都市の拡大制限と立地適正化。札幌市のこれからのまちづくり。

2018-07-22 00:26:36 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

7月20日は今回の視察最終日。札幌市役所に訪問し、「札幌市立地適正化計画」と、市街地再開発事業「さっぽろ創世スクエア」について、伺いました。

市街化区域拡充の停止

札幌市も例外なく人口減少期を迎えようとする中、人口急増期に整備した多くの公共施設の老朽化対策など、行財政運営を大きく左右する課題を目前に控え、如何にして都市機能や経済活動を維持し、活発にしていくかが課題となっています。ピーク時の1972年には約5万人の人口増加があったものが、2002年には約1万人に落ち込み、2004年に策定された都市計画マスタープランでは、市街地整備の考え方を転換することになります。人口推計などから、市街地整備には今後、大幅な拡充は必要はないものの、民間の拡大開発意欲は衰えていないという状況にあり、従来の市街地を拡大していく都市づくりから、持続可能なコンパクトシティへの再構築が目指されることとなります。この方針転換によって、2004年の都市マス策定以降は、新たな住宅開発を目的とした市街化区域の拡充が行われることがなくなります。

立地適正化計画で重要となるのは、「居住誘導」です。人口減少と高齢化、拡散した市街地という都市の課題を解決するには、市街化区域の拡大を止めるだけでなく、コンパクトシティを形成することを通じて、生活利便性の向上、地域経済の活性化、行政コストの削減、環境負荷の低減を実現する必要があります。そのためには、居住を含めて都市の活動を、政策によって誘導していく必要があるため、2016年3月に「札幌市立地適正化計画」が策定されます。

集合型居住誘導

札幌市が行った居住環境に関する市民アンケートから、市民の住環境に関する意向が明らかにされていきます。住環境として重視するポイントが、買い物や通院なのど利便性と、公共交通の利便性の高さであり、全体の約8割の方が現在住んでいる地に住み続けたいと感がていること。また、住み続けたいと思う理由には、郊外に住む方は地域や住宅に満足している傾向が強く、拠点エリアや複合型高度利用市街地に住む方は利便性の高さに満足している傾向があることなどが明らかになっていきます。

土地利用の状況としては、1,000㎡以上の低未利用地は市内に約550haあること、新耐震基準以前に建てられた老朽共同住宅が立地している1,000㎡以上の敷地も約450haあることが分かり、地下鉄沿線なども含めて建築物の更新等が今後も見込まれる状況にあることが分かります。公共交通の利便性については、地下鉄やバスなど公共交通機関に乗車するまでの時間についての調査で、市街化区域のほとんどの区域で、公共交通に無理なく徒歩でアクセスできる範囲にあると判断されます。

こうしたことから、複合型高度利用市街地については、居住地としてのニーズも高く、将来的に人口密度の維持・増加に向けた取り組みが必要な地域もあり、集合住宅用地の確保も可能であることから、「集合型居住誘導区域」として、人口分布の偏在を是正しつつ、人口密度の維持・増加を図るため、土地の高度利用を基本とし、集合型の居住機能が集積することを目指す区域に設定されます。また、郊外住宅地の一部については、20年後も人口密度は概ね維持されるものの、一部では人口減少スピードが速まることが想定されることから、「持続可能な居住環境形成エリア」として、人口減少が進む中でも、生活利便性・交通利便性を確保しつつ、持続可能なコミュニティの形成を目指す区域として設定されます。

都市機能誘導

都市を形成する要素としては居住と共に重要なのが、都市機能です。人口減少、少子高齢化、そして長期的に効率的な行財政運営を行っていくためには、公共施設・サービスについてのあり方も重要となります。横浜市でも公共建築物の再編整備は課題となっていますが、札幌市でも平成26年の「札幌市市有建築物の配置基本方針」では、区民センターや図書館などの行政区単位に配置される施設について、複合化などによって、多くの人が訪れやすい都心や地域交流拠点に集約していくことが示されています。

都市機能誘導区域は都心と地域交流拠点に整理されています。都心は札幌駅や大通り、すすきの周辺。地域交流拠点は、主要な地下鉄やJRの駅周辺となります。都心には、国際競争力向上に資するような、高次都市機能を有する、MICEや高機能オフィス施設に、教育文化施設(大規模ホール)、多くの市民が利用する公共施設(区役所、区民センター、図書館、体育館、区保育・子育て支援センター)が誘導施設として位置づけられています。地域交流拠点には、多くの市民が利用する公共施設(区役所、区民センター、図書館、体育館、区保育・子育て支援センター)が誘導施設として位置づけられています。こうした誘導を進めるために、拠点や都心においては土地利用計画制度の柔軟な運用が行われようとしています。具体的には、容積率などの規制緩和と補助金を組み合わせることで、建替更新を促進するとともに、広場などのオープンスペースの整備を誘導しようという取り組みとなっています。

