1月17日、堺市の中学校給食の取り組みを伺いに、堺市役所にお邪魔しました。堺市では2016年から、選択制の弁当箱型デリバリー方式での中学校給食を始めています。横浜のハマ弁とよく似た仕組みですが、ハマ弁は給食に位置づけられていません。ハマ弁の喫食率は2019年12月時点で、6.8%と目標の20%には遠く及ばない状況です。堺市の中学校給食も、喫食率目標が20%で、喫食率は8.2%と目標の半分にも至っていません。一方で先日視察した鎌倉市も同様に、弁当型のデリバリー方式で中学校給食を実施していますが、喫食率が80%を超えていました。同じような方式で、喫食率には差があることの背景を調査したいと考え、堺市へ視察調査に伺いました。
中学校給食導入の経緯
堺市では中学校給食導入以前に、「ランチサポート事業」が実施されていました。当日注文で、栄養のバランスなどはあまり配慮されていない普通のお弁当でしたが、2016年11月から「家庭弁当と共存可能な」選択制の給食が始められることとなります。民間委託によってデリバリー弁当方式での実施が決まり、1ヶ月単位での予約を行い、前払方式という制度でスタートしています。給食費の負担額は、標準だと310円、大盛りだと330円、小盛りだと300円で、主食、副食(3〜4品)、牛乳という構成となっています。当時、大阪府は府内の中学校給食実施を推進していて、2011年度から2015年度の5カ年に渡り補助金を計上し、給食室の建設や、保温カートの購入などに、2分の1や4分の1の補助がなされていました。堺市もこの補助金を活用しています。
事業費
2014年度〜2016年度の導入時に要したイニシャルコストは、約10億円。各中学校の配膳室整備に約7億円、保温カート等備品購入に約2億円等がかかっています。ランニングコストは、2018年度決算額で約4億5千万円。内訳は調理委託が約3億7千万円。予約システムの運用に約5千万円等となっています。ランニングコストを喫食数で割ると、1食当たり1,800円の公費負担という計算になりますが(2018年度決算ベース)、これは横浜市同様に喫食数が増えると1食当たりの公費負担額が小さくなるというものです。
利用率(喫食率)
利用率の推移は、2016年7.6%、2017年7.6%、2018年7.5%、2019年8.2%(12月実績)となっていました。利用率の低い原因としては、(1)給食予約が月毎の予約であることでタイミングを逃すと1ヶ月丸々注文できないことや、前払いであること、(2)生徒・保護者の食の好みや、提供される量などによる家庭弁当ニーズの高さ、(3)利用率が低いことで、他の子が利用していない中利用しづらい生徒の気持ちや、保護者も利用させることにためらいがある、という3つの理由が教育委員会として考えられていました。また、弁当の生徒は昼食時間にすぐ食べ始められるものの、給食の子は配膳室に取りに行くことが面倒で嫌がることも指摘されていました。喫食率には学校ごとで幅があり、25%を超える喫食率のところもあれば、2%台の学校もあるということでした。
こうした反省を踏まえて、現在は利用率向上の取り組みが進められています。予約システムは卒業までの間毎月自動的に予約が入れられる「ずっと予約」システムの導入と、クレジット自動支払の導入。申込登録の手間を省くために、小学校6年生の段階で「中学校給食予約システム」へ全員を登録。試食会の充実や、給食日数の少ない7、8、12月に「友達と一緒に給食を食べようキャンペーン」の実施、入学説明会での中学校給食の宣伝、教室訪問でのニーズ把握等、幅広く改善策が講じられています。2019年12月時点での8.2%への喫食率上昇は、こうした取り組みの一定の成果として捉えられていました。
全員喫食への転換
堺市では2019年6月に市長選挙が行われ、全員喫食を公約として掲げた、大阪維新の永藤市長が初当選し就任されています。この時の選挙では、当選を争った得票上位候補者2名が、それぞれ中学校給食の全員喫食への転換を訴えたそうです。2019年11月にはこの選挙結果を受ける形で教育長から、「子育て支援や教育環境の充実の観点から、全員喫食の中学校給食の実施に向け取り組みます。」と、全員喫食制の中学校給食実施に向けた取り組みが示されました。私が視察した時点では、まだ2020年度予算が示されていない段階でしたが、2020年度予算で検討費などが計上されることが見込まれていて、2020年度中の実施計画策定が予定されていました。
所感
質疑の中では神戸市の事例についても触れられていました。神戸市も堺市同様の選択制の給食となっていますが、神戸市では喫食率が30%を超えています。神戸市では全員喫食を基本としていて、その打ち出しが奏功し喫食率が高いのではないかという指摘でした。とはいえ、近年は神戸市の中学校給食は喫食率が減少傾向にあり、市長も「うまくいかなかった政策に入る」と表明し、魅力化の検討も行われています。
鎌倉市の選択制デリバリー弁当型の中学校給食の喫食率が80%を超えている一方で、同様の方法の堺市は8.2%、神戸市は当初50%近い喫食率だったものが34%まで下がり減少傾向にあり、そして給食ではないものの選択制のデリバリー弁当を注文できる横浜市のハマ弁が、やや上昇しているものの6.8%(2019年12月)と、20%の目標には程遠いという状況にあります。選択制の状況下で、様々な傾向がある一方で、全員喫食で中学校給食を開始した川崎市では、実施後の調査で保護者の97.5%が導入を評価している、という結果も出ています。大阪市の実績からは、弁当型のデメリット、課題も示されています。中学校給食を導入するにあたり、どの手法を選択するのかは、あらゆる選択肢をしっかり検討する必要がありますし、何より保護者や子ども達に歓迎されるものであることが重要です。
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