不登校生徒が通う学びの多様化学校。大阪市立心和中学校視察報告。

2024-04-13 13:00:24 | カテゴリ:活動報告


心和中学校

2024年4月11日、会派の有志で大阪市立心和中学校へ視察に伺いました。心和中学校は今年の4月に開校したばかりの「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」で、大阪府内では初の設置となっています。以前私は、岐阜市立草潤中学校(学びの多様化学校)の視察も行い、議会において横浜市でも不登校特例校を設置するよう、提案をしてきました。横浜市と同様に政令指定都市であり、人口規模も大きい大阪市が多様化学校を設置することを知り、開校後間もない中ですが視察の受け入れを相談したところ、快く受け入れてくださいました。

開校の経緯:不登校生徒が多い大阪市

大阪市では5年ほど前から多様化学校の検討が行われてきました。検討の経緯としては、大阪市の不登校生徒数が当時政令指定都市で最も多かったということがあります。近隣では京都市が先行して多様化学校に取り組んでいたため、京都市立洛友中学校や京都市立洛風中学校の視察が行われ、昼間部、夜間部を持ち大阪市の目指す方向性に合っていた洛友中学校が参考にされています。

心和中学校の校舎は、廃校となった旧日東小学校の校舎を利用しています。近隣の小中学校の再編と、小中一貫校の設置によって廃校となったという経緯があります。合わせて、当時4校あった夜間中学校が、利用者の減少や建物の老朽化の課題によって統廃合の動きもあり、2校を統合して、心和中学校の夜間部として設置されています。心和中学校の開校にあたって、改修には約10億円、備品の調達等に約1億円、合計約11億円が投じられています。

心和中学校の特徴

学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)は、不登校児童生徒に配慮した特別な教育課程を編成し教育を行う学校で、文部科学省に申請し、指定され、設置されます。標準中学校では1015時間の授業を行うところを、心和中学校の場合770時間としています。770時間に減らすためには、文科省と何度もやり取りをおこなう必要があり、授業の時間数を減らす代わりにどうやって補うのかについてのやり取りが、一番苦労した部分でもあったそうです。

授業編成において力を入れられた部分として、総合的な学習の時間が増やされています。総合学習では「SQ(セルフクエスト)」という、学び直しや力を伸ばしたいことに取り組む時間が充てられています。生徒の状況によっては、九九ができない、漢字を書けないという子も居るため、SQの時間で学び直しを行っています。不登校であったものの塾には行っていて学力は一定程度ある、という生徒も居るため、そうした生徒は得意分野を伸ばしたり、将来の進路・なりたい仕事に向けて必要な学びを行う時間となっています。

心和中学校の昼間部は、始業時間が13:15で、1時間目が13:35〜14:15。最後の5時間目は17:00〜17:40で、振り返りの時間を終えて下校できるのは、18:00となります。昼過ぎから学校が始まるのは、起立性調整障害の子たちは朝起きられないので、午後からの授業としているそうです。校則はゼロで、服装は自由ですし、ピアスもOK、髪色も自由という条件になっています。

子どもたちの募集と選抜

子どもたちの入学のタイミングは、前期と後期に分かれています。前期は30名で中2と中3の生徒が定員30名、後期は中1〜3の全学年で定員40名と定められています。草潤中学校では200名もの応募があったことを参考にして、初年度1回目の募集要件は少しハードルを上げて転入の応募受付を開始したといいます。募集にあたっては、各学校と先生に依頼し、不登校生徒のうち心和中に合いそうな生徒に案内の資料を配ってもらっています。しかし、面談が終わった時期に「知らなかった」と問い合わせがあったり、開校にあたって報道されたことで知ったという人もいたそうで、後期の募集にあたっては案内の方法が課題となっていました。

昨年8月に行われた保護者説明会には45名の保護者が参加し、その後の面談申し込みには36件となり、実際に面談が実施されたのは30件となっています。保護者が通わせたいと思っていても、子どもが面談に出られないというケースが6件あり、面談実施件数が30件となっています。最終的に転入申し込みに至ったのは26名。4名減ったうちの2名は、初めてできる学校の様子を見て、後期での転入検討となり、残りの2名は、もとの在籍校で頑張るという判断に至ったため転入にならなかったそうです。4月に転入した26名のうち、20名が3年生、6名が2年生で、女子が19名、男子が7名となっています。3年生が多いのは、高校進学を目指して考える時期であることが影響しているそうです。