郊外住宅地のまちづくり

居住誘導や都市機能誘導の考え方に則って、すでに駅前再開発などの事業が進行しています。真駒内駅前では、廃校となった旧小学校跡地を中心に、駅前の土地利用の再編が目指されています。現在は駅近くに中学校、その隣に旧小学校、更に奥に行くと区役所等公共施設となっているものを、駅前に民間施設と公共施設を配置し、奥のエリアに中学校を移設しようという方針で、計画を策定している段階にあります。篠路地区においては、土地区画整理事業と鉄道高架下を進め、2025年頃に拠点としての機能を形成しようとされています。もみじ台地区においては、閉校となった旧もみじ台小学校と旧もみじ台南小学校の跡地を活用して、地域交流スペースや体育館の開放といった利用と合わせて、学習施設としての機能(もみじ台小)、福祉サービスの機能(もみじ台南小)を提供しています。

さっぽろ創成スクエア
さっぽろ創成スクエア

都心再開発「さっぽろ創世スクエア」と賑わいづくり

都心に位置する「創世1.1.1区(そうせいさんく)」では、今年の5月に「さっぽろ創世スクエア」が竣工し、10月オープンを目指して内装工事が行われています。市役所の斜め向かいで、大通公園にも近い恵まれた立地ですが、市街地再開発事業が始まるまでは、公共駐車場と民間駐車場と一部事務所ビルからなる1ブロックの大きな敷地でした。ビルの老朽化もありつつ、歩道幅員が狭いなど課題もあり、一体の再開発のリーディングプロジェクトとして、オフィスビル、放送局、札幌文化芸術劇場、公共駐車場等の入る高層棟124m、低層棟66mの大きなビルの開発が行われました。

開発にあたっては、多様な都市機能の融合により活力ある場を形成、創成川公園を中心に都心東西エリアのつながりを強化、創成川公園の水と緑を取り込み憩いの空間を創出、人の活動を中心に捉えた快適な歩行空間と交通環境を整備、世界から信頼される街を目指し環境配慮や低炭素化に取組む、大規模な災害にも機能継続できる施設へ、という6つの方針が示されます。この方針に基づいて事業者が設計を行い、ビルの内部には街路からそのまま通過できる貫通通路(パサージュ)が設けられたり、歩道側をセットバックすることで広い歩行空間を用意しています。

ブロックの各角地は辻広場として、イベントなどでも活用できる空地として整備されています。また辻広場と辻広場を結ぶ動線を建物内に「SCARTSモール」として配置し、ビルの内外の賑わいを結びつけて、ビルの外からも内部の賑わいが見えるように工夫されています。劇場は通常であれば1階に配置したほうが、機材等の搬入出がしやすいというメリットがありますが、創成スクエアでは4階に配置されています。これは、劇場の稼働時間を考えると、1階に出入り口などがある場合、稼働していない時間が閑散としてしまうため、ビルの1階は賑わいをもたせることを優先させた結果だと言います。

用途地域の見直し

今後は、平成30年度末に用途地域の見直しが行われることになっています。この見直しは、第2次マスタープランや立地適正化計画の策定を踏まえた見直しになる予定で、人口減少下における都市の魅力や活力の向上を目指す視点から行われます。見直し内容としては、(1)集合型居住誘導地区内の建物用途制限の緩和(建物用途の多様性を高め、魅力向上を図る)、(2)持続可能な居住環境形成エリア内の建蔽率の緩和(40から50%へ。近年の住宅規模の傾向に応じた建替えの下支え)、(3)都心における開発誘導方針の策定、(4)地域交流拠点の徒歩建寧の建物用途制限の緩和(建物用途の多様性を高め、魅力向上を図る)、(5)工業地等の用途制限の詳細化、(6)個別の土地利用の変化等への対応、の6つの方向での見直しが行われることとなっています。

約194万人の人口を抱える札幌市が、都市としての開発エリアの制限を行いながら、土地の用途を変更することや機能の集積を行い、土地の高度利用に舵をきっている現在の取り組みから、今後の札幌の都市あり方やブランディングがどのように行われていくのかに、高い関心を持ちます。開発の制限や土地の利用のあり方の見直しによる、都市の成長、ブランディングは、ポートランドなどの海外の都市においても見られる取り組みです。都市の生い立ちや、規模など違いを探せばキリがありませんが、横浜市も今後の都市のあり方として、見習う点が多いと感じました。

さっぽろ創成スクエア
さっぽろ創成スクエアの歩道から広くセットバックされた空間

さっぽろ創成スクエア
館内の書籍の貸し出しはしない、ビジネスユース向け情報館

藤崎浩太郎

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