「三方良し」の高齢者支援。中延商店会の取組み。

2014-06-13 02:41:54 | カテゴリ:活動報告


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6月12日、東京都品川区にある中延商店街で行われている、「街のお助け隊コンセルジュ」の取組みについて、ヒアリングに行ってきました。チーフマネージャーの青木さんが、ご説明をしてくださいました。

「街のお助け隊コンセルジュ」では高齢者生活支援として、庭木の剪定、エアコンの清掃、障子の張り替え、屋根の補修、家具の移動などなど、様々なサービスを提供しています。コレだけ書くと「便利屋さん」のようですがそうではありません。「高齢者に優しいまちづくり」をコンセプトに据えて、定年後まだまだ元気に働ける人達が、日常生活に困難を抱える高齢者を、有償ボランティアという形で支える取組みとなっています。

青木さんによれば、コンセルジュの取組みにおいて、草むしりや電球の交換、障子の張り替え等を充分に出来ずに、我慢している生活者の事を「日常生活難民」と位置づけています。中延商店街の商圏には、およそ1万人の65歳以上の高齢者が居るということです。この高齢者のうち、およそ30%は寝たきりや認知症等、ヘルパーさん等の介護が必要な方々。およそ40%は日常生活難民で、この方達はヘルパーがつかない。そして残りの30%は、まだまだ元気で、現職時代のスキルやノウハウを活かす働き場所が無い方々、ということでした。この40%の方々を、30%の元気な人達が、有償ボランティアという仕組みで支えています。

言葉の意味として「有償」は「ボランティア」ではありませんが、無償のボランティアだとサービスを提供する側も続けづらく、サービスを受ける側も遠慮して頼みづらくなってしまうので、コンセルジュの取組みでは、市場の70〜80%の価格設定で上記のサービスを提供しています。

売り手良し、買い手良し、世間良し

面白いのはここからです。この仕組みがよく出来ています。

利用者は年会費2,000円を支払い、さらにサービス利用のためのクーポンを購入します。クーポンは1枚1,000円となっていて、家具の移動なら2枚、食事づくりなら4枚と、サービス内容に合わせてクーポンの支払い枚数が決まっています(一部請け負い作業は現金支払い)。

サービスを提供する作業者も登録に年会費2,000円を支払います。作業者は作業終了クーポンを受け取りますが、毎月決まった日に受領したクーポンを、商品券に引き換えます。クーポン1枚あたり、500円の商品券(品川区商店街振興組合連合会発行)となるので、1,000円で購入されたクーポンのうち、500円は事務局の運営に、残りの500円が作業者に入る事になります。現金ではないので、商店会加盟店でしか利用できないわけです(地域通貨的)。利用者は安価に、安全にサービスを購入でき、作業者は生きがいを得て、健康増進にも繋がり、所得にもなり、商店街は商品券の利用によって消費、活性化につながるという仕組み。まさに、売り手良し、買い手良し、世間良しの「三方良し」な取組みとなっています。(さらに、生活習慣病予防に繋がり、医療費の削減にも繋がり、孤独死の防止にも寄与する等、行政へのメリットも描かれています。)

中延商店街街のお助け隊コンセルジュ

現在作業者として登録しているボランティアが、およそ90名。利用者登録はのべでおよそ900名となっているそうです。月の売上が100万円程度で、年間1,000万円の売上になっています。とは言え最近になって、ようやく黒字化してきたと言います。サービスをスタートした10年前は、補助金も受けていましたが、補助金が切れて以降は、青木さんが全て1人で切り盛りしているということでした。スタート当初は、地域の方からは「眉つば」で見られたそうです。青木さんは中延に住んでいた事も、働いていた事もない、完全なよそ者。低価格を売りにしても、裏に何かあるのではないかと勘ぐられてしまう。そんな中で当初は、とにかく一度会った人の名前を覚えて、次に会った時には必ず名前で呼ぶという、地道なことを取組みながら、少しずつ信用され、少しずつ利用され、少しずつ口コミで広がって行くという、積み重ねの中で認知、利用を広めて行ったと言います。現在では1日当り3件程度の相談、1月で50〜60件の相談を受け、成約は80%になっているということでした。

更に地域活性化の取組みとして、日本蜜蜂による養蜂事業も行い、地域に新しい仕事を創出し、商店街の特産品として売り出されたり、養蜂家とのネットワークを作ったりと、青木さんは様々なアイディアを実践に移しています。過去には、土日に閑散としてしまう商店街に人を呼び込むために(高齢者は病院が締まる土日には外出しないため)、足湯の装置を補助金で購入し、「高齢者に優しいまちづくり」の一環として無償で提供されたりもしています。

こういった取組みの背景には、明確なターゲティングがあります。若い人達は渋谷や銀座に買い物に行くので、上述の通り、商圏いる1万人の高齢者をターゲットに据える。且つ、国民年金受給で月額6万5千円の受給と考えると、2ヶ月に1度この商圏には、13億円が振り込まれる、と見込んでいます。このお金を商店街で使ってもらうためにも、「高齢者に優しいまちづくり」がコンセプトに掲げられています。例えば値札1つとっても、小さなタグに小さな文字では、老眼や白内障の方には見づらいので、大きい紙に、大きい文字で認識しやすくするよう働きかけたり、その他にもトイレやベンチ、商店街を駆け抜けて行く危ない自転車走行といった課題に取り組んでいるそうです。

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様々な取組みが評価されて、過去には中小企業庁の「がんばる商店街77選」に選出されたり、東京大学、日本大学、横浜国立大学などの研究室や学生による調査研究対象としても選ばれ、論文がまとめられたりしています。全国から視察も受け入れていて、各地の行政、議会、商工会、商店会、企業が視察に訪れ、テレビやラジオからもしばしば取材を受けていらっしゃいました。

中延商店街街のお助け隊コンセルジュ

何より参考になったのは、やはり地域通貨的に共通商品券を上手く活用し、高齢者支援と地域活性化を結びつけている仕組みでした。
中延商店街街のお助け隊コンセルジュ

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