認知症の人、その人の意思を大事にしたまちづくり。町田市認知症施策。

2022-01-14 19:10:47 | カテゴリ:活動報告


認知症の人にやさしい街プロジェクト

2022年1月12日町田市役所を訪問し、町田市の認知症施策について視察を行いました。あざみ野では、やさしい街あざみ野実行委員会による「認知症の人にやさしい街プロジェクト」が取り組まれ、私も副委員長として参加しています。今回の視察では、町田市役所の視点だけでなく、地域の方々で認知症に関する取組を進めてきた、一般社団法人Dフレンズ町田の代表理事松本礼子さんからもお話を伺うことができ、当事者支援の視点から様々ご意見を伺うことができました。

当事者が企画する認知症カフェ「Dカフェ」

町田市の認知症の取組で有名なのが、「Dカフェ」と題した認知症カフェを、スターバックスコーヒーの店舗で開催している取組です。町田のDカフェがスタートしたのは2015年。認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)が出された年です。認知症の人やその家族が、地域の人と専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う場として、認知症カフェの実施が構想されます。ただ、当時すでに全国で認知症カフェの取組が行われてたことや、うまくいっていない事例もあったことから、認知症当事者の声を聞くことから始めています。その結果、「ただのお茶のみ場には興味がない。自分で行ける。」という意見や、「社会とのつながりを持ち、役に立つ実感を得たい」、「仲間をつくりたい」、「正しい理解をしてほしい」、「世代を超えた交流」といった意見が当事者から出されます。こうした意見を集約した結果、「見守られるより、自分にできることで地域に貢献したい」という当事者の考えが明確になっていきます。その当時の状況としては、地域資源が認知症の人を支える側に偏りがちだったとされています。

合わせて、「どんな人に語りかけるのか?」が整理されます。認知症の診断は、当事者や家族にとって絶望となってしまい、早期に認知症の診断が出ると、介護サービスが必要になるまでに空白期間があり、その間の当事者や家族を支えるサービスがないという課題から、そうした状況にある当事者・家族を主な対象にすることが定まっていきます。また、当事者の考えを重視し、認知症当事者自身が実現したいことを、当事者同士で話し合い実行していくととし、当事者が企画する全く新しい認知症カフェとして「Dカフェ」がスタートします。ネーミングが「Dカフェ」となったのは「認知症カフェ」としてしまうと、認知症と明示されるので参加しづらいという意見があり、英語で認知症を意味するDementiaの頭文字Dを冠したそうです。

2015年度のDカフェは、町田市全域のカフェのあり方を示すパイロット事業として取り組まれ、当事者が企画段階から関わる活動の普及・支援が行われていきます。当事者の意見であった、「役に立つ実感を得たい」というテーマから、商店会の福引抽選会の手伝い、体験談を語る会、自治会清掃活動への参加、病院のカフェで当事者演奏会、といったことが実施されます。この取組から、企画から参加することで当事者参加が「自分ゴト化」していくことが、結果としてわかっていきます。そのうえで、当事者自身にしかできない「自分の体験」をこれからの人に伝えたい、自分たちの取組をもっと知ってほしいという課題が見えてきます。こうしたことから、2016年度には「より多くの「これからの人」との接点づくり」がテーマになっていきます。

スターバックスコーヒーとの連携協定

2016年度には、スターバックスコーヒーでの講座や体験談の会が開催されたほか、全国を当事者と伴走者が走ってたすきをつなぐ「RUN伴」とのコラボ、Dブックスの取組などが行われ、参加者が400名を超えていきます。こうしたDカフェの展開、積み重ねから、反響が得られていきます。当事者はDカフェをきっかけに「本人会議」が1ヶ所から4ヶ所に増えDカフェ以外でも集まったり、外出を避けていた人がDカフェに参加したことで、Dカフェを伝えていきたいと思うようになっていきます。家族は、家族同士が仲良くなることで、家族会の設立につながっていきます。地域は、Dカフェ開催店舗のスタッフが認知症サポーター養成講座を受講したり、認知症カフェの立ち上げが進み、13ヶ所まで増加していきます(2022年1月現在は40店舗)。

2017年度以降もDカフェは続き、当初は「特別な場所」だったものが「日常の場所」へと変わっていきます。2018年度には96回945人(うち当事者164人)、2019年度は90回921人(当事者144人)と、延べ900人以上が参加する認知症カフェとして継続されています。2020年度以降はコロナ禍の影響でオンライン開催になり、開催回数が減少したり、参加者が減ったりしたものの、オンラインだからこそ参加できる人も増えてきています。またオンラインでの参加が苦手な人をサポートする人たちが出てきて、当事者の方をサポートしながら一緒にオンラインDカフェに参加するようになっているそうです。

2019年4月10日には、町田市とスターバックスコーヒーとで、(1)Dカフェの開催支援、(2)高齢者の見守り活動、(3)認知症に対する普及啓発活動、の3項目の「認知症の人にやさしい地域づくりに関する包括連携協定」が締結されています。スタバとしても自治体との協定締結は初めてで、コロナ前には、町田市内9ヶ所のスタバでDカフェが開催されていました。

Dブックス、D活、Dサミット

当事者や家族が関わり、本人会議のような当事者の意見に基づいた活動が展開される町田市らしい取組に、Dブックス、D活、Dサミットがあります。

Dブックスは、書店や図書館に、認知症のコーナーを設ける取組です。認知症の診断を受けた当事者や家族が、認知症に関する書籍から情報を得ようとしても、医療や介護、当事者のエッセイまで、分類上は幅広い認知症関連の書籍があり、図書館や書店で並べられている棚がバラバラで、探しづらいという課題がありました。そこで、市内の書店8ヶ所、公共施設5ヶ所に、Dブックスのコーナーを設けてもらっています。

