フィンランドとの協働による、仙台市のリビングラボ型中小企業支援。

2018-08-25 01:02:06 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

8月23日、24日と、所属している「新たな都市活力推進特別委員会」の視察で、仙台市を訪れました。2日目の24日は、「仙台フィンランド健康福祉センター」(FWBC)の視察を行いました。

フィンランドとの協力合意書

名前の通りフィンランドと縁がある施設ですが、元々はフィンランドが日本の都市に対して、連携先の募集をかけていたところに仙台市が応募し、十数都市の中から選ばれたことに端を発していて、「仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト協力合意書」が締結されたことで、2005年4月に10年間の取り組みとしてスタートしています。11年目となった2015年4月には、介護・福祉に限らず、Wellbeing(ウェルビーイング)という言葉を含むQOL(生活の質)の向上に資する様々な分野を対象に広げ、製品・サービス開発や、事業支援の推進などに関する、新たな合意書が締結されています。

センターの運営を行っているのは、仙台市の外郭団体「公益財団法人仙台市産業振興事業団」。地域経済の振興のために、起業支援や、経営支援、新規事業展開支援、販路開拓支援、雇用支援、などを行っています。初日の視察でも仙台市の職員の方から説明がありましたが、最近は「アシスタ」という起業支援センターを立ち上げて、より起業しやすい環境整備の構築に取り組んでいる団体です。

仙台フィンランド健康福祉センター

実証実験を可能とするリビングラボとしての開発支援

FWBCでは、企業の商品開発のフェーズである、①研究→②開発→③事業化→④産業化、という流れのうち、②開発と③事業化の部分に特化した支援が行われています。企画段階では、Wellbeing研究会という、有名な方を東京などから招いての勉強会を開催したり、実際の介護現場への訪問や実務者からのヒアリングを通じたニーズ掘り起こし事業などが行われています。

FWBCの強みの1つは、隣接して特別養護老人ホーム「せんだんの館」が存在していることです。法人としては別組織ですが、東北福祉大学の関連施設となっていて、フィンランドのノウハウを取り入れた「北欧型福祉施設」となっています。北欧型とは、「自立=残存機能維持」を実践する施設で、5年後、10年後を予測した健康寿命への自立支援が行われています。館内には、フィンランドの施設には欠かせないということで流水プールが設けられていたり、トレーニング施設が充実している他、サウナがあったり、ムーミンカフェという一般利用可能(要予約)なサービスが提供されています。

こうした、支援センターと実際の福祉施設が協働し合える環境にあるのが、FWBCの特徴、強みとなっています。支援の中ではフィールドテストや、福祉現場からのアドバイスをもらえたりと、企業と支援センターと福祉現場という3者の連携によって、効果的な開発を行えるようになっています。ご説明の中でも指摘されていましたが、表層的な課題を聞いただけでは、サービス・製品を開発する企業側も独りよがりなモノを生み出しがちで、実際の現場では役に立たないということが多く生じていると言います。効果の実証実験を行える、リビングラボとしての機能を持つことによって、仙台市の中小企業にとっても、福祉施設やそこで働く人にとっても、本当に必要なサービス・製品が開発できるようになり、実際のビジネスにも有用なものとなっています。

事業化のフェーズにおいては、首都圏で行われる展示会への共同出展などが行われています。大きな展示会などは、1ブース借りるのにも100万円といった金額が必要になります。中小企業が1社で借りるには大きな額なので、市がブースを借り、そこを市内企業が3万円などの小学で間借りをするという方法での支援が行われています。

仙台フィンランド健康福祉センター

フィンランドと、国際化支援

フィンランドの政府や企業との連携のもと、健康福祉分野を中心に、国際化支援が行われているのも、FWBCの特徴の1つです。フィンランド企業の日本進出の支援も行われているので、東京ビッグサイトで行われた「国際福祉機器展HCR」への出展を共同で行ったり、東京ゲームショウへの出展支援が行われてもいます。一方で、仙台からフィンランド、EUへの海外展開支援も行われていて、医療展示会「DOCTOR (LÄÄKÄRI) 2018」に4社の仙台企業が出展するなど、実績を残しています。フィンランドはEU加盟国なので、フィンランドへ輸出できればその先のEUへの展開も可能になることを仙台市としては視野に入れていて、およそ550万人の人口の国を、1つのテストマーケティングの場所としても考えているということでした。

