自転車活用と、人を中心としたまちづくり。金沢市視察。

2018-11-02 00:09:06 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

2018年10月31日、所属する常任委員会「建築・都市整備・道路委員会」の視察で、金沢市を訪れました。目的は、金沢市の取り組む自転車施策について伺うため。国においては2016年に自転車活用推進法が策定され、今年の6月には国土交通省によって自転車活用推進計画が策定されています。横浜市においては、2016年に「横浜市自転車総合計画」が策定されていますが、国での自転車活用推進計画の策定を受けて、現在総合計画の見直しが行われ、従来の安全利用などの内容に自転車の利活用の視点を新たに加えて、横浜市自転車活用推進計画としてリニューアルしようとしています(※参照:http://www.city.yokohama.lg.jp/doro/plan/bicycle/h26/)。

金沢市の取り組みと条例改正

金沢市では2004年に「金沢市歩けるまちづくり基本方針」を策定し、2005年以降地域と「歩けるまちづくり協定」を締結するなど、モータリゼーション時代の自動車中心のまちづくりから、歩行者重視のまちづくりへのシフトを始めていました。大きな戦禍を被ることなく、藩政期からの町並みが維持されてきたことによって、道路が細く曲がりくねっているという特性から、慢性的な渋滞や、環境問題、地域コミュニティや賑わい空間の喪失、といった課題が生じていたものを、自動車から歩行者へまちづくりの主体を変更することで、解消しようと取り組みがスタートしていました。

自転車の利用に関しては、自動車社会であったために、自転車の利用率(分担率)が10.2%と、他都市と比べても低い状況にありました(パーソントリップ2007年調査)。2014年には自転車の安全利用のために「金沢市自転車条例」が制定されましたが、(1)全国的に自転車事故による高額賠償事例の発生が相次いだこと、(2)北陸新幹線の開業によって来街者が増加したこと、(3)市内の自転車交通事故件数が増加したこと、の3つの理由により、2018年4月に条例の一部改正が行われています。条例改正のポイントは、(1)自転車損害保険の加入義務化、(2)乗車用ヘルメット着用の努力義務化(中学生以下、70歳以上)、(3)自転車が「車両」であることの明記、(4)自転車通行空間整備の推進などその他、となっています。神奈川県下では相模原市でも条例が制定され、自転車賠償保険の加入義務化が行われています。現時点では、神奈川県も同様の条例制定を行おうとしています。

自転車利用環境向上計画

金沢市では条例に先立つ2011年3月に、「金沢市まちなか自転車利用環境向上計画」を策定しています(2019年度までの10カ年計画)。自転車の環境負荷の低い交通手段としての側面、健康志向の高まり、自転車関連事故の対応、という3つの側面から、自転車利用ニーズが高く、解決すべき問題が多い中心市街地(まちなか)を対象として策定されました。金沢城公園を中心に半径2km圏内を、当初の「中心市街地(まちなか)」と位置づけ、自転車通行空間整備(はしる)、駐輪環境整備(とめる)、自転車利用促進(つかう)、ルール・マナー向上(まもる)、の4つの柱を据えた計画となっています。策定のための策定委員会は2009年に設立されていて、これまでの取り組みは先進事例としても紹介されてきています。

2014年には、「自転車通行空間整備ネットワーク」が設定され、自転車利用ニーズが高い路線の抽出による優先順位付けが行われ、自転車交通量の多い路線、通勤通学などで利用量が多い路線、道路網の連続性、といった観点から、幹線ネットワークと裏道ネットワークという「まちなか自転車ネットワーク」が設定されていきます。2016年には自転車利用環境向上計画の中間見直しが行われ、4本柱を基軸にしながらも市域全体での利用環境向上が目指されるようになっていきます。2017年には半径5kmまで拡大した広域的な自転車ネットワーク路線の設定が行われるなど、着実に施策の展開が拡大されてきました。2013年には「金沢自転車通行空間整備ガイドライン」が策定され、2015年には第1回の改定、2017年には第2回目の改定が行われるなど、形だけの計画、ガイドラインではなく、具体的な施策としてしっかりと展開されていることがわかります。

世界的なトレンドである人中心のまちづくり

2011年には設置された「金沢自転車ネットワーク協議会」が、上記のネットワークの策定を行っています。この協議会はこれまで17回開催されたきたということですが、基本理念には「自転車通行空間整備は「人中心の交通体系」を支える一つの手段であることを前提とし」ということが位置づけられています。人中心でのまちづくりの取り組みは、海外ではニューヨークやポートランドの事例などが注目されてきましたが、自動車中心のまちづくりから、人中心、歩行者中心のまちづくりへのシフトは、世界的なトレンドとも言えます。

金沢市では道路が狭いという課題があり、「自転車専用通行帯」の整備よりも、「自転車走行指導帯」中心の整備が進められてきました。2011年には4.6kmだった通行空間整備状況は、2017年には32.9kmまで延長しています。そのうち、専用通行帯が2.6kmで、走行指導帯が28.4kmとなっているように、殆どが走行指導帯であり、また中心市街地には専用通行帯が無いというのも金沢市の道路事情を表しています。これまで全延長に対して事故件数の調査が行われていて、専用通行帯でも、走行指導帯でも、すべての延長において設置後は事故件数が半減していると良い、安全面で言えば両者ともに効果があることがわかります。また、走行指導帯の方が設置コストが低く抑えられるというメリットも指摘されていました。自転車事故の全体でみても、2017年の自転車関連事故の件数は2008年に比べて35%にまで減少していて、全国の減少率55%と比べて20% 低いところまで、大きく減少しています。

無料駐輪場とレンタサイクル

自転車の利用を促進するために行われてきたのが、駐輪場の整備拡大とレンタサイクルの普及です。2011年には33ヶ所だった駐輪場がを現在で44ヶ所まで増設していて、まちなかでも2008年に13ヶ所だったのが、2017年には18ヶ所まで増設されています。金沢市では駐輪場は無料で利用できるようになっていて、市民の方からすると無料が当然の施設なため、行政としても管理費等がかかるものの、必要な費用と考えているようでした。

「まちのり」というレンタサイクル(シェアサイクル)が、2012年3月より民間事業者によって運営されています。22ヶ所のポート、155台の自転車、249台分の駐輪ラックが整備されています。1日の基本料金は200円で、貸出から返却までが30分以内であれば、何回でも繰り返し利用でき、30分を超えると200円の追加料金が発生する仕組みとなっています。利用者の9割が観光客となっていて、北陸新幹線の開業に伴う来街者の増加に、うまく対応ができているようです。一方市民利用は1割ですが、駐輪場が無料であり、収容可能台数にも余裕があるため、市民は自分の自転車を利用する傾向が高いのではないか、というのが金沢市の見立てでした。現在「まちのり」は、2km圏内のまちなかのみで運用されていますが、来年度以降はリニューアルし、5km圏内まで拡大することも検討されていて、台地に及ぶ坂道の多いエリアに展開されることから、電動アシスト自転車の導入も検討されていました。

金沢市自転車走行指導帯
自転車走行指導帯

金沢市自転車走行指導帯
自転車走行指導帯

藤崎浩太郎

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