11月7日、会派の仲間と愛媛県今治市を訪れました。目的は、今治タオルの復活とブランディング戦略について、現地の方のお話を伺うこと。
「安心・安全・高品質」を強みにブランディング
「今治タオル」と言われて、「聞いたことある」という方は多いのではないでしょうか。2006年から始まった今治タオルプロジェクトの成果としてよく示される指標の1つが、認知度の上昇です。プロジェクト以前の2004年には、知っていた、何となく記憶がある、という認知度が36.6%だったものが、2014年には76.9%まで上昇するなど、地域ブランドの成功事例として取り上げられているのが、今治タオルです。
はじめにお邪魔したのは、四国タオル工業組合。現在110のタオルメーカーが組合員として加盟している団体です。今治タオルプロジェクトが始まった契機となったのは、バブル崩壊による景気の低迷を受けて、今治でのタオルの生産量がピーク時の5分の1程度(5万トンから1万トン)まで低下したことや、中国などからの輸入品が急増したことなどによって、産地の危機感が高まったことにあります。組合員数もピーク時には500あったものから、5分の1近くまで減っています。今治市や、四国タオル工業組合が中心となって、今治タオルのブランド化に乗り出すことになります。その際に白羽の矢が立ったのは、クリエイティブディレクターの佐藤可士和氏。当初佐藤氏は今治タオルプロジェクトへの参画に対してネガティブだったものの、実際に今治タオルを使用した所その質の高さに可能性を感じ、プロジェクトに関わることになったといいます。
ブランド化において重要視されたのは、タオルそのものの品質です。吸水性の高さなどの基準を設け、組合員の製造した国内縫製品などの定義を定め、「安心・安全・高品質」を強みにし、そのイメージを伝えやすくするために、今治タオルが得意としていた染色されたタオルではなく、「白いタオル」をコンセプトにプロモーションが行われていきます。佐藤可士和氏のバリューがあったことも手伝い、当初から複数の雑誌社が取材し、取り上げてくれるなど、メディアプロモーションに成功していきます。背景にはテレビCMなどの広告を出すのではなく、PR会社と契約し、今治タオルの取り組みをメディアに伝えて、メディアに取材してもらえるようする戦略をとったことがあります。また当時中国製の冷凍食品の問題が明るみに出るなど国産回帰をしていたことなども重なり、贈答品のタオルは日本製を送る流れができてきたといいます。
現状と課題
ブランド化の成功によって、プロジェクト以前は百貨店でも海外製品と同じ程度の価格競争をさせられて、バスタオルでも1枚2,000円くらいだったものが、現在では、5,000円や10,000円のバスタオルを百貨店に並べられるようになっているといいます。また、ブランディング前はほとんどの組合員が赤字決算続きだったが、現在は黒字化を達成していて、赤字になることはほとんど無いとのことでした。
一方で、現在では生産量が増えてきているものの、需要に対して供給が追いついていないという課題がありました。特に染色の加工については、設備投資にコストがかかるためなかなか投資ができず、ボトルネックになることがあるようです。また長年の衰退期を経ているため、人材に限りがあり、最近は若い人材を確保できるようになってきたものの、40代や50代が全く居なくて、60代の次に30代が居るような、年齢構成になってしまっています。
海外での展示会などへ出店を行ってはいるものの、輸出もそれほど伸びておらず、1〜2%ほどということでした。1,000円のタオルでも、輸出だと関税や輸送コストが乗るので高くなってしまうため、難しい状況にあるといいます。海外の良いセレクトショップなどでも置いてもらっているケースがあり、日本のバイヤーが、そうしたショップで今治タオルを見つけると、逆輸入的に日本のバイヤーが今治タオルを買い付けにくるようになることもあり、買いに来てもらえれば、価格交渉力は今治側が強くなるので、そうした事例を増やしたいということでした。また欧米まで行って販売会などを行うよりも、訪日した影響力の強い人にアプローチをする方が効果があると見込んでいて、そうしたアプローチをしようとされています。
タオルメーカー「IKEUCHI ORGANIC株式会社」訪問
四国タオル工業組合にお邪魔した後は、実際のタオルメーカーさんにお邪魔させて頂きました。訪問したのは、「IKEUCHI ORGANIC株式会社」さん(以下、IKEUCHI社)。社名の通り、オーガニックコットンのタオルなどを製造、販売されています。
IKEUCHI社では、1999年にオーガニックの自社ブランドを立ち上げられています。それまでは、他の今治タオルメーカー同様に、OEM供給のみを行っている企業で、OEMで収益を上げて、オーガニックは儲からない事業でした。2003年に民事再生法による再生が行われ、その際に自社ブランドで再起する道へ舵を切ったといいます。再生に当たることになった当初、オーガニック製品を利用していた顧客から、「何枚タオルを買えば会社を支えられますか?」といった問い合わせなどがあったそうで、オーガニック一本でもやっていけるのではないかと考えたということです。
IKEUCHI社では今治タオルを作ってはいるものの、今治タオルのタグを付けてはいません。というのもタグはポリエステル製のため、オーガニックコットン製品にはつけられないからという理由からでした。販売についても卸を通さず、百貨店には直接納品、直営店やWebでの通販、海外での販売となっていて、販売量の全体に占める割合は、Webが40%、海外が30%となっています。近年ではホテルでも使用されるようになってきていて、京都のホテルなどではホテルのロゴを入れず、IKEUCHI社のロゴのままで使ってもらっているそうです。
メーカーから見える今治の課題
課題として示されたことの1つが、長期的な視点にたってのブランド力の向上です。今治タオルの品質基準は10年前と変わっていないため、今後一層のブランド力向上には、品質基準を向上させていくことが重要ではないかと指摘されていました。確かに、今治タオルに影響され、品質の高いタオルが他でも生産されるようになっている中で、高いブランド力を維持するには、根幹となる品質向上は欠かせません。また、110ある組合員のそれぞれ、メーカーそれぞれが、「今治タオル」ブランドに頼らなくても、自社ブランドで自立して製品力を高め、自社のブランドを高めていくことが、重要ではないかと指摘がありました。各社の製品が向上していくことが、結果的には一層今治タオルの価値を高めていくことにつながると考えられます。今治という集積と、ブランドを活用しながらも、各社がより競争力を高めることが相乗効果となり、一層の振興につながると考えます。
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Comments 2
ご来社ありがとうございました。中小企業でも海外に方針を明確にして発信すれば認められるビジネスモデルと思っています。
池内様、先日は視察を受け入れて頂きまして、ありがとうございました。
日本の習慣に従うだけでなく、海外のマーケットを意識した商品開発や戦略があれば、中小企業も成長できる機会をもっと得られるのだろうなと、お話を伺って感じていました。
バスタオル購入しましたが、質が高くて、今までのタオルは何だったんだろう?いうくらいです(笑)