11月16日、大和市の文化創造拠点「シリウス」の視察を行いました。
今回の視察の問題意識は、11月14日に行った武蔵野プレイス視察のブログでも冒頭に書いておりますが、
再編整備は避けられないことだと考えますが、単純に数も、利便性も、魅力も減らしてしまうのではなく、複合化を機会にして、機能の向上や、質の向上、横浜市の魅力向上につなげていく必要があると考えています。今回の視察はこうした、図書館の複合化による都市の魅力づくり、という視点を持って行っています。
というものです。
再開発事業の頓挫による、シリウスの誕生
シリウスの建設の経緯は、1990年代に遡ります。「大和駅東側第4地区」という再開発計画があり、再開発組合によって分譲マンションを中心とした再開発の取り組みが進められました。2006年には都市計画決定がなされましたが、2008年のリーマンショックにより事業者が撤退。再開発計画自体が頓挫してしまいます。そうした中で、再開発計画に関わってきた大和市としても、借金を抱えてしまった再開発組合を放っておくわけにもいかず、宙に浮いた土地の再開発に積極的に関わることになります。当時大和市では、文化ホールを新設したいという課題がありました。当時の生涯学習センターに隣接したホールは、昭和46年建築と老朽化し、600席しか無く音響も悪く、新たなホールが必要とされていましたが、一方ではいい土地が見つからないという状況にありました。こうした中で、再開発事業で生み出される保留床を大和市が買い取り、芸術文化ホールなどの公共施設を設置する計画として、再開発事業が前進することになります。建設には全体で160億円。そのうち市が購入した部分は147億円で、芸術文化ホール78億円、駐車場3億円、図書館44億円、生涯学習センター17億円、こども5億円となっています。年間の維持費としては、指定管理者「やまとみらい」への指定管理料が年間7億9800万円。その他、、区分所有によるビルの共同管理費用として年間1億円程度光熱費などを支払っていると言います。
オープン1年で来館者300万人
シリウスのコンセプトには「居場所づくり」が位置づけられています。また大和市は「第8次大和市総合計画」において、「健康創造都市やまと」という都市像を掲げ、人の健康、まちの健康、社会の健康の実現に取り組んでいます。高齢化が進むなかで、お一人様となってしまうと出かける場所がなくなってしまうという課題や、健康都市としての取り組みから、健康コーナーも設けられ、847席もの座席を用意した館内は、ゆっくりくつろぐことができるよう、座りやすい椅子が設置されています。大和駅から徒歩3分という好立地で、駅からプロムナードで結ばれているので非常に利便性の高い場所となっています。当初は年間の来館目標者数が150万人だったところ、オープンから1年で300万人もの来館者となっています。
1階はメインホールやサブホールの他、STARBUCKSが入っています。館内でドリンクを飲むのは自由となっているので、STARBUCKSで購入したドリンクを持って、図書館の本を読むこともできます。新刊図書なども並び、複合施設とは言え図書館の印象が全面的に出たしつらえとなっています。メインホールは1,007席、サブホールは272席で、これまで8割以上の稼働率となっていて、平日でも予約が取りづらくなっているそうです。
2階には有料の市民交流ラウンジがあります。有線LANや電源などがあり、ここは受益者負担の考えから2時間100円で利用することができます。また2階には、大和市役所の連絡所があり、戸籍や住民票の発行などの市役所の窓口業務の一部を利用できるようになってる他、市の外郭団体である大和市イベント観光協会も入居しています。
3階は大和こどもの国とされ、3歳から小学2年生までが有料で利用できる、ボーネルンドプロデュースの「げんきっこ広場」があります。月に3,000人もの利用者があるという人気エリア。0〜2歳児向けには無料の「ちびっこ広場」があり、保護者がホールなどを利用するときに子どもを預けられる「保育室」や、おはなしのへや、こどもシアターブースなどが設けられています。こども図書館もこの階にあります。その他楽器や歌の練習ができる「スタジオ」もあります。
4階は健康都市図書館。「健康都市やまと」を支える施設として、血圧や骨健康度を測定する機械が置かれた「健康度見える化コーナー」や、健康関連の図書を集めた「健康コーナー」、健康に関連するテーマなど様々な講座が行われる「健康テラス」などから構成されています。そのほか、雑誌、マンガ、新聞コーナーや、予約本を自分で受け取る予約本コーナーなどがあり、1〜3階よりも「図書館」らしいフロアとなっています。5階も図書館ですが、4階は明るめの色調となっています。