募集にあたっての「対象生徒」という要件には6項目があり、すべてを満たす者とされています。抜粋すると、(1)在籍校への登校が困難な者、(2)心和中の教育課程を理解している、(3)心和中で卒業まで学習する(元の在籍校への転校は認めない)、(4)保護者責任のもと安全な登下校が可能、(5)心和中に転入することで登校が可能になると在籍校長に判断された者、(6)教育委員会事務局に転入が適当と判定された者、という6項目です。上述の通り、応募者数が多くなりすぎないようにハードルを上げたという側面があるとのことでした。(3)の在籍校への転校を認めないという条件は厳しいようにも感じましたが、心和中に転入しなくても他にも教育支援センター等の選択肢もある中で、軽い気持ちで心和中を選ぶのではなく、学校に通いたいという強い思いで選択してほしいという考えがあったとのことでした。とはいえ、生徒のための選択肢の1つが心和中なので、転入後に必要と認められれば戻す可能性もあるとのことでした。限られた定員のなかで、心和中に通いたいという生徒がその機会を得られるようにするために、対象要件を厳しくしているようでした。開校から1週間経ち、学校に通いたいという強い気持ちの生徒ばかりとのことでした。

今回の入学については、転入を認めなかった生徒はいなかったそうです。もし定員をオーバーしてしまった場合は、「抽選を実施」することが案内においても明記されていました。しかし本当は抽選を実施したくはなく、多少の超過が生じる場合は、なんとか受け入れられるようにしたいと考えてきたそうです。校則がないほか、例えば週5日のうち3日は心和中に登校し、残りの2日はこれまで利用してきたフリースクールに通う、というような柔軟な登校スタイルも認めています。面談の段階で当該生徒の特性や関心を見極められるようにしていて、本当に心和中が良いのかを相談し、他の手段が合いそうであれば、そちらを提案することもあるそうです。通えるのは大阪市民で市内全域から通うことが可能で、24区のうち18区から生徒が通っています。遠い生徒だと1時間くらいかけて通学している状況ですが、通学に係る交通費は家庭で負担する必要があるため、交通費が壁になり諦めている家庭もあるとのことでした。

令和4年度の大阪市における不登校生徒数は4,430人となっています。4千人を超える不登校生徒に対して、年間受け入れ定員70名では足りないのではないかと質問をしました。もちろんすべての不登校生徒が、すぐに通学できるようになるわけではありませんし、他の手段の方が合うという生徒もいると思います。大阪市として、2校目の多様化学校設置については、現時点で検討されていないとのことでしたが、文部科学省が300校の設置を目指していることから考えれば、大阪市の規模であればもっと必要と判断されることもあり得るだろうとは捉えていらっしゃいました。

心和中学校

学校の中での過ごし方

クラス分けは、2年生3年生を混ぜて、13名ずつ2クラスにし、習熟度別の授業が行われることとされています。ただ現時点では開校したばかりで、生徒それぞれにどのように個に応じた学習ができるか把握できていないため、具体的にはこれからという状況でした。不登校経験者が通っているため、学年に起因する学力差は考えていないそうです。授業をオンラインで配信はしているものの、完全オンラインという草潤中学校のような仕組みにはしていません。基本的に登校したいという気持ちがあり、登校できる生徒が転入しているため、学校に来てほしいという指導となっていました。面談の段階から週に何回登校できるかの確認がされていて、ほとんどの生徒は週5回と答えていて、5回ではない生徒は体力に自信が無いことが理由だったそうです。開校から1週間経過したタイミングでしたが、少し疲れが出て休んでいる生徒もいました。

学校の中には授業を行う教室の他、多目的室や図書室、リラックスルーム、保健室等が設けられ、生徒の都合で過ごす場所を選べるようになっています。どこに生徒がいるのか把握するために、廊下に設置された校舎配置図の自分のいる場所に、名前の書かれた磁石を置くことでわかるようにされています。教室の図書館の空間デザイン、机や椅子、ソファなどは、イケア・ジャパン株式会社が提供していて、普通の学校とは全くことなるオシャレで、居心地のいい空間が用意されていました。不登校を経験している生徒達が、普通の学校とは異なる、学校らしくない環境に身を置けるようにすることで、登校しやすくしようという配慮がなされています。校舎内すべて見させてもらいましたが、カフェのような空間があったり、寝そべるようにゆっくりできるソファがあったり、とても快適な空間でした。

