ICT活用とプログラミング教育。北九州市と横浜市の取り組み。

2017-12-22 23:29:11 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

12月21日、北九州市の市立小学校におけるICT教育の取組みについて、会派で視察を行いました。

先進的な取り組みが行われているのは、北九州市立門司海青小学校。門司海青小では、2009年に文科省の「電子黒板を活用した教育に関する調査研究」の委託校として、市から指定を受けたことを皮切りに、北九州市のICT教育モデル校としての取り組みが行われ続けています。2016年からは市の「ICTリーディングスクール」指定を受けて、ICT機器の活用による、効果的な授業づくり、教材開発など研究推進の役割を担っています。

これまでは、電子黒板の活用に始まり、PC教室への40台のPC整備、2014年度の「北九州市教育研究委嘱学校・園(情報教育推進モデル校)」指定によるタブレットPC40台整備などがハード面では行われています。合わせて、教員のICT活用指導力の育成のため、情報教育担当主任会の実施、「ICT活用実践事例集」の刊行、校内研究・研修の症例、月1回のICT支援員の派遣などが行われてきました。校内では先生同士の自主勉強会「ICT活用サークル」もつくられているそうです。北九州市の小中学校全体で言うと、20代〜30代くらいの先生は、ほぼICT機器の活用ができるようになっていると言います。一方で高齢の教師は使えない人も多いようで、課題となっていました。

目的ではなく手段としてのICT活用

北九州市ではICT活用授業を、「わかる授業」の実現に重きを置いて実施されています。単純に電子黒板ばかり使ったり、タブレットを見てるだけ、という「ICTが目的化している」ような授業にならないよう、あくまでも「ICTを手段として使う」という方針が徹底されているといいます。そのため、ICT機器を用いるとコミュニケーションが薄くなるという心配もされますが、先生と児童とのコミュニケーションが薄くならないよう、授業時間内におけるタブレット等の使用時間は全体を占めないようにしています。門司海青小の授業風景も動画で拝見しましたが、電子黒板もつけっぱなしにせず、用が済めば画面を消して、子どもたちが授業に集中できるよう工夫されています。とは言え、北九州市全体では、まだまだコミュニケーションを促せる授業ができていない、タブレットを使うだけの授業もあるそうで、課題となっています。

ICTリーディングスクールは、タブレットPCを活用した授業の「効果検証」を行うことが求められています。財政当局からも、費用対効果の説明が求められているということで、今後の課題となっています。質疑においても、この点が確認されました。何を指標として効果を測定するのか、とくに学力向上をどう測定するのか、というところが注目されます。北九州市での指標には、正答率について指標を設けていらっしゃいませんでした。その理由は、効果を測定するための、別のサンプルを用意することが難しいとのことでした。確かに現在ICTリーディングスクールに指定されているのは、小学校1校、中学校2校であり、全校で何らかのICT活用授業が行われているため、比較がしづらい環境にあります。ではどういった指標が用いられているかと言えば、授業が楽しくなったとか、タブレットを使いたくなったなど、児童の意識面での調査が行われているといいます。昨年から調査が始まったため、比較が出来るのが今年の調査後ということで、今後の調査結果に期待されます。

門司海青小学校

ICTの活用による成果と課題

一方、門司海青小によってまとめられた資料「平成29年度 ICTを活用した「わかる授業」実践交流会 二年次(資料編)」では、ICTの活用による大きな成果として、

・表現力の高まりと思考の活性化
・子ども同士の学び合いの誘発

の2点が示されています。1点目については、ICTを活用し、資料を選択したり、書き込んだりすることで自分の考えをしっかり持つことができるようになり、更にPCなどで可視化し、示すことができるようになり、人に分かりやすく、根拠なども伝えることが出来るようになったといいます。2点目については、ICTの活用により自他の考えを共有・比較することが容易になり、それによって対話が活性化して、考えを再構成し表現することが可能になるなど、学び合いが誘発されているといいます。

課題も指摘されていました。1点目は、「わかる授業」を「主体的・対話的で深い学び」という視点から捉え直すことで、どのように評価・分析するかを検討する必要があるということ。2点目はICTの活用が効果的・継続的に発展していくようにするために、子どもの発達段階や学習内容に応じたICTの系統性についての整理が必要であるという点でした。この他にも、北九州市としては、教師の指導力の向上、文科省の整備基準に準拠した環境整備の検討、情報モラル教育の充実、という3点が全体としての課題として取り上げられていました。

2020年度から小学校で必修化プログラミング教育

ICT教育と言えば、ハード面では門司海青小学校のようなPCやタブレットPCの活用が話題になりますが、ソフト面では注目されているのはプログラミング教育です。2020年には小学校でのプログラミング教育が必修化されるため、一部学校では先進的に取り組まれています。門司海青小でも、「総合的な学習」の時間を活用してプログラミングの授業が行われています。門司海青小の場合は体育館を使って、モーターカーを動かすというものでした。

