「里親委託優先」で社会的養護に取り組む大分県。

2020-01-29 17:40:13 | カテゴリ:活動報告


大分県中央児童相談所

1月27日、大分県大分市にある「大分県こども・女性相談支援センター」を訪問しました。センター内に「中央児童相談所」が設置されていて、里親制度の大分県における取り組みを調査することが目的でした。

里親委託率33.1%

大分県の里親委託率は、2018年度で33.1%となっていて、全国的に見ても高い水準にあります。お話を伺って特徴的だったのは、「里親委託優先」という取り組み方です。2016年の児童福祉法改正によって「家庭養育優先原則」が規定されましたが、それ以前から大分県では里親委託を優先した取り組みが進められていたといいます。この里親委託優先という方針は、条例や計画などで位置付けされたものではなく、現場レベルでの様々な事例が積み重なって運用の中で取り入れられてきた方針です。

児童養護施設と里親の良好な関係

大分県では、里親委託推進のために、児童養護施設との連携も深められています。県内9ヶ所の児童養護施設には、里親相談員が1名ずつ在籍していて、そのための予算補助もなされています。施設と里親との関係が良好で、施設の方々が里親支援を行ったり、里親のレスパイトケアを行ったりしています。こうした連携が進んでいるのは、これまでの取り組みのなかで、里親の良さ、施設の良さを、児童相談所も、養護施設もそれぞれが理解をしていることが背景にあります。

これまで大分県では、施設でなかなか上手く養育が進まなかった子どもが、里親に移ることで上手くいったケースが数々把握されてきています。例えば、佐伯市の子どもが大分市の施設に入って上手くいかなかったが、佐伯市の人が里親になってくれたことで佐伯市に戻り、その子どもが改善したという成功体験があったといいます。また、思春期になって、自己肯定感が低いままの子どもが、「自分には親もいない」という感情から、崩れていくケースもあったため、幼児期から里親さんに預かってもらうことを少しずつ行っていったといいます。

全体的には里親で上手くいっているケースが多いと、職員も感じるようになっていったといいます。施設の方々も、施設ではみんなで子どもをみるが里親は1対1であり、施設では休憩もあるが里親はずっと関わらなくてはならないという、里親の大変さについても理解するようになり、また、施設で上手く行かなかった子どもが、里親でうまくいくケースを目の当たりにしてきたことで、施設側も子どもに合わせた対応を取ることの重要性について理解するようになっていったといいます。もちろん逆に、里親から施設に移ることもあったり、里親さんによっては最初はうまく養育ができなくても、数人預かっているうちに慣れていくというケースもあるそうです。

里親募集について

大分県では国に先立って2010年度から、児童相談所内に「里親担当専任職員」が配置されています。2004年度には里親対応協力員が、2006年には里親委託推進員が配置されていて、少しずつ里親推進のための体制整備が進められてきました。現在は正規職員2名、非常勤職員4名での、里親支援体制となっています。里親担当専任職員は、里親関係事業の総括、開拓、普及啓発・広報、研修、委託にかかる助言指導等を担当しています。

大分県の里親登録数は、2018年度で180名となっています。里親に登録してもらうため取り組まれている基本的な施策は、各市町村で行われれる説明会です。大分県内には18の市町村があり、島を除く、17市町において、毎年募集説明会が開催されています。制度の説明や、里親登録を考えている方との面談が行われていて、大体年間100組程度の相談があり、そのうちの1〜2割程度が里親登録に結びついている状況です。2018年度実績では、33回の説明会が開催され、67組88名が参加されています。同年度の新規認定数は、養育里親が13組、養子縁組里親が4組、親族里親が1組となっています。

関係機関との連携も行われていて、産婦人科で不妊治療を行っているご夫婦への特別養子縁組の提案も行われています。医師から直接ではなく、カウンセリングを行う担当者が、「ご興味があれば」くらいの軽い提案をしていらっしゃいます。特別養子縁組を行った養親からの体験発表などの機会が設けられているそうです。民生委員への出前講座を行っているほか、「グリーンコープ生活協同組合おおいた」とも連携していて、グリーンコープが組合員向けに「里親カフェ」を開催するなど、普及啓発が行われています。

その他にも里親養育の推進・支援として、「トライアル里親事業」という、夏休みや冬休みにおける短期間の里親体験を実施ししているほか、「里親委託推進委員会」を設置し、個別ケアが必要な児童を、施設から里親・ファミリーホームへの措置変更を行うなど、様々な取り組みを用意して、里親の推進が行われていました。

所感

国に先行して、里親委託を原則とし、しかも現場の蓄積の中から方針が出来てきたということに驚きました。児童養護施設との協力関係もしっかりと築かれていて、里親を優先しつつも、子どもの状況に応じた対応がとられ、施設にも里親相談員が置かれたり、施設が里親支援を行ったりしているというのは、言葉にはされていませんでした、双方が「子どものための最善策」について、理解し合えている結果なのだろうと感じました。

藤崎浩太郎

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