2025年8月18日に世田谷区立教育会館を訪問し、世田谷区の学びの多様化学校の取組についての視察を行いました。私はこれまで議会において、横浜市としても学びの多様化学校を設置することを提案し、岐阜市立草潤中学校、大阪市立心和中学校の視察を行ってきました。世田谷区では2022年度に分教室型の学びの多様化学校「ねいろ」を設置し、2026年度には本校型の北沢学園中学校が開設されます。先行する世田谷区において分教室型がどのように取り組まれ、本校型はどのような内容になるのかについて学びたいと考え、今回の視察を行いました。
体験入学が必須。「ねいろ」の特徴。
ねいろは2022年度に設立され、現在4年目を迎えています。各学年20名を定員として、2025年4月1日時点では1年生19名、2年生10名、3年生17名の合計46名が在籍しています。毎年2学期からの転入もあり、4月の段階ではあえて定員に満たない数でスタートさせているといいます。今年度も9月から数名転入予定で、全体で50名程度になる見込みとのことでした。授業時間は年910時間で設定され、午前中は50分授業を3コマ、午後は1〜2コマで運営されています。部活動や生徒会活動はなく、放課後は生徒それぞれが復習や学び直しの時間に使い、教員がサポートをしています。在籍者のうち3割程度が不登校になっていて、保健室登校の生徒もいるという現状もありました。朝は9:00のウォームアップから始まり、授業自体は9:35に1時限がスタートするのでゆっくりとしています。休み時間も15分という少し長めの設定で、子どもたちはこの時間にもトランプなど遊びを楽しんでいるそうです。昼休みは昼食時間とは別に20分の休憩時間があり、余裕のある時間割となっています。
入学にあたっては、4週間の体験入学が必須とされています。1学期と2学期に体験期間が設けられていて、小学6年生など4月転入の場合は2学期に体験し、2学期入学の場合は1学期に体験するというスケジュールです。体験の前半はねいろに通うことができるかどうかに重点が置かれていて、1時間だけねいろに滞在し心理職と話して過ごすということが行われたりしています。後半になると既存の生徒と一緒に過ごして、みんなと学ぶことができるかどうかの確認が行われます。ほとんどの子どもは4週間を乗り越えられるものの、1〜2割の子どもが途中で抜けてしまうそうです。中には、4週間を乗り越えたことで自信をつけてる子もいて、通常の学校に通っている生徒もいたそうです。この体験を通じて、生徒本人も覚悟を決めていくことになっているようでした。一方で、各学年20名という定員と、既存生徒もいるなかで、全ての体験希望を受け付けることができないため抽選となっていて、申し込んでも体験をできないという子どももいるという状況でした。
子どもの自主性の重視と幸せの探求
世田谷区では2025年3月に「世田谷区立学びの多様化学校(不登校特例校)等基本計画」が定められ、めざす学校像として「自分の将来へのリスタートを切る」ことが目標に掲げられています。今回の視察でも学校長からは「学ぶことをリスタートする場」と位置づけているという説明がありました。入学にあたっての面談でも本人や保護者と、「やり直してゴールしよう」という気持ちの確認作業が行われているそうです。このリスタートは本人の意思であるということから、ねいろにおいては生徒の自主性が大切にされています。子どもたちのやりたいことや意欲を重視し、子どもたち同士での合意形成を大人がサポートするという運営がなされています。
1つの形として「幸せの探求」という授業が行われています。子どもたちは自分自身を「少数派」と位置づけていて、自分たちが社会で認められるのか、隔絶してしまわないかと、自分たちの将来を本当に心配しているといいます。そのため、自分たちの幸せを考える授業が行われています。幸せ探求では講師を招いていますが、誰に話を聞くかも子どもたちが考えいて、最初に招いた講師は不登校の先輩だったそうです。2回目には「お金持ち」を招き、自立にはお金が必要だが、幸せの十分条件ではないという講話が行われたそうです。子どもたちの興味を形にするのが先生の仕事であり、「こうすれば幸せになれる」とやるのは仕事ではないと考えて取り組まれています。
分教室型のメリットとデメリット
世田谷区立教育会館を活用している「ねいろ」は、世田谷区立世田谷中学校の分教室という位置づけです。元々は教育センターとして使われていた施設で、世田谷区立中央図書館と建物を共有しています。教育センターが移転し、跡利用という形で学びの多様化学校(設置当時は不登校特例校)として設置されています。元々学校ではないため、外観も、内部も見た目から学校らしくなく、チャイムも鳴らず、配置されている学習机も一般の学校とは異なるデザインのものが用意されていることも学校らしくなく、「学校らしくない」ことで、不登校で学校に行けなくなっていた生徒でも、精神的なハードルを低くして、通いやすい環境が提供できるというメリットがありました。また運動会や学芸会は、本校に行って規模の大きな環境の中で参加し、表現できるというメリットも指摘されていました。人前に出るのが苦手な生徒もいるので、裏方での参加や、別室で鑑賞できるようにするなど工夫も行われています。学芸会の準備も内容も素晴らしく、とても感動する内容であったということでした。普段は分教室で学ぶ生徒たちにとっても、いい機会になっているそうで、約500名の生徒を抱える世田谷中学校の分教室だからこそ得られる環境となっています。
