「芝居」が必修。授業を通して、身につけることとは。

2011-11-11 02:03:51 | カテゴリ:活動報告


上海2日目、11月9日は3校を視察しました。1校目は、宋氏三姉妹も在籍していた「上海第三女子中学」。上海市長寧区に位置し、1881年創立の伝統校。上海唯一の重点女子中学です。これまで輩出した卒業生には、政治家、科学者、博士、芸術家、企業家、教育者、社会活動家などを多数輩出し、「女子人材の育成のための揺りかご」と称されています

芝居を通じて養う力

上海の重点校では、各校独自に特色クラスが設けられていますが、ここの学校の特色は「芝居」でした。英語を使った芝居の授業の様子をVTRで見せて頂きました。スクリーンには感情を表す単語がいくつか表示されます。そのうち1つを選び、どれを選んだかは他の生徒には伝えずに、単語を表現する演技を行い、周りの生徒に当ててもらうというものです。この授業を担当している先生は、なんとシンガポールから来ています。もともと、ここの学校はシンガポールとの交流が深く、南洋女子中学という公立校と姉妹校になっています。その交流を通じて、南洋女子中学で行われている芝居の授業を取り入れたということです。

芝居を授業化して、まだ2年目でしたが、上海市に予算申請を行い200万元を投じて劇場が作られました。200席あり、設備も充実していて、日本の公立校ではとてもお目にかかれないような、立派な劇場でした。芝居の授業は、英語だけでなく、中国語でも行われています。先生はシンガポールからですが、教材は独自で開発。高校1年生は、上海で唯一、芝居が必修とされていました。でも、何故芝居を必修にして力を入れているのか。それは、①様々な役を1つの劇で演じ、協力して作品を作り上げることで、人と人との関係を学ぶためであり、②人前に出て話をする訓練のため、ということでした。説明をして下さった先生からは、この学校の生徒の特長は、明るく、感情豊かで、チャレンジ精神にあふれ、職場で即戦力になる、といったことが挙げられていました。芝居の授業はまだ2年目でしたが、目的としているところは組織的な働きとプレゼンテーションスキルの向上。教育の役割として、社会で活躍できる人材を輩出する、というゴールが明確であり、そのために工夫が行われてきたことがよくわかります。

                 200万元投じられた劇場

公立校における生徒の選抜と、エリート教育

授業参観もさせて頂きました。高校1年生のクラスで、内容は英字新聞に関するもの。内容を要約したり、感想を述べたりする授業でした。もちろん、先生も生徒も全て英語で話します。思春期真っただ中ということもあってか、生徒はもじもじしている印象で、昨日の小学校のようには挙手もありませんでしたし、声も小さい印象でしたが、ちゃんと内容は理解している。先生は1人指名してその生徒が答えると、次の回答者は今答えた生徒が他の生徒を指名することになっていました。授業が終わったあとに「何で私のこと指したのよ~!」と恨まれそうですが、この方法、結構緊張感もあると思います。

参観させていただいたクラスは、日本でいうところの特進クラス。入学後に希望者が、試験・面接を受けて入れるクラスです。学外において塾に通っている生徒も多いそうです。とはいえ、そこは公立校。中学校(初等中学が日本の中学校、高等中学が日本の高校にあたる)は入試を設けられないので、学区内の小学校から抽選で選ばれるそうです。高校入学時は厳しい試験が課せられますが、中学校で学ぶほとんどの生徒が、そのまま高校に進学するそうです。この選抜制度が面白いところで、中学入学時点では生徒の学力の差は全く考慮されていないにも関わらず、結果的に優れた人材を輩出しているのです。

ここの学校では、エリート教育は行われていないと言います(行っている学校もあるとのこと)。午前中は8:00~12:00に、午後は13:15~16:00に授業があり、9コマ(1コマ40分)の授業が行われ、私たちは随分授業数があるなと驚きましたが、多い学校は1日で12コマ授業があるそうです(!)。むしろ、自由な環境の中で、人間性の育成に重きを置いているということでした。実際、文武両道という面でも優れ、ソフトボールでは全国で5位になったそうです。中国全体の中で、5位。そうした中でも、多くの生徒が上海市内の有名大学、上海外語大学、上海交通大学などに、そして一部の生徒は海外の大学に進学するそうです。

競争環境におかれる教員採用

説明をして下さった、マー先生はここの学校へ転職してきたそうです。転職をした理由は、英語に注力した学校で自分の英語力を活かしたいと思ったから、ということ。中国の学校では、先生の採用は契約制となっています。ここの学校では、1年、3年、5年という期間があり、新卒のような教師は1年、ベテランになると5年契約、という風に実力に応じて契約年数が変わります。採用の裁量は学校にあり、報酬も若干差が出る仕組みで、役職、経験、勤務歴などで変わります。完全に実績重視で、良い成果を挙げれば再契約、そうでなければ契約打ち切りとなる、一般企業と変わらない仕組みが取り入れられていました。

まとめ

今回の視察で何度も思った事ですが、「何のために取り組むのか」が常に意識され、明確にされているなと感じました。エリート教育は行われていなくても、結果的にエリートが排出されるのは、「良い人材を社会に輩出する、良い人材となって子どもたちが社会に出られるようにしたい、そのためにはどんな授業を行う必要があるのか」、ということが徹底されているからなんだろうと、感じました。

               食堂で給食をいただきながらヒアリング

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