教員とスクールカウンセラー

25名が着任していて、70名定員の学校にしては手厚い配置(加配)がなされています。国語、社会、数学、理科、英語、音楽、美術、体育にはそれぞれ2名の教員が配置されています。教員の配置にあたっては、市教委のなかで公募を行い、新しい仕組みの学校で働きたいという意欲がある人に着任してもらっています。学校の勤務時間が、12:30〜21:00という変則的な時間となっているため(夜間部終了まで)、子育て世代には合わないため、60歳以上の再任用職員が多く、30〜40代の教員が少なく、あとは数名の若手教員という年齢構成とのことでした。教員自身には心理の勉強をしてきたというひとはほとんど居ないとのことですが、臨床心理士の資格を持った学識経験者や、精神科の医者がアドバイザーとして参加する会議を月に1〜2回開いて、アドバイスをもらっていました。

スクールカウンセラー(SC)は週5日間、毎日常駐しているのも特徴の1つです。4名のSCが1日1人ずつ日替わりでカウンセリングルームに居てくれるのは、生徒にも保護者にも安心につながる要素だと思います。予算としては、文科省の補助金(3分の1補助)を受けて実現できていました。

教員たちは、一度不登校を経験した生徒が、心和中に転入してから再度不登校になることは絶対に避けたいと考えて、子どもたちと接しているそうです。生徒の中には場面緘黙の子がいるそうですが、授業中に無理に発言させるようなことは絶対に行わず、ジェスチャーや指差しを交えてコミュニケーションをとっているそうです。既に家庭訪問を行ったケースもあるとのことでした。学区がない学校ですから、家庭訪問にも電車やバスを乗り継ぐ必要性も出てきますが、心和中を選んで来た教員で、二度と不登校にしないという意志をもった先生方なので、いくら遠くから通っている生徒でも、しっかりとフォローしたいと考えているということでした。生徒は自分の担任を自分で選べるようになっていて、5月になったら選ぶことになっていました。

進学・進路のサポート

進路については、面談の段階から卒業後に行きたい学校がはっきりしていて、明確に学校名を挙げる生徒が多かったそうです。いまは不登校であっても、心和中であれば普通の中学校生活を送ることができるという期待と、高校は普通に行ける、通えるという期待を、生徒は大きく持っているそうです。

3年生は高校受験を目の前に焦っている生徒も多くいるため、今後は受験のための講座の実施を検討する必要もあると、校長は考えていらっしゃいました。また、進路希望は一人ひとり全員バラバラになるという見込みのもと、できるだけ個別に対応できるようにしたいとお考えでした。学力が足りなければサポートしたいし、行きたい学校等の関係者に来てもらって生徒に話をしてもらうなど、幅広く子どもたちのための視点で考えていらっしゃいます。多様化学校は授業時間を減らしている一方で、生徒が環境になれて、もっと授業を受けたいという意志を強くするケースが他の多様化学校では生じているようで、将来的に午前中も授業を行う仕組みも検討する必要性がでてくることについても見通していらっしゃいました。

所感

学びの多様化学校の視察は、岐阜市立草潤中学校に続いて2校目となりました。仕組みはことなる部分があるものの、不登校になってしまった生徒たちのために、必要な機会を提供したいという意志を強く感じることができた視察となりました。

横浜市の令和4年度の不登校生徒数は4,701人となっていますが、横浜市内には横浜市立の学びの多様化学校は設置されておらず、具体的な検討もなされていません。私立の選択肢はありますが、授業料などの負担が生じてしまいます。大阪市では、人間関係やいじめ、先生との関係を原因に不登校になった生徒が多くいるそうですが、横浜市も同様です。そうした問題がなければ、普通の中学校生活を送りたいと考える生徒は、横浜市にも同様に居るはずです。横浜市としても、学びの多様化学校を設置すべきという考えを改めて強くした視察となりました。

心和中学校
教室の様子。

心和中学校
多目的室。

心和中学校
図書室。

心和中学校
リラックスルーム。

心和中学校
相談室。

心和中学校
生徒の居る場所表示。青は3年生、赤は2年生。

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