBT施策には、直接的支援と、啓発・取組促進の2つの柱があります。直接支援はLGBTを含め、多様な性的少数者や、当事者家族への支援。啓発・取組促進は、区民、事業者、行政/組織内の3つに分類され、一般区民や子どもと保護者、企業、学校、病院、福祉系、都市/施設整備、外郭団体、などとなっています。基本的には常に「差別や偏見はマジョリティの問題」であることを念頭に置いた取り組みが行なわれていて、まずは市民等の理解を促進する啓発に力が入れられています。

直接的支援の1つが、「にじいろ電話相談」。第2、第4土曜日の13時〜16時に電話で相談を受ける事業です。この事業を展開してからわかったことが、傾聴ニーズが高いということです。自分の悩みを言う先が無い方々が、兎に角現状の困難性を話したいという形で利用されるケースが多いそうです。内容としては、制服が嫌で学校に行けないとか、性同一性障害でクリニックに通っているが医師や薬が合わないとか、行政には相談しづらい内容が、寄せられているそうです。電話自体はNPOに運営委託が行なわれていますが、パンクするほどの相談は無いということで、区としてはまだまだ周知が不足していると認識されていました。

直接支援のもう1つが、コミュニティスペース「渋谷にかける虹」です。毎月1回男女平等ダイバーシティセンター<アイリス>で開催されていて、月ごとにテーマが設けられ、多種多様な困難なニーズを抱える性的少数者に、幅広くアウトリーチしようとするものです。設定されたテーマの領域で活躍されている方を招き、30分ほどお話を聞き、その上でグループに分かれてお菓子などをつまみながら、それぞれ自由に話し、最後に感想を発表したり、質問を受けたりするという仕立てになっています。感想や質問は書き出されるので、最終的に取りまとめられ、当事者の声として担当する所管課に共有できる体制となっています。毎回20〜60人くらいが参加していて、当事者と非当事者が壁なく話せる場として、利用者からの評価が高いと言います。現代ではWebやSNSで情報を得たり、繋がったりすることが簡単になっているものの、信頼できる情報源なのかどうかが分からなかったり、ネガティブ情報も多いことから、リアルに会える場が必要とされているそうです。この他にも、条例冊子の発行や、当事者と行政の各所管との情報交換、職員向けLGBT対応指針の制定などが行なわれています。

パートナーシップ証明書

渋谷区の取り組みで注目されたのが「パートナーシップ証明書」発行事業。渋谷区在住の同性カップルに、婚姻に相当するパートナーとして証明書を発行するものです。これまで、20組発行されています(2017年7月4日時点)。他都市でも類似した仕組みがありますが、「宣誓書」としているところばかりなのと、渋谷区のような条例による実施ではなく、要綱に基づく実施となっていて、渋谷区の取り組みが最も法的にも位置づけの高いものとなっています。宣誓書では当事者の宣誓となりますが、パートナーシップ証明書は、区が証明するものとなります。証明にあたっては、(1)任意後見契約に係る公正証書と、(2)合意契約に係る公正証書の2つが必要となっており、その位置づけの強さがわかります。渋谷区が「証明書」という方法をとったのは、行政としてどうやったら同性カップルの権利を後押しできるかが焦点であり、日本で誰もやったことの無い仕組みを作るにあたり最大限の要請を区内の事業者などに行なうために、証明書を選択したという経緯があります。

パートナーシップ証明書の発行によるメリットとしては、区内の賃貸住宅への入居に際して同性カップルの入居資格を認めることになったことや、医療機関での対応において「家族」として認められるといった事が示されてきており、渋谷区でも渋谷区営住宅条例などの対応が行なわれています。それ以外の事について渋谷区としては、自治体レベルでの対応は難しいのではないかと考えていました。一方では保険などでの同性パートナー対象サービスが広がっていたり、今年の7月にはみずほ銀行が、渋谷区の発行するパートナーシップ証明書を提出した場合に、住宅ローンの収入合算や家族ペア返済において同性パートナーを配偶者と同様に扱うように、商品改定を行っています。渋谷区のパートナーシップ証明書限定の取組みとなっているのは、公正証書によって証明書を発行している点が、渋谷区の証明書の強みとなっているのではないかと推測されていて、民間での活用の可能性が広がっていると認識されていました。

