上海の小学校における、英語教育の徹底的な取組み。

2011-11-09 00:21:30 | カテゴリ:活動報告


昨日(11/7)の武雄市の訪問に続き、本日(11/8)は上海に渡ってきました。目的は市会議員団のHPにも記載がありますが、市立学校における英語教育について、中国の公立学校の現状を学ぶためです。全部で4校視察に行きますが、初日の今日は移動もあったので1校を訪問。訪問先は、閔行区田園外語実験小学です。

閔行区田園外語実験小学(TFL)は、1997年に閔行区教育局により「田園第一小学」として設立され、2010年から現在の名称に変わりました。当初6クラス100名からスタートした学校が、現在は35クラス、1,500名の学校へと大きくなっています。現在新校舎も建設中で、完成後は65クラス2,000名の規模になる予定とのことでした。児童も多いので、教職員も100名以上と非常に大きな学校です。超瑛群校長先生が出迎えて下さり、学校の説明、授業の参観、質疑応答で約2時間半の時間を頂きました。

               超瑛群校長と伊藤ひろたか市議

授業参観と子ども達の姿勢

授業は5年生の授業を参観しました。引っ越しをした友達の、新居についてやりとりをする会話をテーマに、先生も児童も全て英語のみで授業が行われます。と、簡単に書きましたが、驚きの光景。先生から子ども達にどんどん質問が英語で飛ぶし、子ども達も積極的に挙手をするし、ちゃんと正解するしで、英語力にも、その積極性にも本当に驚きました。先生の発音もしっかりとしていて、日本の公立学校とは雲泥の差がある授業でした。

先生の作成する進行プログラムも導入から最後まで、分単位で細かく実施内容と目的が記載され、スピーディーかつ丁寧に授業が行われていました。黒板なども使用せず、プロジェクターを用いて、テキストだけでなく動画を利用し、分かりやすく、かつ効率的に授業が運営されていました。1コマ35分ですので、黒板などに書いたりする時間も省かれて、間延びせず、子ども達も集中できて、しかも面白い、と練り上げられた35分でした。

教師の育成

TFLでは教員の育成にも力を入れています。採用時点ではもちろん、国の基準を満たしていますが、より成長して子ども達により良い教育を提供できるように、①外国人による研修、②閔行区(行政)による研修、③海外(アメリカ、イギリス、オーストラリアなど)でホームステイを1ヶ月行う、といった研修を行っています。特にホームステイは、ただ英語を教える力を養うだけでなく、異文化を子ども達に伝えられうようにするために、重要な研修と位置付けられていました。

また、学校間格差を無くしていくために、教員同士の交流も行われています。日本と異なり、上海では教員が望めば生涯同じ学校に勤務できます。一方、流動性は低くなる側面もあります。どうしても、教育レベルには差が生じてしまいますが、レベルの高い学校から低い学校に教員を一定期間派遣し、ノウハウを伝えたり、逆に低い学校から高い学校に派遣し、研修を受けさせているそうです。その他にも、セミナーを開催して指導力を高めたり、上海の教育部門にいる研究者を学校に派遣してレベルアップを図ったりしています。

公立校としての限界と、それを超える取組み

公立校でありながら、英語・バイリンガル教育に力を入れているため、人気が非常に高いそうです。生徒数の増加がその証左でもあります。中国も入学は学区制が敷かれているので、他地区から引っ越してきて入学させる親が多いそうです(3年間居住していなければ、当該学区での入学が認められない)。また、子どもが多いため、中学校進学に際しては、私立中学校から推薦を受ける子どもも多いということでした。一方、私立ではなく公立を選択する親は、より優れた中学校に進学させるために、居住地を移し、別の学区に子どもを進学させることが多々あるようです(小学校に入学できれば、その後は当該学区に居住する必要がないため、入学後すぐに住居を移す事がよくあるそうです)。

英語以外の授業は、公立のため、中国語で行っていました。国定のカリキュラムに従わなければならない。それでも、自然科学の授業の3分の1を英語でおこなったり、1年生で2~3コマと定められているところを、6~8コマ行ったりと、規定以上に時間を設けることで、英語力の向上を図っています。また、教科書はオックスフォード出版社と協力し開発したり、独自の教材を開発したり、英会話の時間を国が定めた時間外で設けたり、絵画・演劇などを通じて英語だけでなく文化も学ばせたり、ワールドカップやオリンピックのある年は開催国を調べる授業を行ったりと、知恵を絞り、できるだけ楽しい環境で子どもたちが学べるよう、工夫を凝らしていました。

習熟度とフォロー

私立からも推薦が来るほど、TFLのレベルが高いということでしたが、どういった目標設定を行い、それに向けてどのうようにフォローをしているのか。ともすれば、習熟度に差が生じて、置いていかれてしまう子どももいるのではないかと思いましたので校長に聞きました。TFLは公立のため、習熟度別のクラス分けなどはできないが、目標を設定しているそうです。それはテストの合格点。毎月テストを行うことで習熟度を把握し、授業についていけていない子どもには、時間外教育を行っています。また逆に高い能力のある子どもには、より高い合格点を設定しているということでした。

これまでTFLでは、みんな合格点をクリアしてきたそうです。学年が変わり、担任が変わっても、子ども達の学習に影響がでないように、1~5年生の間の得意・不得意の記録を残し、引き継ぐことで、遅れが出ないようにしていました。それでも、もしクリアできなければ、再試験を行うことになっていて、それに向けて指導を行うことにもなっています。また再試験の内容も、基礎的な内容に変えることで合格点を達成しやすくし、子どもが自分の努力で達成感を得られるように制度を用意しているということでした。

モチベーションの維持と向上

日本でもそうですが、いくら英語の授業が多いとはいえ、普段の生活環境は中国語で行われます。そうした中で、いかにして子ども達が英語を学び、その力を向上させようとしているのか、現場での子ども達の様子を見ていると不思議に思いました。校長からは、最近の上海の環境に大きな要因があるという説明でした。近年上海には、旅行や就労で訪れる外国人が増え、子ども達も生活の中で外国人に接する機会が増えているそうです。また、海外旅行も流行っていて、子どもの両親が旅行先で英語を話せないことも多い中、子どもが普段学校で学んだ英語を使い、それが成功体験となり次の勉強へのモチベーションにもつながっているそうです。また授業の一環で、ホームステイも行われていて、子ども達も様々な機会で海外において、もしくは上海の中で英語を使い、達成感を得て、次の学習につながる環境が用意されているようでした。特に、香港の子どもとの交流もあり、香港の子どもの方が優秀であったりすると、それに刺激を受けてがんばるということもあるようです。

まとめ

子どもたちが英語を使えるようにするために、徹底的に考えられているなと感じました。教える教員も十分な養成を行い、授業のマネジメントも行われ、教材の開発も行い、その上で、子どもたちが様々な機会で英語を使用できる環境を用意する。公立校という制限の中で、教育重要に応え、私立校からも欲しがられる結果を残していく。考えてみれば、当たり前のような方法で子どもたちを教育しているなと思いました。一方で、そんな当たり前のことに十分取り組めていないのが、日本の、横浜の教育の実情でもあります。今回の視察の目的である「市立学校における、英語教育の在り方について」学ぶには、本当に得るものの多い初日となりました。

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