1月17日、中学校給食の視察のため、大阪市立摂陽中学校を訪問しました。これまで約9年間、私は中学校給食が横浜市にも必要だと、その実施を提案し、求めてきています。
大阪市では当初、選択制のデリバリー方式の中学校給食が実施されていたものの、途中から全員喫食に方針転換がなされ、昨年から「学校調理方式」と呼ばれる、自校調理方式と親子方式を併用する形での給食提供方法によって、全員喫食が実現しています。今回大阪市の調査に訪れたのは、全員喫食への転換について、その経緯や要した費用、課題となったことなどを調査することが目的でした。
選択制の中学校給食開始
大阪市では中学校給食導入以前、家庭弁当を持参できない生徒が約20%ほど居たといいます。2011年度から中学校給食実施に向けた条件整備に取り掛かられていますが、その当時の導入経緯は、この約20%の家庭弁当を持参できない家庭・生徒をサポートすることが目的とされていました。2011年度には「中学校給食実施の考え方」が示され、弁当箱でのデリバリー方式で、家庭弁当との選択制による実施が定められています。2012年度から一部の学校においてデリバリー方式での中学校給食の提供が開始され、2013年度には全校実施されています。
注目すべきアンケート結果と全員喫食への転換
2012年度のデリバリー方式での中学校給食実施の時から、大阪市では生徒、保護者、教職員に対するアンケートが実施されています。2012年度、2013年度に実施されたアンケート項目の中には「どのようにしたら中学校給食を利用しますか。」という質問項目があります。2012年度は「全員給食にならない限り、利用しない」という回答選択肢を、中学校給食開始校の保護者の53.9%、生徒の44.3%が答え、未実施校では保護者の56.4%、生徒の41.6%が選択しています。2013年度には同じ内容のアンケートが市内全校で行われ、保護者の55.1%、生徒の44.0%が、選択しています。「クラスの多くが利用するようになったら利用する」という回答選択肢については、2012年度の実施校の保護者14.9%、生徒8.0%、未実施校の保護者9.5%、生徒10.0%が選択し、2013年度では保護者14.3%、生徒8.0%が選択しています。みんなが一緒に食べられるか、もしくはクラスの大勢が食べるようになるかを、保護者も、生徒も大変気にしていたことが分かります。こうしたアンケート結果、「多数の保護者が全員喫食を希望していること」などを受けて、2014年2月4日に大阪市教育委員会として「全市的に全員喫食を導入していく」ことが決定されています。
その後デリバリー方式の課題などが示され、特に残食率が20%を超える状況が課題となっていきます。2015年4月には小中一貫校の中学校での自校調理方式での中学校給食提供が開始され、9月には他2校の小中一貫校での自校調理方式・全員喫食の中学校給食が実施され、同じく9月から昭和中学校で、親校を長池小学校とする、親子方式のモデル実施が行われます。このモデル実施の結果、デリバリー方式では残食率が20〜30%だったのに対して、自校調理(3校)、親子方式(1校)での残食率が5%となり、2016年2月には学校調理方式の全市展開が決定されています。ちなみに、選択制デリバリー給食のみで中学校給食が実施されていた、最後の年である2015年度の喫食率は11.0%となっていました。
整備手法・予算
全員喫食での中学校給食への移行は、2019年度の2学期に完了しています。大阪市の中学校給食では、自校の調理室で調理する「自校調理方式」と、近隣の小学校か中学校の調理室で調理した給食を配送する「親子方式」を組み合わせる形で提供されています。親子方式を検討してきたなかでは、小学校の給食室の余剰供給能力が調査されています。これは、少子化によって児童数が減少するなか、児童の数が多かったときよりも少ない量しか小学校の給食室では調理されていないため、「親校」としてどのくらいの能力が供給能力があるかの調査です。中学校の敷地の問題もあり、全ての学校に給食室を建てることが難しかったということも背景にあります。単独棟として給食室の建設には1億円以上必要とし、建物や備品のみならず、トラックを入れるための舗装や、トラックへコンテナを積載するための通路を建設する費用などがかかっています。
給食センターを建設する方式の提供も検討はされたものの、難しいと判断されていました。理由は、給食センターが「工場」の扱いになり、大阪市のように中心部に市街地が広がり、住居地域が密集している場所では、中心部にはセンターを建設することができず、周辺部からの配送では、「調理後2時間以内に給食する」という「学校給食衛生管理基準」を満たせるような配送が難しいということがあったそうです。
親子方式については、学区内で運べるのが理想ではあるものの、供給能力が必ずしも整っているとは限りません。そのため学区内で賄えない場合は、(1)校区外の学校から運ぶ、(2)区外の校区から運ぶ、(3)中学校に給食室を建てる、(4)2つの学校から中学校に運ぶ、という様々な方法で事情に応じた対応が取られています。結果として、1小1中の親子方式が74校、2小1中の親子方式が14校、中学校自校調理方式が16校、小中一貫校5校、1中1中(自校調理中学校との親子方式)14校、1中1中(小中一貫校との親子方式)4校、 公設民営学校(自校調理)1校という方法で、全128校の中学校給食が提供されています。
給食室の整備には国庫補助の対象になるもの、補助対象として採択されなかったため、当時の橋下市長が「重点予算」とし、通常の教育予算とは別枠で計上され、市債の発行などで全額市費負担によって整備が行われたそうです。初期費用としては、学校調理方式移行整備工事や備品整備などで、2014年度から2019年度で約49億円。経常費用としては、調理業務委託等運営費として、2020年度移行は毎年およそ33億円程度が見込まれています。調理は全て民間委託となっています。
給食時間は5〜10分延長
給食を食べる時間については、摂陽中学校においては全員喫食導入後、5時間目の開始時間を5分遅らせています。12:40に4時間目が終了し、以前は13:25から5時間目が始まっていたところを、13:30からの開始に遅らせています。給食時間をどうするかは学校に任されているため、教育委員会としては各校に昼食時間を延ばすように依頼し、5分延ばした学校や、10分延ばした学校があるということでした。摂陽中学校の様に5時間目を遅らせるケース以外に、1時間目のスタート時間を早める対応をとっている学校もあり、その場合は職員朝礼の時間を短くすることで対応しているそうです。
所感
大阪市が中学校給食を選択制デリバリー方式から、自校調理方式での全員喫食へ移行した経緯には、選択制デリバリー方式導入当初から、「どうしたら利用するか」という問いかけを保護者や生徒に対して行い、市の実施している方針とは異なる「全員給食」という選択肢を用意することで、率直な意見を市民に求めたというきっかけがあります。横浜市の場合は、ハマ弁の給食化を検討し、アンケート調査を行ってはいますが、選択肢に「全員給食」のような設問が用意されることはなく、あくまでもハマ弁、選択制デリバリー方式を前提とした質問となっていて、限定的な回答しかできない内容となっています。行政の都合に合わせて制度設計をするのではなく、横浜市もあらゆる選択肢を市民に示し、意見を聞き、その上で検討をする必要があると考えます。
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