京都市の空き家活用と流通。そして地域の広場化(まちなかコモンズ)。

2018-11-02 01:26:14 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

2018年11月1日、所属する常任委員会「建築・都市整備・道路委員会」の視察で、京都市を訪れました。目的は、京都市の空き家対策について伺うため。これまで京都市では、空き家の改修助成について250件の実績がある他、「京都市空き家の活用、適正管理に関する条例」が2014年4月に施行され、総合的な空き家対策が行われてきています。横浜市も約17万8千戸の空き家を抱え、2016年2月に策定した「横浜市空家等対策計画」の改定作業が現在行われています(※参考:横浜市空家等対策協議会)。

京都市の空き家の現状と方針

空き家の課題は、建物の倒壊など防災面、放火などの防火面、不審者の侵入など防犯面、スズメバチやネズミの発生といった衛生面、そして景観面の5つに整理されます。古い建築も多く残る京都市において、町家等を活用したリノベーションが進む一方、腐朽する建物は街の景観を悪化させ、来街者の多い都市としては大きな課題です。京都市の空き家率は14.0%と全国平均の13.5%を上回り、特に戸建住宅の割合が政令市の中で最も高い、という特徴があります。市内に約40,000軒ある京町家のうち、約5,800軒が空き家となっています。

空き家のうち「その他の空き家」の割合は39.5%と高い状況にあります。2013年に行われた住宅・土地統計調査の結果では、空き家が114,290軒と把握されていて、「その他の空き家」の率を考えると、およそ45,000戸の「その他の空き家」が存在すると推計されています。これまで市民から空き家に関する通報があったのは1,700戸に対して(2016年度末)ということで、潜在的な空き家は43,300戸と推計され、取り組みが進められています。

条例においては適正管理だけでなく、空き家発生の予防、空き家の活用、跡地の活用が定められています。基本理念では、(1)建築物が京都のまちを構成する重要な要素であること、(2)空き家は地域コミュニティの有用な資源として積極的な活用を図ること、(3)既存建築物の保全、活用、及び流通を促進すること、(4)地域コミュニティの活性化を図ること、といった観点から空き家対策を進める事が定められています。

活用と流通促進

京都市の空き家対策の特徴の1つが、活用・流通の支援に注力していることです。総合的なコンサルティング体制を整備するために、研修を受けたまちの不動産屋さんを京都市が「京都市地域の空き家相談員」として登録したり(2017年度末259名)、建築士や相談員の無料派遣を行う「専門家派遣」が行われています。取っ掛かりとなる入り口において、気軽に空き家の相談ができるようになっています。

また「地域連携型空き家対策促進事業」として、町内会などの自治組織等と、コーディネーターや専門家(学識経験者や不動産事業者等)と、行政とが連携した取り組みが行われています。住民や所有者向けセミナーの開催が行われたり、現状調査や所有者の活用意識調査、空き家マップ・台帳の作成、所有者への活用提案などが地域に対して行われ、専門家がその支援を行っていきます。活動経費には1団体につき年間最大50万円(4年間)の助成金が、行政から支援されます。2017年度末で、46団体・55地域が事業に取り組んでいます。取り組みの1つである「六原学区(東山区)」では、まちづくり委員会によって著された啓発冊子『空き家の手帖』が出版されたり、空き家の見守りから、改修、活用まで一貫した支援が行われていて、ボランティアによる片付けの支援までもが行われています。

地下鉄駅周辺などの利便性が高い地域等は「重点取組地区」に設定され(出町柳、山科、西院、京都駅東南部の4ヶ所)、空き家所有者を調査し、活用の働きかけを直接行っています。所有者に活用意向があれば、空き家相談員に取り次がれ、具体的な取組に移行していきます。2017年度には、重点地区内に725軒の空き家を特定し、そのうちの415軒の所有者にアンケート調査票を発送し、その中の9軒が実際に活用に向けた動きにつながっています。

