2024年6月20日、横浜市が里親養育包括支援事業を委託している、横浜市内初のフォスタリング機関「さくらみらい」にお邪魔してきました。運営するのは「特定非営利活動法人さくらみらい横浜」で、里親や児童養護施設、児童相談所など、様々な経験をお持ちの方々が設立された、スペシャリスト集団といえる法人です。
横浜市の里親の状況
日本の社会的養護政策では、「家庭養護」優先が掲げられています。「家庭養育」は里親、ファミリーホームと定義されています。横浜市の里親の状況としては、里親登録数は令和5年度で277組(平成26年度は141組)、里親等への委託児童数が令和5年度139人(平成26年度は85人)、里親等委託率が令和5年度20.7%(平成26年度は12.7%)となっていて、里親数も委託数・率も増加しています。また、横浜市の児童虐待相談の対応件数は令和5年度14,035件で前年度比8.2%と、増加傾向にあり、児童相談所や一時保護所を通じて、養護が必要な子どもがますます増えていく可能性があります。
フォスタリング機関とは
フォスタリング機関とは、(1)里親のリクルート、(2)法定研修等の実施、(3)啓発活動の実施、(4)里親家庭への相談支援活動等、を行う機関です。従来は児童相談所で行われていた業務を民間事業者に委託し、委託された事業者が包括的な支援を行います。里親目線での支援を充実させ、児相ではできない、一貫し継続した質の高い里親養育の実現し、子どもたちの最善の利益の追求・実現が目的とされています。さくらみらいは横浜市からの委託を受け2023年9月から業務をスタートし、この間児童相談所の業務を引き継ぎながら、フォスタリング機関としての業務を進められています。
フォスタリング機関で働く資格要件は、国によって定められています。社会福祉士、精神保健福祉士、里親養育もしくは児童養護や乳児院等施設で5年以上従事した者、児童福祉法第 13 条の第3項各号のいずれかに該当する者、もしくは、横浜市が要件を満たしているとみなした者、となっています。どの資格も様々な現場で活躍されている資格であり、里親経験や勤務経験については5年以上の経験が必要とあり、組織運営における人材の確保は、今後課題になりそうだと感じました。
民間に委託されたことによる効果
従来は児童相談所(行政)が行っていた業務が民間に委託されたことで、早速効果も上がっているということでした。「横浜市里親制度説明会」は、従来型の公共施設での開催に加え、オンライン開催が加わったほか、「里親カフェ」という実際に養育を行っている里親と里子が参加して、これから里親になろうかと検討している人が、当事者と直接話せる機会が設けられています。民間ならでは工夫により、説明会への参加者が増えていて、さらに里親になろうと一歩前進する人たちも増えているといいます。
実際に里親に認定されるには、説明会への参加の後、複数回の面接、法定研修、家庭訪問、施設等での2日間の体験などを経たうえで、里親審議会にて審議され、審議員全員の賛成が得られると、晴れて里親に認定されるという流れになります。概ね1年程度はかかるそうです。様々な背景、課題を抱えた子どもたちを預かっていただく大切な仕事であり、その分、丁寧な審査プロセスが設けられています。
フォスタリング機関では相談支援も行われていますが、里親のおかれた環境において、相談しやすい環境づくりは課題があると学びました。関係する里親会においては毎月、児童相談所4エリアにおいてピアサポートの「里親サロン」が開催されていて、実子のいる里親同士の集まりや、里子の不登校に悩む里親の集まり、シングルの里親の集まり、外国につながる子どもの里親同士の集まりなどが設けられているということでした。フォスタリング機関においても、「ミニサロン」としてピアサポートを実施する計画ということでした。ただでさえ里親の絶対数が少ないなかで、同じような境遇にある人を探すのも大変でしょうから、状況を共有しあい、相談しあえる環境は重要だと考えます。また、従来から児童相談所にも相談はできたものの、こどもをされる里親としては、委託する児相に信頼され、期待に応えられるようにしたいと思うと、児相には弱音を言えないという里親の本音もあると聞き、気付きになりました。
現在、横浜市においても子育てしやすい環境づくり、子育てしながら働きやすい環境づくりに取り組まれています。しかしながら、制度設計において里親家庭が十分に考慮されておらず、働きながらでは難しいと里親を諦めざるを得なかったり、里親になるために仕事を諦めざるを得なくなるという課題があることも、今回の視察で示され、何とか解決すべき課題だと考えています。私はこれまでの議会質疑において、社会的養護の充実に取り組み続けています。里親制度の充実をはじめ、社会的養護のあらゆる課題についてこれからもしっかり取り組んで行きたいと思います。
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