石川県の継続的な行政改革。行政経営プログラム視察報告。

2016-11-01 22:37:17 | カテゴリ:活動報告


行政経営プログラム

2016年10月31日、所属する特別委員会「大都市行財政精度特別委員会」の視察で、石川県議会を訪れました。視察目的は、「行政経営プログラム」について。

行政経営プログラム以前の改革成果

石川県における行政改革の取り組みは、本格的には平成14年からスタートしています。それまで何度か行財政改革大綱が策定、改定が行われてきたという経緯があり、平成14年度には「新行財政改革大綱」が策定されます。これまでの石川県における行財政改革の成果としては、(1)職員数の削減、(2)公社外郭団体の見直し、(3)組織体制の整備、(4)その他、の大きく4つが挙げられています。

職員数の削減について具体的には、平成14年度から16年度にかけて県内に9つあった農林・土木事務所を5つに削減しています。また旅費支給事務など庶務業務の集約、民間委託を進めています。旅費支給業務については、各課や出先機関で行われていた業務を、本庁に一本化されています。一本化にあたっては、まずは本庁内の業務を一本化し、その後各出先機関を一本化していくという、2段階で行われています(職員44名削減)。その結果、平成14年度4,079人だった職員を、平成27年度には3,365人まで削減と、714人の職員削減を実現しています(再任用なども含めた数字で、3,365人以外の職員は居ない)。

公社外郭団体の見直しについては、平成14年度に70団体あったものを、47団体まで削減しています。地方公社三団体の、道路公社、土地開発公社、住宅公社の全てを廃止したのは、全国で3番目だったといいます。道路公社については、能登有料道路を観光利用促進のため無料化し「のと里山海道」とすることで、建築費・維持費の回収を行っていた道路公社の管理道路が全て無料化されたため、これに伴い廃止されています。土地開発公社も大規模プロジェクトの終了と共に廃止され、住宅供給公社についても、民間の住宅供給体制が整っていると判断し、廃止となっています。組織体制の整備については、北陸新幹線開業体制が不要になり、新幹線開業後の観光施策の推進強化にシフトするため、観光交流局を観光戦略推進部に改組するなど、部局の再編が行われました。修学旅行の誘致のために、大阪などに人員を配置するなどの取り組みが行われています。その他、警察署の統廃合、県立大学の独立行政法人化、審議会の廃止(平成14年140機関→平成27年93機関)などに取り組まれてきました。こうした行政改革の取り組みによって、平成24年度に石川県財政は、基金の取り崩しに頼らない収支均衡を達成しています(平成26年度まで3年連続で達成)。

行政経営プログラムの策定

平成27年3月、これまでの行政改革の成果を踏まえて、新たに「行政経営プログラム」が策定されます。行政経営プログラムでは、これまで行ってきた職員削減などの「量」の改革から、「質」に改革へシフトしています。限られた資源を最大限活かし、効率的、効果的な行政経営を行うために、コストを縮減しつつも「質」に力点を置いた改革によって、より質の高い県民本位の行政サービスを実現しようというものです。行政経営プログラムは、(1)柔軟かつ軌道的な組織づくりと人材の育成・確保【組織の改革】【職員の改革】、(2)県民の視点に立った行政サービスの提供【業務の改革】、(3)財政健全性の維持・向上【財政運営の改革】、の「3つの取組戦略」から構成されています。

(1)組織・職員の改革
組織・職員改革では、政策課題に的確に対応するため、複数の部局にまたがる課題でも柔軟かつ機動的に対応するために、組織体制が整備されています。例えば企画振興部には、人口減少社会への対応のため、企画振興部にいしかわ創生推進室が設置され、人口の社会減対策として、人材確保・定住政策推進室が商工労働部に設置されています。具体的な取り組みとしては、ハローワークと県の外郭団体とが連携をすることで、企業と学生のマッチングをワンストップ化したり、首都圏から石川県への移住促進のために、相談窓口を首都圏に設置したりしています。

スリムで効率的な組織運営を行うために、総人件費の適正管理が掲げられています。これは、職員の定員は現状維持をしながらも、組織や事務事業のスクラップ・アンド・ビルドを徹底することで、必要な事業に職員を配置し、不要な事業は無くしていくということを、常に行っていこうという取り組みです。また職員の旅費支給業務の見直しが更に進められていて、既に一本化された業務を民間委託することが示されていて、まず部分的に職員2名分の業務、交通手段や経路、運賃等のデータのシステム入力等を民間に委託することが28年度の取組みとなっています。