空き家活用・流通支援等補助金

この活用や流通を促進するために、「空き家活用・流通支援等補助金」が用意されていて、(1)活用・流通促進タイプと、(2)特定目的活用支援タイプ、の2つのタイプに分類して支援が行われています。「活用・流通促進タイプ」は、市場に流通していない空き家を活用するために、所有者の後押しをするためのもので、修繕・模様替え、家財の撤去等の費用の一部を助成するもので、1年以上居住者がなく、売却用又は賃貸用でない戸建て・長屋建て住宅に、工事費用の1/2かつ上限30万円(京町家等の場合は上限60万円)という内容になっています。「特定目的活用支援タイプ」は、留学生の住まい、若手芸術家等の居住・制作の場、京都版トキワ荘事業、京町家のゲストハウス等、京都市の政策目的に沿った特定の用途で空き家を活用する場合に助成されるもので、現に居住者がなく、売却用又は賃貸用でない戸建て・長屋建て住宅及び店舗に、工事費の2/3かつ上限60万円(京町家等の場合は上限90万円)という内容になっています。

2014年度〜2016年度の3ヵ年度行われた補助事業に「空き家活用モデルプロジェクト」という、最大500万円の助成が得られる、提案型で公開審査によって選定が行われた事業がありました。3ヵ年度で計9件が認定され、選定プロジェクトである「itonowa」も現地視察をさせていただきました。背中合わせの2軒の京町家を中庭でつなげて、カフェやギャラリー、ショップが入居する、文化交流スペースとして生まれ変わっていました。現在では、全国で流通する雑誌など、各種メディアでも取り上げられていて、リノベーションの成功事例としても注目されています。

まちなかコモンズ整備事業

京都市の取組で興味深かったのが、空き家除去後の空き地を、公開空地として活用する方法も持っていることです。密集市街地における防災性向上のための取組として行われているもので、「まちなかコモンズ整備事業」と名付けられています。避難地の確保など地域防災上有効な「ひろば」として所有者が土地を提供する場合(定期借地)、建物の除去費用(最大100万円かつ工事費の9/10)と、ひろばの整備費(最大200万円)を助成するものとなっていて、所有者の固定資産税は非課税となります。ひろばの管理は自治会が行うことになっていて、倉庫や、ベンチ(かまどベンチ)、囲いなどが設置されています。木造建築物の密集する京都市において、火災の延焼防止にもなり、一時的な避難場所になるほか、防災活動の拠点として活用されることが想定されています。普段は地域の公園的な場所として、憩いの場、子どもたちの遊び場として活用されます。事例としては、今の所1件のみということでしたが、空き家対策が進むと、場所によっては空き地問題が生じることにもなるので、空き地の活用の在り方として今後示唆に富む事例です。

これからの課題

空家条例が制定され4年が経過した京都市においても、まだまだ課題があり、解決の方向性を検討しながら進めているという状況にありました。空き家に関する通報が増えている一方で、空き家対策が進んでいるという実感が、市民にあまりない状況にあり、目に見える、実効性のある取組に進化させていくことが課題となっています。これまでの総括から、課題の領域は、「個人」、「地域」、「行政」に分類されています。個人に関する課題としては、自身にとって身近な課題であるという自覚不足と、誰に相談して良いのかが分からないこと。地域に関する課題としては、個人の財産で他人が口を挟むものではないという誤解と、活動を先導する担い手不足。行政に関する課題としては、縦割りで横の連携が不足し融合できていないことと、分かりやすい情報発信が不足していること、と整理されています。

課題解決の方向性としては、(1)自分ごととしての受け止めをしてもらうためには、危険家屋が一部の特殊事例ではなく、身近に起こりうる問題として共通認識を持ってもらう、(2)他施策との融合を図るためには、比較的関心が高い話題に絡めて間口を広げる工夫をする、(3)専門家(学生)のノウハウや協力を得るために、行政職員による体制が問題なのではなく、ノウハウのある専門家の協力を仰ぐほうが効率的である、(4)積極的な広報活動のためには、空き家に関する様々な課題があり、相談先も多岐に渡っているため、分かりやすい情報発信が必要である、という4つの軸での整理が行われています。とはいえ、まだまだ解決策については手探りで、これから如何に取り組みを進化させていけるかが、これからの課題となっていました。

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藤崎浩太郎

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