分教室といっても、世田谷中学校とねいろは徒歩で30分ほどの距離にあることがデメリットの1つです。学校長や副校長は分教室に配置されないので、何かあったときに駆けつけるにも時間がかかることが指摘されていました。また、元々学校ではない建物を使っているため、美術室や音楽室、校庭が無いため、近隣の桜木中学校の施設を借りて授業を行わざるを得ないという課題もありました。教諭の配置も本校の規模に左右され、教諭は5名定員のところに1名加配をしていました。養護教諭は会計年度任用職員のため、子どもがいても養護教諭がいない日もあるなど、子どもたちの環境としては十分でない面が指摘されていました。
2026年4月開校予定「北沢学園中学校」
世田谷区は2026年4月に、新たな学びの多様化学校「北沢学園中学校」を一条校として設置します。廃校となっていた「旧北沢小学校」の校舎の後利用によって設立され、学びの多様化学校の他、4か所目の「ほっとスクール」(教育支援センター)や子どもの居場所等の複合施設として旧校舎が活用されるものです。各学年20名、合計60名定員でねいろと同じ規模での運用となります。ねいろと大きく異なるのは、「本校型」であることで校長も副校長も配置され、11名の教諭が配置されます。旧校舎の活用なので校庭や体育館があるため、ねいろのように近隣の学校施設を借りる必要がありません。授業時間についてもねいろ開設当時より基準が緩和されたことにより、北沢学園では年840時間とされていて、標準授業時間1,015時間より約2割少ない授業時間の設定になっています。時間割は示されていませんが、ねいろでも15分の休憩時間が取られていましたし、授業のコマ数も減るでしょうから子どもたちはゆったりとした学習時間を過ごせる環境になりそうです。一方で心配されていたのは、「学校らしい」施設環境になることで、子どもたちの心理的ハードルが高くなってしまわないかという点です。この課題は世田谷区の場合2種類の多様化学校を持つことによって、子どもたちにより合った環境を選べるという側面も生じるかもしれないなと思います。
北沢学園中学校の設置にあたっては、区長の思い入れが非常に強かったといいます。ねいろ設置の際は区長と教育委員会双方の想いで動き、ねいろで子どもたちが変化する様子を見て、一条校で多様化学校を設立したいという想いが強くなっていったそうです。そうした想い、考えがあるなかで、利用できる場所(旧校舎)があったことから、北沢学園中学を一条校で設置する方針が決まっていったそうです。保坂展人区長は学びの多様化学校を、不登校児童生徒のためではなく学校改革の一環として捉えているそうで、不登校特例校という名称が学びの多様化学校に変わっていったように、世田谷区では多様な子どもたちに学びやすい環境を提供しよう、リスタートできる学習環境を用意しようという意思が強く反映されているように感じました。
まとめ
世田谷区では学びの多様化学校以外に、学校内外での不登校支援メニューを複数設けています。その選択肢のうちの1つが多様化学校であり、不登校児童生徒個人個人の状況にはグラデーションがあるため、子どもや保護者に接する職員には、幅広い視野で施策を捉えて、子どもや保護者のニーズに応えられるようにと指導がなされていました。教育委員会としては、地域コミュニティとのつながり、友人関係などの重要性もあり、在籍校にとどまってもらうことが良いと考えているそうで、そのために「ほっとスクール」(教育支援センター)や、オンライン支援の「ほっとルームせたがYah!オンライン(ONLINE)」といったメニューを用意し利用して欲しいと考えていらっしゃいました。
学びの多様化学校に通うことを決めて、体験入学を乗り越えていざ転校した子でも、3割が不登校になっているというのは、いかに子どもたちが困難な環境の中で学校に通っているのかということを示しているようにも思います。一方で、これまでの卒業生のほとんどが上級学校に進学していて、都立の全日制や私立の普通科に進学している生徒も多くいます。上級学校に進学しなかったのは4年間で2名で、そのうち1名は芸能の道を選び進学をしなかった生徒と、もう1名は体調不良で卒業直後の進学はできなかったものの、体調が回復した1年後に進学をしている生徒でした。子どもたちは学びの多様化学校を通じて変化し、成長し、自立への道を歩む力を身に着けているようでした。
横浜市ではまだ学びの多様化学校の検討など予算化されていません。約25万人の児童生徒を抱える横浜市では、2023年度で9,775人の不登校の子どもたちがいました。不登校の定義には入らないものの、不登校傾向であったり、別室登校であったり、学びの機会を十分に得られていない子どもはより多くいると考えられます。横浜市でもハートフル事業として「ハートフルスペース」、「ハートフルルーム」、「校内ハートフル」など不登校支援事業が展開されていますが、在籍校の外で学校教育を受けられる機会は公的には用意されていません。私立の学びの多様化学校はありますが、学費も必要になり、家庭の経済環境が豊かでなければその選択肢を利用することができません。横浜市の行う不登校児童生徒の支援策として、横浜市立学びの多様化学校は欠けているピースであると考えています。様々なグラデーションにある子どもたちの中で、横浜市で育つ子どもたちの中にも学びの多様化学校という選択肢がピッタリと合う子どももいると思います。私は横浜市でも、公立の学びの多様化学校を設置する必要があると考えています。
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