データに基づく観光マーケティング戦略。大阪観光局。

2020-01-17 23:59:39 | カテゴリ:活動報告


大阪観光局

1月16日、大阪にある「公益財団法人 大阪観光局」へ視察調査に訪れました。大阪観光局は、大阪府と大阪市によって設置された、観光地域づくり法人(DMO)です。組織内にマーケティング戦略室を設置し、データに基づくマーケティングに取り組んでいらっしゃいます。

大阪観光局では、観光消費額を上げることを目標に、魅力あるコンテンツを作り、それを磨き上げることに主眼が置かれ、PDCAサイクルが回るような展開がされています。各国のニーズ調査から(P)、ニーズに沿ったコンテンツの開発・プロモーション(D)、経年調査とコンテンツ毎の検証による効果検証(C)、そして問題・課題点の見直し(A)を行い、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら精度を高めていけるように取り組まれています。その中では従来型の「勘・経験・思いこみ」によるマーケティングを脱して、データを活用し、データに裏付けされた観光施策を展開しようと取り組みが進められています。

マクロデータ・ミクロデータ

活用されているデータは、マクロとミクロで整理されています。マクロ調査としては、来阪者数・宿泊数の調査に観光庁の観光客入込統計調査や観光庁・JNTOの来阪インバウンド数、満足度・ニーズ調査に関空での出国直前アンケート、消費額調査にはクレジットカード消費額調査、動線分析にはWi-Fi、GPS、ローミングなどが活用されています。ミクロ調査としては、ナイトコンテンツの調査にGPSやSNS調査、深耕市場コンテンツ調査にWebアンケートやSNS、事業者インタビューといった調査が行われています。

様々なデータ調査から、大阪に訪れている観光客の動向が把握されています。1つの傾向としては、来阪者にはリピーターが多く、全体の43%が2回目以降の訪問となっていたり、関西訪問前に行き先を全て決めている人は32.5%で、3分の2は日本に訪問してから行き先を決めていることなどが動向として把握されていきます。

ナイトタイム・エコノミー「Osaka Night Out」

調査の中でも、夜間経済に関しても重点的に調査が行われています。GPSや「Osaka Free Wi-Fi」を活用して、大阪府域の20時〜4時の言語ごとの滞在状況が調査されています。22時以降、日本人と比べて外国人の活動が大幅に減少していてい、東京都新宿区(大阪市中央区+北区と同規模)と比べても、大阪における外国人の活動時間のピークが早いことが分かり、大阪における22時以降の観光情報、遊びに行く先の情報がないことが課題として設定されます。

この分析結果に基づいて、実証実験「Osaka Night Out」に取り組まれます。平成30年2月末からの8月末までの半年間の実証実験で、クラブ、バーレスク、バー、マッサージ、エステ、マジックバー、シュミレーションゴルフ、ラウンド1(ボウリング)、焼肉店の合計19店舗の参加により、Webサイト「Osaka info」内での紹介や、ショップリスト掲載のQRコードからの割引クーポン発行(利用可能時間21時〜24時)がされるというパッケージでした。

分析方法は、(1)Osaka Free Wi-Fiの分析と、(2)Beacon(ビーコン)設置によるプッシュ広告分析、(3)アンケート分析(加盟店の声)という3つの方法によって行われています。その結果、21時〜24時の観光ニーズがあること、特に韓国や欧米からの観光客が活発であること、中国、台湾、香港客向けのコンテンツが必要であること、「2店舗以上訪問」が一定数いて、回遊性を高める仕組みが効果的と考えられることなどが分析されていきます。また施策の効果検証について、Wi-Fi計測の課題や紙媒体による効果把握が出来ていないことなど課題も把握されています。You TubeやBaiduを活用した、動画視聴による旅前のデジタルプロモーションに取り組まれていましたが、集客に直結しているのかどうかの把握ができないという課題に直面し、いま大阪に来ている人に情報を提供できる新たなプロモーションの仕組み構築が必要であるということも検証されていました。平成31年2月から「Osaka Night Out」は本格実施されていますが、すでに効果検証が行われていて、Webサイトの再構築など把握された課題への対策が講じられようとしていました。

観光データベース

今後の取組で力が注がれようとしているのが、観光データベース「DMP(データマネジメントプラットフォーム)」です。外国人観光客が(1)海外(自国)でアクセスWebサイト訪問履歴やアプリのログ、(2)日本に入国後のGPSやWi-Fi、Beaconのログを所得し、(3)国内移動中にプッシュ通知や広告配信を行い、(4)来店のログも取得していくことで、(1)〜(3)で広告等に接触したかどうかを効果測定しようとされています。これまでも、「Osaka Night Out」のアクセス解析から、検索エンジンの流入元や、検索ワード、人気ページランキング、満足度(直帰率)、言語ごとの検索ワードなどが蓄積され、分析されています。分析の結果、SEO対策の課題や、デジタル広告の活用などの課題が明らかになっています。また、デジタル広告においては、優良顧客のペルソナ、ターゲット層の構築が図られていて、無駄のないターゲット広告と、PDCAによって、より効果を上げようと試みられています。