パートナーシップ証明書の申請、発行にはまだまだ課題もあると言います。それは「暴露」の問題です。当事者間ではパートナーシップ証明書を発行して、活用するにしても、職場等にはバレたくないという状況にあり、戸籍や住民票にまでその影響があると困る、ということを当事者は考えているということでした。ここでも「マジョリティの啓発」が大きな壁であり、その取り組みを如何に深めていくかの重要性がテーマとなっています。そのために、学校の先生への啓発や、地場企業、町内会など小さな単位の地域社会での啓発推進に取組まれています。

LGBTアライ

マジョリティの啓発の取り組みの一環として、「LGBTアライ」の可視化が次の課題です。アライ(Ally)とは支援者。「見えにくいマイノリティ」と言われるLGBTですが、それを支援するアライの存在もまた見えにくいものとなっています。LGBTアライを可視化し、日々の暮らしをLGBTフレンドリーな社会に変えていくことが課題となっています。アライの可視化のための方策が、6色のレインボーカラー(旗)の掲示です。バッヂを身に着けたり、学校、職場、店舗に掲げることで、「LGBTフレンドリー」の姿勢を示すことができます。役所内においても、研修等を通じながら理解者を広めることで、LGBTバッヂの着用者が増えてきていると言います。映画「彼らが本気で編むときは、」はトランスジェンダーをテーマにした映画であったことから渋谷区として応援し、職員研修として試写を行ったり、区内教育機関で出張上映授業を行ったりと、教育事業の一環としてコラボレーションも行なわれています。

学校での研修は進んでいて、既に校長、副校長への研修は済んでいて、今後は現場の職員への研修を行なっていく予定となっています。基礎知識としての座学では、LGBT当事者の人が学校へ行って先生と話す内容となっています。単純にLGBTを知ってもらうだけでなく、インクルージョン、多様性を認めることを、先生に理解してもらえる内容にするために、形をつくっている段階です。教員研修は校長先生の判断によって、対象を生徒や保護者まで拡大することが可能とされています。生徒限定の授業はまだ行われたことがないものの、先生の理解を促進することで、理解者が近くにいることを確保し、当事者を支える体制を充実していこうと取組まれています。

民間企業での取り組みについては、まさに今推進してもらうよう対応を進めているところでした。航空会社のマイルや携帯の家族割などを、同性パートナーでも分け合える取り組みが実現してきているものの、渋谷区外の企業の取り組みばかりなのが現状。まだまだ渋谷区内の企業では、対応が進んでいないため、CSRの担当者とつながりながら社内での推進をお願いし、担当者への啓発を行うことを通じて、社内での啓発につなげてもらうなどの取り組みを進めていらっしゃいます。秋以降には、区内企業・事業所・店舗向けにアライ宣言POPの提供事業を開始する予定で、すでにLGBTに取り組んでいる企業等を可視化し、区内での理解や更なる推進を図ろうとされていました。

まとめ

条例制定にあたっては、各種メディア等でも注目された渋谷区の取り組みですが、区の基本構想がベースとなって、目指すべき都市像の中に位置づけられている点が、パートナーシップ証明書が他の都市とは位置づけが異なっているなど、その根源的な強さになっていると理解しました。条例の内容も性的少数者だけを対象としたものではなく、広く人権をテーマとしたものとなっており、区長が時間をかけて議論し、構想してきたものであることがよくわかります。条例は、ともすれば他都市のモノマネになってしまうこともありますが、「なぜ」当該自治体が性的少数者の課題に向き合おうとするのか、が非常に重要です。横浜市での取り組みは、一部当事者支援が始まっていますが、まだまだ遅れている状況なので、今後の取り組みを充実させる必要があります。

※参考:藤崎浩太郎の横浜市会平成28年度予算関連質疑(2016.2.26)から「性的少数者の支援について

藤崎浩太郎

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