大学間連携支援も盛んで、仙台市内の東北大学歯学部とオウル大学、宮城大学とタンペレ大学、東北福祉大学とラウレア応用科学大学、仙台大学とカヤーニ大学、仙台高等専門学校とオウル工科大学、東北大学とトゥルク応用科学大学、仙台高等専門学校とメトロポリア応用科学大学など、10の連携が行われています。企業と大学との連携も行われていて、フィンランドのトゥルク応用科学大学と、仙台の株式会社TESS(足こぎ車椅子COGY)との共同事業が行われていたり、GLS(グローバルラボ仙台)とオウルゲームラボ(オウル大学)との協働から、3年で500ものソフトが開発されています。フィンランドからの輸入支援については、13件(11社)の実績があり、内訳は、輸入先探索5件、契約1件、新規輸入4件、継続支援3件となっています。またフィンランドへの輸出支援は4件(4社)で、販売先探索2件、継続支援2件となっています。これまでの実績から、協力合意書による国ー都市間協力が実際に形となって動いていることがわかります。

※累積の事業成果:
 ・国際事業提携 のべ64件(2018年3月末)。
 ・ビジネス開発委託事業 採択64件、事業化25件(2017年まで)。
 ・研究開発 仙台ーフィンランド共同研究3件、仙台での実証実験1件、データ検証・市場調査17件。
 ・訪問者(訪問団含む) 国内11,028名、海外1,137名(2018年3月末)。

ケアテック(Care Tech:介護×IT)とインターン制度

今後注目なのは、ITを介護現場に導入し、本当に役立つソリューションを提供しようという、ケアテック(Care Tech)です。介護とIT(テクノロジー)を融合させて、IT事業者の介護分野への新規事業展開を推進すると共に、介護現場の労働負担の軽減や、生産性の向上、高齢者の自立につながるIT製品・サービスの開発支援を行おうと注力されています。現在IT企業に限ると約40社がFWBCに参加していて、①ニーズリサーチ、②製品・サービス開発委託、③効果実証サポート、④導入・定着支援、という4つのフェーズを、1つのサイクルとして回せるような支援が行われています。福祉施設との深い連携を得られる、FWBCならではのサイクルとなっています。

これから始まろうとしていた、興味深い取り組みが「インターンシップ制度」です。これは大学生によるインターンシップではなく、IT企業等の従業員によるインターンシップ。勉強会なども行いながらも、やはり実際の現場に入り込むことがもっとも現場のニーズリサーチには最適だという考えから、今年度初めて取り組まれる事業。すでに希望企業の募集は終わっていて、3つの施設・企業への受け入れに対して、それぞれ10社ずつ(重複あり)手が挙がっているといいます。9月中には実際のインターンシップが始まる段取りで、企業の参加費は無料となっています。インターンシップといっても、中小企業向けに行われるので、ある従業員が毎日施設に駐在するというわけにもいかないので、週に何日とか、月に何日とか、それぞれの都合に応じて実際の現場に携われるようにしていく取り組みです。

費用対効果

2005年から昨年2017年までの13年間で、約17億円の事業費が投じられてきています。施設の一部にはレンタルオフィスが設けられていたりするので、事業収益も多少あるものの、予算のほとんどは市からの助成金での運営となっています。これまでも、17億円の事業費に対しての効果がどれだけあったのか、という指摘がなされてきているそうです。FWBCとしては、FWBCの活動を通じての地元企業の売上は40億円、介護施設の運営における売上が105億円、というのが金額での実績として示されていて、その他、フィンランドプロジェクトに合わせて作られた福祉施設が2ヶ所、というのも効果として示されています。

まとめ

国と都市のパートナーシップという、珍しい形式での取り組みでしたが、13年に渡る協働が着実に回っていて、ケアテックへの進出や、インターンシップ制度の開発など、実績に基づく新たな展開も形成されていて、中小企業支援や、公民連携、オープンイノベーションの創出といった、横浜市が現在進めている取り組みにも大変参考になる事業でした。その中でも特に、福祉施設という実際の現場を協働のパートナーとして抱えていて、事業のシーズを具体的なニーズと照合したり、ニーズから事業を企画したり、実証実験によって効果測定を行い、改善につなげることが可能であったりと、支援される中小企業と、導入される福祉施設の双方が確実にプラスになっていく仕組みが構築されている点が優れていて、こういう恒常的な関係を築ける場や組織の重要性を感じました。

仙台フィンランド健康福祉センター
センター1階のこれまで開発された製品の展示

仙台フィンランド健康福祉センター
1階の展示

仙台フィンランド健康福祉センター
2階にはレンタルオフィスがあり、写真はサロン。家具はフィンランド製品。

仙台フィンランド健康福祉センター
隣接する特別養護老人ホーム「せんだんの館」

せんだんの館
せんだんの館内の流水プール

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