このプログラミング教育は、横浜市でも一部実施されていて、今年度はアクセンチュア株式会社、情報科学専門学校、一般社団法人横浜すぱいす、NPO法人CANVASとの連携により、部分的に授業が行われています。アクセンチュアとの取り組みは、2015年から官民連携事業としてスタートしています。

横浜市立菅田小学校でのプログラミング教育

11月24日に訪問した菅田小では、ロボットのキットを活用し、プログラミングソフトでロボットへの指示を入力し、実際に動かしてみるという内容で授業が行われました。キットになっているので、必要なパーツを組み合わせれば簡単にロボットが作れ、プログラミングソフトも「スタディーノ」(MITの「スクラッチ」をベース)を使って動作の指示を入力すれば、指示通りにロボットが動きます。専門学校の学生さんが丁寧に教えてくれて、マニュアルもるので、順調に動かせていました。3〜4人の班に、2〜3人の学生さんがついていたので、非常に充実していましたが、通常の授業として成立させるには、この人数での指導を行うのはなかなか難しいことだなと思います。

子どもたちはPCの画面や、ロボットに釘付けで、集中して参加しているなと感じました。ソフトウェア自体も、完全に日本語化されていますし、日本語として指示を入力できるので、言語概念としても論理的思考力にいい影響があるのではないかと感じました。

菅田小学校
菅田小学校
菅田小学校
(菅田小学校での様子)

横浜市立大岡小学校でのプログラミング教育

12月15日には大岡小学校の授業を視察に訪問しました。総合学習の時間を使ったプログラミング教育となっていて、こちらはDeNA社が提供するプログラミングソフトを使って、DeNAの社員の方の指導を受けながら、子どもたちがiPadを使って、プログラムを行うという授業。こちらはDeNA社のCSR活動の一環として行われている、プログラミング教育のサポートプログラムを活用しての授業です。(参考:http://dena.com/jp/article/2017/11/24/003510/

授業自体は1年間を通じて、弘明寺商店街と留学生会館をつなぐために、大岡小の児童が架け橋になるにはどうしたらいいか、という事をテーマに、地域の方に取材をしたりしながら進めているもの。夏休み後の9月からこれまで4回に渡って、iPadを使い、商店街を紹介するアニメーション作成のプログラミング授業が行われています。

授業への児童の参加意欲が高められていて、教室内の一体感も高く、先生から質問があればどんどん子どもたちが手を挙げます。挙手した児童が1度指名されると、その後は児童同士で指名しあい、意見が出尽くすと手も挙がらなくなるという、活発であり、かつ節度のある様子に、驚きました。子どもたちはプログラミングの内容をノートにとっていたり、壁には「技のデパート」として情報が共有される仕組みがあったり、絵の得意な子、写真の得意な子、プログラムが得意な子と、それぞれの持ち味が活かせるよう、担任の先生も工夫をしていました。

大岡小学校
大岡小学校
大岡小学校
(大岡小学校の様子)

ICTの活用とプログラミング教育とこれから

北九州市での視察や、横浜市内の小学校の取り組みを視察してきましたが、北九州市で指摘されている2つの成果、「表現力の高まりと思考の活性化」と「子ども同士の学び合いの誘発」は、タブレットPCを用いたプログラミング教育を行っている横浜市の小学校でも、その効果を感じるものでした。子どもたちが考えたことを、タブレットPCで形にしていく。形にしていくためには、プログラミングが必要で、日本語化されたプログラミングソフトは、指示を出すために論理的な組み立てが必要とされます。プログラムの仕方も、実現したい内容で異なるので、それぞれの子どもが工夫をし、うまくいけば「技のデパート」のように共有したり、実際の画面でその場で確認、修正もできる。北九州市の視察を終えて振り返ってみると、大岡小の授業もプログラミングを始めるまで、先生が子どもに質問をしたりしながら板書を行い、子どもたちから出た意見を形にした上で、タブレットPCの使用に移っていたなと思います。

プログラミング教育の必修化は、教育施策において大きなテーマとなっていきますが、それ以前にICT機器をどう活用するのか、どういった授業をつくって、どんな教材を用意するのか、教師の指導力をどう向上させていくのかといった、土台となる部分について、しっかりと固めていかなくてはいけないなと考えます。そうでなければ、単純にタブレットPCを導入して、プログラミングソフトを使って、それっぽく授業を行ってお終い、となりかねません。先行する事例などもしっかりと学びつつ、横浜市としてどういった環境で、どういった目的で、子どもたちにICT機器を使って、プログラミング教育を行っていくのか、ということを前提として整えていくことが重要だと考えます。少なくとも北九州市では、「ICT機器が使える」といった程度のことではなく、子どもたちの思考などに大きな成果があったことが示されているわけです。

藤崎浩太郎

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