2024年7月17日、箕面市立船場図書館の視察にお邪魔しました。船場図書館は2021年6月に開館した新しい図書館で、最大の特徴とも言えるのが、大阪大学の大学図書館と合築、一体運営されている点です。
新駅の開業と、図書館の移転
大阪の御堂筋線と直通で運転されている「北大阪急行電鉄」の延伸により、箕面船場阪大前駅という新駅が2024年3月に開業しています。この延伸計画とともに、現在地よりも箕面市の奥の方にあった大阪大学の旧箕面キャンパスを、もともと繊維工業団地だった現在の土地を箕面市と交換して、現在の箕面船場阪大前駅前にあるキャンパスに移転する計画が持ち上がります。一方で箕面市立萱野南図書館が、同じ沿線上にあったものの、場所が不便でアクセス性が悪く、利用者が少ないという課題を抱えていました。萱野南図書館は築25年程度で新しい建物ではありましたが、再開発に伴い大学図書館と一緒になることで、市民の利便性の向上にメリットがあると捉えて、移転が決められたといいます。
指定管理料ゼロ!で市立図書館を運営
図書館は、1階は書庫、2〜4階が図書館、5〜6階は生涯学習センターという作りになっています。建物の建築費用は36億1千万円で、箕面市が負担しています。そして驚くべきことに、図書館の運営も、生涯学習センターの運営も大阪大学が指定管理者に選定され、それぞれ指定管理料ゼロで運営が行われています。大阪大学に市立図書館の運営を委託する箕面市は、1円も払わずに管理運営してもらえるということです。指定管理期間は5年で、評価等もなされるものの、将来にわたって大阪大学が指定管理者になることとされて、指定管理者の公募は行われないことになっているそうです。
図書館は正確には、2階は箕面市立図書館の蔵書、3、4階は大阪大学の蔵書(1階の書庫は大学の蔵書)、と分けられていますが、フロアの移動は制限がないので、2〜4階は自由に動けます。市立の蔵書が10万冊、大学の蔵書が60万冊、合計70万冊の蔵書となっています。貸出についてはそれぞれの登録が必要で、市立図書は市立図書館貸出券、大学図書は学生証か大阪大学図書館利用者票が必要となっていますが、利用者票は一般の方でも取得できるので、誰でも全体の図書を借りることができます。
すごしやすい居場所としての図書館
2階は市立図書館として多くの市民が気軽に立ち寄れて利用しやすいように、フロアの色調を明るくするなど工夫がなされています。子どもたちが過ごしやすいキッズスペースが設けられたりしている部分は「にぎやかエリア」とされ、声を出して過ごしても大丈夫なエリアとなっています。「一般エリア」とは物理的に空間を隔てていて、静かに過ごしたい人は一般エリアや上階を利用できます。
3階、4階は大学図書館部分となり、色調は落ち着いたトーンにされ、静かに過ごす雰囲気がつくられています。外国語学部(旧大阪外語大学)のキャンパスであるため、蔵書には25の専攻言語のうち日本語と英語を除く23言語の図書が収集され、普段目にしないような様々な言語の図書を手にすることができます。誰でも利用できる「研究個室」や、「ラーニング・コモンズ るくす」という会話OKでグループ学習や、ラーニング・サポーターへの相談ができるスペース、授業や講座が可能なスペースなど、大学図書館ならではの作りとなっています。「中高生専用自習席」が両フロアに設けられています。2階で利用申請が必要ですが、スペースを設けることで中高生もゆっくり利用でき、かつ大学生や一般の利用者が過ごすスペースも確保されるように工夫されていました。
箕面市の図書館政策
箕面市には6つの図書館と、小規模な図書コーナー(人権文化センター内)が1か所設けられています。蔵書数は約79万冊で全国6位、館外個人貸出数は約170万点で全国2位と、図書館行政が充実した都市となっています(※順位はどちらも人口15万人未満の市区。数字は令和元年。)。昭和60年頃から図書館整備が推進され、それまで1館しかなかった図書館が、現在の配置まで増えてきたそうです。行政が主導したというよりも、市民が図書館協議会の設立を働きかけるなど、市民にとって必要な施設として、市民が図書館行政の拡充を牽引してきたという歴史があるそうです。そのためか、各図書館では住民票の発行ができるようになっているということで、驚きました(2024年度で終了)。箕面市は東西の移動手段が限られているため、市役所から離れたエリアの住民にとっては公共サービスへのアクセスは困難であり、図書館は公共サービスを必要とする場所に建てられたのではないか、と図書館長は推測されていました。
