図書館を中心とした複合施設と、街の魅力。武蔵野プレイス視察。

2017-11-15 16:02:34 | カテゴリ:活動報告


武蔵野プレイス

11月14日、武蔵野市の知的創造拠点「ひと・まち・情報 創造館 武蔵野プレイス」の視察を行いました。

横浜市では現在、公共建築物の再編整備の方針について検討、議論が行なわれています。人口減少社会を迎え、人口増加期に建設された公共施設も、老朽化に伴う建替え費用や維持管理費などに課題を抱えるようになっています。これまで別々の施設で提供されていた「機能」を、1つの施設に統合し、複合施設として再編整備されていくことになっていきます。

先日、10月24日に横浜市会で行われた平成28年度財政局決算審査では、この公共建築物の再編整備についての議論を行っています。単純に数を減らせばアクセシビリティが低下したり、全体の面積なども減少すれば、利用のしやすさにも影響するかもしれません。また、横浜市は図書館政策に課題があり、館数や蔵書冊数は政令指定都市の中で最低レベルとなっています。これまでも、いくつかの図書館の視察を行ってきていますが、武蔵野プレイスも図書館機能を中心に多くの来訪者がある施設となっています。財政局との議論の中でも、図書館や図書の貸出機能をいかに充実させていくかの議論を行ってきています。今年の5月には本会議の一般質問にて、図書館の充実を市長に求めてきました。財政的な課題もあり、再編整備は避けられないことだと考えますが、単純に数も、利便性も、魅力も減らしてしまうのではなく、複合化を機会にして、機能の向上や、質の向上、横浜市の魅力向上につなげていく必要があると考えています。今回の視察はこうした、図書館の複合化による都市の魅力づくり、という視点を持って行っています。

武蔵野プレイス

年間195万人が訪れる

武蔵野プレイスは武蔵境駅の目の前に位置し、図書館機能、市民活動支援機能、生涯学習支援機能、青少年活動支援機能、の4つの機能を備えた複合施設となっています。元々は農林省食料倉庫跡地だった土地を、平成10年(1998)に取得し、長年に渡る議論の末、平成19年(2007)に「武蔵野プレイス(仮称)管理運営基本方針」の策定に至り、平成23年(2011)7月9日にオープンを迎えます。基本コンセプトとして描かれたのは、「拡張された図書館」、「地域の知を共有する場」、「知的活動を通して市民が市民に出会う場」という3つの視点です。市民が一番長く滞在する公共施設の代表が図書館であり、図書館機能を拡張させることで、市民同士の交流の場に変化させ、青少年や、若いビジネスマンのようなこれまで図書館に足が向かなかった層にも興味を持ってもらおうというのが1番目の視点。地域の情報を収集し、大学などとも連携を行いながら、ナレッジセンターとしての役割を果たしていくことが、2番目の視点。創造性には異なる分野からの刺激が必要であり、多様な人々が活動や交流を行い、新しい何かを生み出す快適な空間であるということが、3番目の視点。単なる図書館でも、勉強スペースでもなく、異なる機能がお互いを補完し合い、市民が市民と出会い、より地域コミュニティを豊かにしていく場として、武蔵野プレイスが建設されます。

当初は年間80万人程度の利用を想定していたものが、現在では年間195万人もの利用者がある、非常に人気の高い施設となっています。今年の7月には延べ来館者数が1,000万人を超えています。市内に3館(駅勢圏毎に1館)ある図書館の中でも最も新しく、蔵書数は約18万冊、貸出数は約116万冊/年。中央図書館は蔵書が約50万冊と最大ですが、中央図書館の貸出数は81万冊/年程度。来館者数だけでなく、図書の貸出数の多さからも、実際に利用される方が多いことがわかります。隣接する、三鷹市、小金井市、西東京市、杉並区、練馬区とは相互利用の協定が結ばれていて、武蔵野プレイスの利用者の半数は市外の利用者となっているそうです。駅から近く、新しく、オシャレで居心地のいい空間が提供され、開館時間も9:30〜22:00と遅い時間でも利用でき、毎年視察が70〜80件もあるという注目施設なこともあり、大勢の利用者を招き入れているのではないかと考えます。

図書館を中心とした、交流の仕掛け

地上4階、地下2階(地下3階は駐車場)の各階には、メインライブラリーやこどもライブラリーといった図書館機能と、生涯学習機能の多目的室のフォーラムや学習コーナー、市民活動支援機能として市民活動スペースや市民活動情報コーナー、青少年活動支援機能のラウンジ形式のフリースペースやスタジオなどが配置されています。1階にはカフェがあり、入館すると美味しそうな香りが広がります。17時以降はアルコールも提供されます。各階を歩くとよく分かるのは、図書館機能の位置づけではない場所にも、関連する書籍が配置され、活動に関係する知識・情報が簡単に得られるようになってる点。訪問時には「武蔵野地域自由大学」の講座がフォーラムで行なわれていましたが、テーマは「夏目漱石と近代日本」となっていて、書籍に関係する内容となっていました。地下2階は20歳以下を対象とした青少年活動支援のエリアとなっていて、勉強もゲームも卓球もバンドも、色んな活動ができるようになっていますが、その一角にも書籍が置かれていました。1階には生涯学習支援機能としてギャラリーがあり、女性に対する暴力をなくす運動についての展示が行なわれていましたが、その一角にも、DVなど関連する書籍が置かれていました。市民活動情報コーナーには、各種地域団体の資料が置かれている他、街づくり関連の雑誌が置かれていたりします。貸出は、完全にICタグの読み取りよる自動貸出となっていて、返却も自動返却でした。1階にのみ貸出コーナーがあり、仕切りの少ない館内を自由に回遊し、読書目的だけでなく、様々な活動を知りながら情報を得て、好きな本を借りることができる作りになっています。