5階がいわゆる「図書館」らしいフロアとなっています。館内には約39万冊の蔵書があり、月々5万〜6万冊の貸出があるそうです。ドアで仕切られた「読書室」があり、仕切られたデスクで、静かな環境の中、読書ができる部屋となっています。シリウスの施設内は、基本的におしゃべり自由となっているので、この読書室が館内で唯一のおしゃべり禁止スペースとなっています。こうした、館内での会話自由&その代わりに会話禁止ルームを設ける、という方式は海外の図書館でも見られたスタイルで、国内でも見られるようになってきた傾向です。図書館を「ただ読書する場所」ではなく、調べたことを話し合ったり、交流したりできるような場所として使うには必要なことですし、静かにして欲しい人とも棲み分けられるのでいい方法です。また5階には地域資料コーナーがあり、つきみ野にある「つる舞の里歴史資料館」から、収蔵品の一部を展示しています。4階と比べると、落ち着いた色調のフロアとなっています。
6階は生涯学習センター。いわゆる「公民館」の位置づけのフロア。大、中、小会議室と、講演や演奏会が可能な講習室、調理室、創作が可能な文化創造室など、予約制で有料の部屋が用意されています。利用には登録が必要となっていて、社会教育関係団体や市民の活動団体のほか、営利団体も登録可能なので、市民の様々な活動で利用できるようになっています。6階のもう1つの大きな面積を有している機能が、市民交流スペース「ぷらっと大和」。こちらは予約なしで自由に利用できるほか、食事も可能となっています。読書をしても、歓談しても、ゲームをしてもいいので、訪れた際も幅広い年代の方々が、1人だったり、グループだったり、様々な利用をされていました。
複合施設によって地域にどんな影響があるのか
武蔵野プレイスの視察同様、街の魅力や経済に対してどんな影響があるのかを伺いました。まだオープンから1年経ったばかりで、周辺への経済効果は測定されていませんでした。とはいえ、1日に約8,000人がシリウスを訪れていることから、駅からシリウスまでの通りは、多くの方が歩かれるようになっています。交通量調査でも、日中の歩行者の増加が確認されているそうです。今後は駅前周辺の再開発計画があり、相鉄はプロムナードの再開発を行う予定となっているそうで、大和駅周辺全体での活性化が見込まれます。その中でシリウスへの来訪者が生まれたので、今後の再開発のあり方にも影響を与えそうです。地価については、大和駅のシリウス側では路線価が1ポイント上昇し、駅の反対側は変化がないという話でした。公示地価なども調べたところ確かに上昇しているエリアがありますが、他と比べて顕著と言えるほどの変動にはなっていません。人口の社会増については、元々社会増が続いていて、1年前よりも2,258人の社会増があったそうです。大和市は合計特殊出生率が県内19市で最も高く、全国平均も上回る1.46を記録している状況にもあります。まだ1年なので数字などが把握できない部分も多いと思いますが、今後こうした視点でも注目したいところです。
全体の設計を行う上では、国内の各種先進事例を参考にされています。ガラス張りの外観は、長野県塩尻市の「えんぱーく」を参考にしていて、市長も、市議も視察に行ったそうです。サブホールの作り方は静岡県富士市の「交流プラザ」を参考にし、「武蔵野プレイス」も全体的に参考にしているそうです。市長から「1つの実験場と考えていい」といわれ、挑戦するように言われたことも、シリウス全体の設計や運営を大胆に行うことができる要因になっているそうです。
武蔵野プレイスでも、複合した機能を連携させていましたが、シリウスでも複合施設のメリットを活かそうと様々な取り組みが行われています。1周年記念に歌舞伎の公演が行われた際には、1階に歌舞伎の本を並べたり、ジャズのコンサートがある日はジャズの本を、落語の公演があった時は、子ども向けの落語講座が行われたそうです。ホールの収容人数は、大小合わせると約1,300人。満席で8割の稼働率だと、年間約38万人の来訪者がホール利用で訪れることになります。子ども向けのげんきっこ広場も月3,000人ですから、年間3万6千人。複合化によって多目的の方が大勢訪れることを最大限利用して、いかに「文化創造拠点」として、芸術文化や生涯学習の素晴らしさや、新しい知識や人との出会いに資することができるか、健康増進や居場所づくりを行い「健康都市やまと」を実現できるかに取り組まれていました。
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