図書館の整備においては、1館を除いて、他の公共施設との複合施設として整備されています。船場図書館に移転した萱野南図書館は、教育センターとの合築の施設でした。上述の通りまだ古くない建物でしたが、利便性の向上というしてんで船場図書館として移転した現在は、郷土資料館として活用されているそうです。その他の図書館も生涯学習センター等との合築となっています。「小野原図書館」が整備された際には(平成25年)、整備予算を捻出するために、他の既存図書館のICタグ化を進め、人件費を削減し、そこから捻出された財源によって整備が行われたそうで、図書館を整備するためにあらゆる検討、工夫が行われてきたことが興味深いところでした。
船場図書館の5・6階にも生涯学習センターが設置されています。指定管理者の大阪大学は、生涯学習講座を年24回開催する契約になっていて、図書館では講座に関連した展示を行うなど、建物と管理者が一体となった企画が行われています。今年度も8月に「図書館活用法」という講座が、生涯学習センターで行われます。郷土資料の調べ方なども行われていて、従来の図書館主催講座では考えられないほどの申込みがあり、従来の図書館の立場からは驚くほど好評だったといいます。市立図書館、大学図書館、生涯学習センターが一体として建てられ、大学という1つの管理者が全体を管理しているメリットの1つとなっています。
現在と今後
新駅開業にともなう再開発事業においては、大阪大学のキャンパスの移転のほか、箕面市立文化芸術劇場も新設されています。大ホール1,400名、小ホール300名という大きなホールです。マンションの開発も進められている他、箕面市立病院の移転や、市立病院移転後の跡地での小中一貫校の新設などが計画されています。
鉄道の延伸と新駅設置、再開発事業によって、人口誘導も目指されてきました。御堂筋線から直通運転されている路線に、魅力ある図書館が整備されたことで、近隣自治体から船場図書館を訪れる方も多く、北摂地域での図書館の相互利用協定もあり、他自治体の方への貸出も多くなり、船場図書館は箕面市で最も利用者の多い図書館になっているそうです。公共交通の行く先に、図書館、文化芸術劇場、大学という文化施設が集積し、住居、教育施設、医療機関が近接しているという、魅力ある街が完成しようとしていて、今後どのように発展していくのかも大変興味深い場所だと感じました
所感
箕面市の図書館数は人口約22,700人に1館(人口136,038人で(令和6年7月))、蔵書数は一人あたり6.2冊(令和5年度蔵書845,585冊)と、それぞれ横浜市とは比べ物にならないほど充実していますが(横浜市は約20万人に1館、1人あたり蔵書1.1冊)、図書館政策の推進は市民が牽引してきたということ、更に住民票の発行が可能という住民窓口の機能も併せ持ってきたということから、いかに市政が市民の図書館ニーズと、市民サービスの向上に向き合ってきたかが伝わり、驚き、羨ましくも思いました。利便性の向上のためとなれば、築25年程度のまだ使える施設から場所を移転することも厭わず、大阪大学と協働で市立図書館と大学図書館が一体化した他にはない図書館を整備し、周辺自治体から多くの来街者が訪れ、人口増加にまでつなげようとする意欲と政策的判断が、素晴らしいと感じました。横浜市では、まだ1区1館以上の整備方針を持つことができず、駅前再開発事業での図書館新設という機会も失いながら、全国の政令市最低の図書館という現状を相変わらず維持し続けています。教育と文化の機会を市民に十分に提供しない横浜市と、住民ニーズに的確かつ柔軟に応える箕面市のコントラストを強烈に感じました。私はとにかく横浜市は、図書館数を増やさなければならないと考え、提案を続けています。
※藤崎浩太郎の図書館に関するこれまでの取り組みはこちらのリンクからご覧ください。
2階には、生涯学習センターの企画に合わせた展示。訪問した日は「現代演劇について」。
2階のサービスカウンターは、写真の右側は市立図書館、左側は大学図書館のカウンターと機能が分かれています。
3階の貸出機。市立図書館はICタグ、大学図書はバーコードリーダー。
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