女性の登用も進められていて、「女性活躍推進プラン」が策定されています。ここでは、本庁課長相当職以上に占める女性職員の割合を、平成27年度の7.9%を平成32に年度までに10%へ引き上げること。本庁課長補佐・係長相当職に占める女性職員の割合を、平成27年度の28.6%から、35%へ引き上げることが目標値として掲げられています。またワークライフバランスの推進のために、時間外勤務の削減も示されています。時間外勤務の削減については数値目標は無いとのことですが、時間外勤務縮減月間や、縮減ウィークを設けることで職員に啓発し、トータルでは縮減を実現できているといいます。

(2)業務の改革
業務改革の1つの柱は、県民との対話と県政への県民参加の促進です。県民との対話の機会を増やすために、県政出前講座が用意されています。これは、県内の企業や各種グループに、県政の情報提供を行うための講座を、要請に基づいて行うものです。説明を行うだけでなく、その場を使って県民からの意見も聴くことが目的となっています。また、「公務プラスワン活動」の促進が行われてます。職員に公務外の地域活動(ボランティア、自治会、PTAなど)に積極的な参加を促し、職員の視野を広げるとともに、地域でのネットワークを業務にも活かすこにつなげられることが期待されています。表彰制度が設けられていて、職員のモチベーションにつながる工夫がされています。

効率的・効果的な行政サービスのために民間との連携・協働の重要性も認識されていて、道路パトロール業務や駐車場管理業務が民間委託されていたり、下水道公社が廃止され指定管理の公募へと移行しようとされています。育英資金貸付金返還金のみ回収業務も民間委託されています。指定管理者制度の導入も進み、158施設中128施設で導入され、全国平均より高い導入率となっています。

(3)財政運営の改革
持続可能な財政基盤の確立や、県債残高の抑制などが基本方針となっています。歳入の確保のために、個人県民税等の滞納整理推進に力が入れられています。県民税は市町民税とともに市町が徴収業務を行っていますが、4億8500万円が滞納状態にありました。そこへ県による「地方税滞納整理機構」を設立し、滞納整理を推進することで、2億3500万円を回収できたといいます。

歳出抑制と計画的な財政運営としては、投資的経費の抑制が行われたり、一般行政経費の見直し、公債費負担の平準化が行われています。県有資産のマネジメントのために、「公共施設等総合管理計画」が策定されたり、外郭団体の見直しで、外郭団体への県派遣職員を引き上げたり、下水道公社を廃止したりといったことが行われています。「いしかわ子育て支援財団」については業務の見直しが行われ、子育て支援だけではなく、人口の自然減を防ぐために、結婚支援を推進することにもなっています。

実施体制

行政経営プログラムを推進する体制の1つが、「行政経営プログラム推進委員会」です。県議会には行財政改革特別委員会が置かれ、常任委員会でも進捗状況の報告が行われています。とはいえ、行政経営プログラムは議会の議決事項ではないため、基本的に議会へは報告のみとなっています。推進委員会は設置要項により所掌事項が定められていて、(1)行財政改革の推進に関する必要な事項を調査審議し、知事に提案助言を行う、(2)行財政改革の推進状況について知事から報告を受け、改革の推進に必要な提案助言を行う、ことの2つを担っています。県内の経済界や大学などから11名が知事からの委嘱により、委員となっています。また県庁内での実施体制は、行政経営プログラム以前は、人員削減や機構改革という大鉈を振るってきたため、知事をトップとした推進本部体制でした。行政経営プログラムからは質の追求にシフトしたこともあり、部局長を中心とする「行政経営プログラム会議」が設置され、庁内の意思統一をはかっています。

十数年に渡って継続的な改革を進めながら、「量」での成果を一段落させつつも、総人件費の適正管理を行いながら、組織や事務事業のスクラップ・アンド・ビルドを徹底して継続していくという姿勢は、見習わなくてはならないと感じました。横浜市においても継続的な行政改革、しごと改革に取り組まれていますが、改めて庶務業務の集約化や、組織体制の見直し、事務事業を徹底的に見直し、外郭団体改革を行っていくことの重要性を感じます。人口減少、少子高齢化社会という共通の課題に全国の自治体が遅かれ早かれ直面していくなか、横浜市も危機感をもって取り組みを進める必要があると考えます。

藤崎浩太郎

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