D活は、生きがい、はたらく場のことです。社会参加したい、役に立ちたい、という当事者のニーズに基づいて取り組まれています。有償で働きたい人も、ボランティアで地域貢献したい人もいらっしゃいます。これまで、認知症×カフェ店員の「注文を間違えるカフェ」として、1日限定イベント会場で、スターバックスのカフェ定員として働く企画や、認知症×農業として、竹林の再生・保全を無償で行いながら、収穫したタケノコ販売やイベント開催で収益を上げています。また、竹林にご主人を送迎する奥さんたちは「かぐや姫工房」を立ち上げて、竹を炭にした脱臭剤を作り、販売をされています。竹林を通じて、当事者も家族も、それぞれ介護をするでもなく、されるでもなく働いているという状態が生み出されています。こうした環境があることで、ご家族、奥さん達は、追い詰められた精神状態から解放される時間を得られているそうです。

Dサミットは、「認知症の人にやさしいまち」に対する理解を深めるとともに、これからまちづくりに取り組もうと考えている方たちが、活動を始めるきっかけになるようにと企画されています。2018年の第1回目では、桜美林大学町田キャンパスにて、405名の来場者、34名の登壇者、86名のスタッフによって開催されています。ボランティア・スタッフが多いことが特徴で、2020年の第2回目ではスタッフが141人にもなっています。サミットでは、しごと、交通、カフェ、書店、病院、金融、デザイン、見守り、テクノロジーと9つのセッションが開催され、各セッションでは、当事者とその分野の先駆者による対談が行われています。2018年の交通セッションには鉄道会社の方が登壇され、このセッションを契機に、「認知症等の症状により行方不明になった高齢者等の情報提供に関する協定」が、町田市、町田警察署、南大沢警察署と、6事業者(東急電鉄株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、小田急電鉄株式会社、京王電鉄株式会社、株式会社エフエムさがみ、ヤマト運輸株式会社)、との間でそれぞれ締結されています。

認知症とともに生きるまちづくりに関する連携協定

2021年9月21日には、一般社団法人Dフレンズ町田と、町田市との間で、「認知症とともに生きるまちづくりに関する連携協定」が締結されています。Dフレンズの代表松本さんは、もともとはNPO法人認知症フレンドシップの町田事務局として活動をされてきました。現在もその活動を行いながら、今後町田市の施策立案により関わっていけるようにと、独立した一般社団法人を立ち上げ、締結に至っています。協定の内容は、(1)認知症の人やその家族と地域住民が共に活躍できる機会の創出、(2)若年性認知症の人やその家族の支援体制の構築、の2つになっています。こうした協定が締結されたのも、2015年から活動を共にし、信頼関係が蓄積されていたからこそと、市職員の方からは説明がありました。必ずしも協定がなくても事業を行えるものの、選択肢として協定が出てきただけであって、市としては、市がやれることの限界と、地域の人達がやりたいことをどうフォローしていけるかが重要だと考えているということです。

協定を結んでいることで、また一般社団法人としての法人格があることで、現在は町田市からDカフェ、Dサミット、認知症サポーター養成講座について事業実施の委託を、Dフレンズ町田が受けています。Dフレンズとしての活動資金は、この委託費がありますが、赤い羽根募金の補助金をもらているケースもあるそうです。とはいえ代表の松本さんは、助成金がないと事業ができなくなってしまう、ということにはしたくないと考えていらっしゃいます。本来は、自分たちがやりたいと思って集まっているのだから、自分たちで費用を持ち合いながら、自分たちは何をやりたくて集まっているのかを大事にしていきたいとお話されていました。

協定では、若年性認知症が取り上げられています。松本さんは、若年性認知症の人は居るはずなのに、これまで声があがってこなかったので、どう暮らしているのだろうかと感じていたそうです。若年性認知症当事者研究会、を町田市が立ち上げた時は、最初はこんな硬い名前では人は来ないと思っていたものの、若年性認知症の人が集まってくるようになったといいます。問い合わせの電話には、10名の方から相談があり、いまその人達にそれぞれにどんな支援ができるかを考えているそうです。歌が好きな人には、歌う機会を提供できるように、企画を進めていらっしゃいました。協定を締結したことで、市民の問題として、市と一緒になって課題解決につなげることができるようになっていると、仰っていました。

印象に残ったこと:その人を大事にすること

質疑の中で、「若年性認知症となると、障害支援が関わるが、役所内では部署が別になってしまう。横断的な取り組み方が町田市では取られているか」という質問が出されました。これに対して松本さんは、

障害だからこうするとか、認知症だからこうするではなく、ゆっくりと対応して、その人がやりたいことを聞き出す時間を、一般社団法人だと取ることができる。「自分は精神障害者になるのか」という心の壁を取り除くのは難しいこと。その状況で支援センターに預けてしまうと、支援策が本人に合ったもになるとは限らない。行政的な横断は色んなところで話し合わなくてはいけないが、自分たちのレベルでは、先に行政の窓口を紹介して良いのだろうか、その人のことを十分考えられないままに、制度に当てはめてしまって良いのかと、考えている。

とお話してくださいました。このコメントからも、そしてDカフェを始めこれまでの取組の考え方からも、松本さん達がいかに当事者の、その人の意思や考え、主体性を大事にしているかが分かります。全国各地で認知症の人や家族を支えようと、活動が行われていますが、ともすれば実施主体のやりたいことが中心になってしまい、当事者その人の意思が反映されなくなってしまいかねません。最初から今でも、常に当事者の意見を聞くことに徹底し、当事者のやりたいことを実現していこうとする、認知症の人を中心にした取組が、町田市で行われている認知症の取組の特徴であり、最も大事な点だと感じました。

認知症の人にやさしい街プロジェクト

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