藤崎浩太郎

街の魅力の向上と地価の上昇

今回特に知りたかったことは、魅力のある施設の建設によって、地価や人口の上昇に影響があるかどうかでした。市としてちゃんと調査してきたことがなかったようですが、私達の視察に合わせて、公示地価の変動や、基準地価の変動などいくつかの数字を調べていただきました。

地価公示価格の変動率については、平成23年の住宅地では多摩地区での変動率が前年比−1.8%、区部では−1.3%、都全体では−1.3%で、武蔵境近辺では0.0〜−0.1%。これが平成26年には多摩地区1.1%、区部1.8%、都全体1.4%に対し、武蔵境近辺では1.6〜1.9%。平成29年では、多摩地区0.7%、区部3.0%、都全体1.9%に対し、武蔵境近辺では2.1〜4.0%となっています。

基準地価の変動率では、平成23年の住宅地前年比、多摩地区は−1.4%、区部が−1.3%、都全体が−1.3で、武蔵境近辺では0.0〜−0.1%。平成26年では多摩地区1.0、区部が1.9、都全体では1.3%、武蔵境近辺では1.2〜2.9%。平成29年では、多摩地区0.7、区部3.3、都全体1.8に対して、武蔵境近辺では4.0〜4.8%となっています。公示地価、基準地価ともに、平均よりも高い上昇率を示していることがわかります。

またJRの吉祥寺駅、三鷹駅、武蔵境駅の1日平均の利用者数も調べていただきました。平成23年で吉祥寺駅が137,555人で前年比−0.2%。三鷹駅が89,295人で−1.0%。武蔵境駅が61,072人で0.0%。平成26年では吉祥寺駅139,580人で1.2%。三鷹駅が92,836人で0.1%。武蔵境駅は65,384人で0.1%。平成28年では吉祥寺駅が141,640人で0.2%。三鷹駅は95,968人で1.2%。武蔵境駅は67,667人で1.3%。となっています。平成23年から28年の上昇率でみると、吉祥寺駅は3.0%増、三鷹駅は7.5%増、武蔵境駅は10.8%増となります。

市政アンケートにおいても、「市民活動・文化・生涯活動支援」を評価する意見が上昇していて、武蔵境圏(図書館ではなく圏域)では平成21年19.9ポイントだったものが、平成22年25.3、平成23年42.6と武蔵野プレイスの開館により大幅に上昇しています。平成28年でも44.6となり、吉祥寺圏域の29.2、中央圏域の34.4に対して、高い数字となっています。

武蔵野プレイスとの因果関係を綿密に調査した上での数字ではありませんので、参考数値となりますが、地価や駅利用者の高い上昇率が見られます。市政アンケートからは、武蔵野プレイスの半数の利用者が市外とは言っても、市民も十分効用を得られていると考えられます。1つの複合施設の誕生により、住民サービスが向上し、街への来訪者が増え、消費や地価の上昇という経済効果も得られれば、ただのハコモノ行政とは異なる、縮小社会における新たな価値の提示になるのではないかと考えます。こうした効用を得られるようにするためには、単純に機能を1つの施設にまとめれば良い、という発想では不十分です。

これまでも武蔵野プレイスについては、「多機能が融合できているのは武蔵野プレイスくらい」と評されたことがあるそうで、多くの多機能施設は「多機能併存」となってしまい、館内での縦割りに終わっているケースが多いそうです。横浜市においても、冒頭に書いた通り、今後公共施設の再編整備により、複合化が行われていこうとしています。武蔵野プレイスの事情とは異なる背景によっての議論にはなりますが、横浜市の魅力や住民への行政サービスを低下させることなく、いかに複合化を通じて魅力を高め、住民の満足度を高めていけるかを検討し、取り組んでいく必要があります。

藤崎浩太郎

武蔵野プレイス
1階のカフェ

武蔵野プレイス
自動貸出機。1人10冊まで。

武蔵野プレイス
自動返却窓口。

武蔵野プレイス
4階のフォーラムでは、夏目漱石の講座。

武蔵野プレイス
3階の市民活動ワークラウンジ。会議や作業ができる。

武蔵野プレイス
2階のこどもライブラリー。

武蔵野プレイス
地下1階のメインライブラリー。

武蔵野プレイス
1階の新聞マガジンラウンジ。

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