佐賀県の多職種連携による、アウトリーチ型ひきこもり支援。

2020-01-31 20:54:16 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

1月28日、佐賀県のひきこもり支援について、「さが若者サポートステーション」、「たけお若者わかものサポートステーション」、「佐賀県子ども・若者総合相談センター」、「佐賀県ひきこもり地域支援センター「さがすみらい」」の運営を一手に受託している、認定特定非営利活動団体「NPOスチューデント・サポート・フェイス」(SSF)に訪問し、谷口仁史代表理事からお話を伺いました。

多職種連携によるアウトリーチ(訪問支援)

佐賀県のひきこもり支援は、SSFと谷口代表の先進的な取組によって成果をあげ、注目されてきました。テレビ等メディアでも取り上げられてきた活動は、「アウトリーチと重層的な支援ネットワークを活用した多面的アプローチ」と呼ばれ、「どんな境遇の子ども・若者も見捨てない!」という理念のもと、活動されています。

2003年団体が設立された年度は、相談件数820件、面談人数185件、訪問支援の派遣件数243件だったものが、2018年度には相談件数21,625件、面談人数12,390人、派遣件数6,445件と増加していっています。設立時は谷口さんのみ常勤職員で、学生等のボランティア100名から始まり、現在は80名の常勤職員枠がある中六十数名の常勤職員とボランティアの方々で日々の業務が行われています。

ひきこもり支援には、佐賀県警少年サポートセンターや佐賀市との連携のほか、ハローワークや佐賀県産業労働部産業人材課など「就労支援団体」、佐賀県教育庁学校教育課や佐賀県こども局こども未来課など「教育関係」、佐賀県中央児童相談所や佐賀県精神保健福祉センター、佐賀県発達障害者支援センター結や臨床心理士相談センターなど「保健・福祉・医療関係」、佐賀少年鑑別所など「矯正、更生保護関係」といった行政関係の団体をはじめ、佐賀県弁護士会、佐賀県司法書士会、佐賀県母子寡婦福祉連合会、佐賀県社会福祉協議会等々、関係団体が、「ケース会議」や協議会を通じて、分野・施策等の壁を超え連携が行われています。

多重に困難を抱えるひきこもり当事者

こうした連携を重層的に構築してきた背景には、ひきこもりの子ども・若者のうち84.7%が多重に困難を抱えていることや、63.7%は虐待、DV、貧困等の生育環境に問題があり、家庭環境に対するアプローチも欠かせないことがあります。さらに、相談センターなどに出てこられる当事者本人よりも、出てこられない、アウトリーチが必要な当事者本人のほうが、10%も困難度が高く、また、ひきこもり中の子ども・若者の48.5%が、既に複数の支援機関を利用しているにも関わらず解決できていないという現状があります。

効果的な支援計画を立てていくためにも、一人一人の状況を正確に分析していくことが必要で、分析を間違えて支援計画を立ててもうまくいきません。そのため、多職種連携が重要となります。また、支援する専門家にもそれぞれのやり方があり揉めるケースもあったため、「エビデンスベースド・アプローチ」として、客観的な指標、根拠にもとづく対応策が築かれています。「Five Different Positions」(FDP)という多軸評価アセスメント指標で、「対人関係」、「メンタル」、「ストレス」、「思考」、「環境」の5項目が、それぞれ5段階にレベル分けされています。この5項目の中に、レベル1〜2が一項目でもあれば長期化、深刻化の危険性が高いとされていて、複数分野の専門家チームがFDPを共通言語にし、客観的な対応ができるように工夫されています。

例えば、「ストレス」が弱い人に、無理に何かを強いるのは逆効果になってしまいます。「釣り」に関心があれば、ひと目を気にしなくて済む夜にスタッフと出かけて、予め選定された人柄の良い店主のいる釣具屋などで買い物をし、少しずつ外出になれていってもらいます。ある程度改善が見られたら、特定のスタッフとの依存関係も防ぐためにも、小集団活動に展開し、状態が良くなれば更にプログラムを発展させて、社会貢献活動を通じた就労体験事業へと移行していくようになっています。合わせて、ひきこもりの子ども・若者には認知の偏りが生じているケースも多いため、認知行動療法も取り組まれています。

伴走型支援と職員の選抜

支援は上記の釣りのケースのように、伴走型のコーディネートによるカウンセリングを中心に行われていきます。支援策や関わる機関はケース・バイ・ケースで、時には母親の就労支援が行われたり、時には兄弟姉妹の就労環境改善に関わったり、時には父親の債務整理を行ったりしながら、本人の支援が行われます。支援するスタッフは、重い熟練レベルのケースには各事業の相談責任者レベルの職員が関わり、標準的なレベルでは「選抜研修制度」を経て採用された常勤・非常勤の職員が関わり、軽い導入レベルの支援には地域ボランティアや有償ボランティア(大学生、大学院生、地域人材等)が関わります。大学生などは、本人と年齢が近いこともあり、お兄さん、お姉さん的な支援ができるメリットがありますし、対応には職員によるしっかりとした危機管理も行われています。常勤・非常勤の職員は「選抜研修制度」によって、選抜が行われた上で支援員になっています。これは、支援員希望者の全ての人が支援現場に向いているとは限らないためで、合格者は2〜3割程度となっています。

支援の成果

支援の1つの成果指標は、FDPになっています。FDPの各項目のレベルが1から2、2から3へ改善していくことも1つの成果となっています。また、2013年〜2015年度の実績では、この3カ年で就職した若年無業者が972名でした。この場合、働けないまま生活保護を仮に457名が10万円12ヶ月もらっていたとすると、支出としては6億240万円と想定されるのに対して、就労できた972名が仮に年収200万円で、所得税や住民税、社会保険負担金等を年36万円支払えるようになったとすると県には3億4992万円の収入と想定され、合わせると9億5232万円の税収増に貢献できていると、計算されていました。また、サポステの進路決定者数が、2010年度〜2015年度に、全国1位や2位、3位を記録するなどの実績を残されています。

所感

谷口さんからの説明は、熱意に富むだけでなく、非常に情報量の多い内容でした。この記事にはまとめきれていませんが、団体設立からは17年、谷口さんの個人的な体験は更にその前から始まっていて、この間構築された多職種との連携やプログラムは、豊富な活動量と、一心に取り組まれてきた実績、信頼に支えられているものだと感じました。

多職種連携、多機関連携など表題を掲げることは簡単ですし、多くの関係者が集まる会議を設定することも難しくはありません。しかし、その先の実際の支援実績につなげていく、つまりひきこもりの子ども・若者を1人でも多く自立させられるかどうかまで、徹底することは簡単では無いはずです。SSFが、サポステや総合相談センターを一手に引き受けていることで、規模のメリットを生み出しつつ、多職種の中心として機能し、FDPという「共通言語」を作り出すことで、一人一人の子ども・若者、当事者本人に合わせた対応を全方位からアプローチを可能にし、成果を挙げられていました。

藤崎浩太郎

佐賀県ひきこもり支援
あえて受付に人を置かず入りやすい表玄関

佐賀県ひきこもり支援
人目につきにくい裏口

佐賀県ひきこもり支援

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