予算・組織

元々は、よくある形で、市の施策を実施するためのコンベンションビューローとして存在していたが、大阪維新の会の橋下市長、松井府知事体制の下、より独立して観光施策を展開するために大阪観光局が設置されました。予算は年間約13億円で、大阪府から2.5億円、大阪市から2.5億円の来る他、自主財源としては約120万枚販売している「周遊パス」からの収益や国からのDMOに対する補助などで賄われています。職員は約60名ほどいて、20名ほどが民間からの出向で、大阪メトロ以外の電鉄関係、JAL、ANA、旅行代理店、関空から人が来ているそうです。マーケティング戦略室長の牧田さんも民間の通信会社出身でした。その他、大阪府から常務理事、大阪市OBの常務理事、民間からも常務理事(現在は近鉄から)が来ていました。

質疑から

マーケティング戦略室では、当初Webサイトなどを作れば認知が進ものと考えていたものの、ユーザー目線でのコンテンツづくりが不十分で、魅力がないコンテンツでは利用者が伸びず、その結果必要とするログが溜まらないという問題に直面したといいます。現在はその反省から、サービスを重視した作り直しを行っていて、ホテルに帰った後に翌日の行き先などを検討できるように、紙媒体の準備が進み、市内375ホテル約45,000室に、「Osaka Night Out」の冊子を配布されることになっていました。

組織的な課題としては、データ活用という新たな手法を、組織内で理解してもらい、浸透させることに時間を割かれているようでもありました。従来型の「勘・経験・思いこみ」とは全く違う手法との壁や、組織内外での縦割りもあったといいます。データに基づいたマーケティングをより効果的に行っていくためには、全体の組織改革につなげていかないと上手くいかないのではないかと指摘されていました。

データ分析においては、しばしば「Osaka Free Wi-Fi」の活用が示されました。フリーWi-Fiが重要な役割を果たしていますが、一般的に他都市で行われているフリーWi-Fiはインフラとしての整備にすぎません。大阪のようにデータ分析に活かしているのは珍しい事例です。大阪では2013年からフリーWi-Fiの設置が進められていました。NTTと連携が行われていて、統一認証によってどこでも同じ1つのアカウントで接続できることが目指されてきました。現在アクセスポイントは6,500ヶ所に及び、拠点数では5,500となっています。月間300万認証、ユニークユーザーは60〜70万人とのことで、1,200万人の来阪者の約半数は、何らかのフリーWi-Fiを利用していると見込まれていました。大阪が統一認証に取り組み始めた段階では、まだ企業が独自でのフリーWi-Fi整備を始める直前であったため統一認証が実現できたものの、1年遅ければ各社がそれぞれ整備を進めてしまったかもしれず、その場合は投資が進んだ後となり統一認証に転換ができなかったのではいかと、タイミングも良かったと指摘されていました。

大阪観光局としては独立した組織として実行力を持たされているものの、一方では大阪府、大阪市も独自の観光施策を講じていて、その辺の組織感のバランスには課題がありそうでした。大阪府では2017年から宿泊税が導入されましたが、この税収は全てが大阪府に入り、その額は年間約10億円ほど。府が展開する補助金を観光局が受けるということで観光局にお金が入ることはあっても、宿泊税が直接観光局にはいる状況にはありません。また、イルミネーションイベントの「光の饗宴」は府が主体で、宿泊税が予算として充てられていて、観光局は実働には入っていない状況でした。

所感

経済政策として、観光施策の充実が横浜市でも取り組まれ、インバウンドの獲得など誘客促進のためのプロモーション事業などに予算が計上され、実施されています。しかしながら、具体的にどれだけの因果関係をもって観光消費額の向上などの効果が得られているかなど、まだまだ調査分析には課題があります。大阪観光局も手探りのなか取り組みを進めていらっしゃいました。DMOとしてデータマーケティングに取り組んでいる事例は少なく、大阪観光局の取り組みは国内でもトップランナーだと認識していますが、それでも苦労され、途上にありました。横浜市も限られた財源を有効に活用し、より効果のある観光施策を展開するためにも、積極的にデータ分析や、データに基づくマーケティング戦略の取組みを進める必要があると考えています。

大阪観光局

Post comment