2026年8月17日、札幌市南区の駒岡清掃工場を視察しました。老朽化した旧工場に代わり、令和7年7月に竣工したばかりの最新鋭の清掃工場で、民間の資金・ノウハウを活用した「DBO方式」(Design-Build-Operation)による整備・運営、環境配慮技術、災害時の防災拠点機能、地域との共生など、多岐にわたる取り組みについて、札幌市環境局の担当課長、そして運営を担う特別目的会社(SPC)「駒岡ハイトラスト株式会社」の担当者から説明を受け、施設内を実際に歩いて見学しました。
事業の概要とDBO方式
駒岡清掃工場は、設計・建設・維持管理・運営を一括して民間事業者に任せる「DBO方式」を採用しています。事業期間は令和2年度から令和27年度までの約25年間という長期にわたるもので、設計工事期間は5年、運営期間は20年間にわたります。事業者は株式会社タクマ北海道支店を代表企業に、極東開発工業株式会社、岩田地崎建設株式会社などで構成されるJVが建設を担当し、運営は特別目的会社の駒岡ハイトラスト株式会社が行っています。
設計・工事は当初令和7年3月末までの契約でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ情勢の影響による資機材の納入遅延などにより約4か月間工期が延伸され、令和7年7月31日に竣工しています。建設事業費は当初契約で約430億円でしたが、近年の物価上昇を反映したインフレスライドを3回実施した結果、約36億円増額となりました。これに加えて、20年間の運営費用が約237億円にのぼる計画となっています。
事業の背景には、札幌市が平成21年に新ごみルール(有料化・リサイクル推進)を導入して以降のごみ処理体制の見直しがあります。旧駒岡清掃工場は稼働から約40年が経過し老朽化が進んでいたため、建て替えが進められました。札幌市内には焼却工場・破砕工場がそれぞれ3施設ずつあり、収集運搬の移動距離や施設整備に伴う受け入れ停止時のバックアップ体制を考慮すると、現在の3拠点体制が最も合理的とのことです。焼却能力は旧工場と同じ1日600トンですが、破砕施設の処理能力は1日130トンとなっています。なお市内では、北区の篠路破砕工場を令和9年度に「白石破砕工場」として建て替える計画のほか、西区の発寒清掃工場についても令和16年度頃の稼働に向けて更新事業が進められています。
構想段階からの事業スケジュールは平成26年度の基本構想着手からおよそ11年に及び、環境アセスメントや事業者選定のための要求水準書の策定を経て契約、実施設計、そして建設工事へと進められました。造成工事、煙突・建屋の基礎工事、躯体の立ち上がりといった一連の建設過程を、担当者から当時の写真を交えて説明いただきました。南側に住宅地や小学校が立地していることから、南側の建物高さを抑え、煙突や大型構造物を北側に配置するなど、周辺環境に配慮した設計となっている点も印象的でした。
特徴1:環境性能への配慮
駒岡清掃工場では、法規制よりも厳しい自主管理値を設定し、排ガス対策を徹底しています。集塵装置のフィルターでばいじんを捕集するほか、酸性ガスである塩化水素や硫黄酸化物は消石灰(アルカリ性)で中和・除去し、窒素酸化物は排ガス再循環技術による燃焼制御で発生そのものを抑制しています。これらの処理を経た排ガスの濃度は、24時間体制で監視する中央制御室で常時管理されています。
特徴2:高効率発電と地域エネルギー供給
もう一つの大きな特徴が、高効率発電による電力・熱供給です。高温高圧の蒸気を活用することで、旧工場の約3倍の発電出力を実現しており、市内3清掃工場の発電量を合わせると、札幌市営地下鉄3路線(南北線・東西線・東豊線)で消費する電力の100%を賄えるだけの規模になるとのことでした。発電した電力の1割は施設内で自家消費し、残り9割は北海道電力に売電され、そこから地下鉄をはじめとする需要家に供給される仕組みです。
また、真駒内地区への地域熱供給にも取り組んでおり、供給量は旧工場の約2倍に増強されています。近隣の五輪団地・柏台団地への給湯・暖房や、近隣の入浴施設「保養センター駒岡」の温水にも活用されているとのことで、ごみ処理から生まれるエネルギーが地域の暮らしに直接還元されている点は、横浜市においても参考にすべき視点だと感じました。
特徴3:地域との共生・交流の取り組み
工場周辺には建設前からの森を残した保全緑地が整備され、散策コースや広場も設けられています。SPCが主体となり、盆踊りやマルシェ、子ども向けイベントなど地域のにぎわいづくりにも取り組んでいます。運営開始前から札幌市・SPC・近隣町内会で構成する「地域協議会」を設置し、年4回の定例会で工場の稼働状況の報告や地域からの要望への対応を行っているとのことでした。ごみ処理施設は一般に迷惑施設と受け止められがちですが、地域と密接なコミュニケーションを重ねてきたことで、良好な関係を築けているとの説明が印象的でした。
防災拠点としての機能
駒岡清掃工場は、災害時の指定緊急避難場所兼基幹避難所として位置づけられています。仮に北海道全域が大規模停電(ブラックアウト)に見舞われた場合でも、非常用発電機であるコージェネレーション設備により、電気を自らつくり出して焼却炉を立ち上げ、ごみを燃やしながら自立的に運転・発電を継続できる仕組みが整えられています。このコージェネレーション設備は、東日本大震災で耐震性に優れていることが実証された都市ガスの高圧ガス管を活用しています。管理棟には避難者向けの食料・毛布などの備蓄物資も保有されており、説明では約100名が5日間過ごせる規模の備えがあるとのことでした。
見学コースの様子
見学は、まず紹介動画の視聴からスタートし、破砕施設棟・焼却施設棟の順に案内していただきました。
破砕施設等の投入ステージでは、収集車やごみを自己搬入する住民の車両からタンスやソファーなどの大型ごみ、金属製品などの燃やせないごみが投入される様子を見学しました。大型ごみは縦型せん断破砕機で粗く裁断された後、燃える成分は焼却施設側のごみピットへ、金属は磁力選別により鉄・アルミを取り出し、リサイクル業者へ送られます。スプレー缶やカセットボンベ、モバイルバッテリーなど発火の原因となるごみの混入が施設火災の主な原因となっており、投入前に職員が目視で確認・選別作業を行っている実態も説明いただきました。あわせて分別体験ゲームも用意されており、参加者がチーム対抗でごみの分別をタッチパネルで学ぶ、子ども向け環境教育の工夫も見られました。
焼却施設等では、ごみ収集車がごみピットに投入する様子や、幅6メートル・最大10トンを持ち上げる能力を持つごみクレーンによる撹拌作業を見学しました。ごみピットは受け入れピットと撹拌ピットの二槽構成で、あわせて約5日分のごみを貯留できます。湿った生ごみと乾いたごみを混ぜ合わせることで燃焼効率を高める工夫がされており、クレーンは基本的に自動制御(プログラム運転)で稼働し、必要に応じて運転員が手動操作も行える体制とのことでした。ピット内には熱源や煙を感知する監視カメラと放水銃による自動消火設備が備えられており、実際に年間十件程度、モバイルバッテリー等の発火に伴う自動消火作動があるとの説明も受けました。
中央制御室では、焼却炉内の映像や蒸気タービン発電電力、太陽光発電電力、コージェネレーション発電電力など複数のモニターで24時間体制の監視が行われている様子を確認しました。焼却炉自体は安全上の理由から直接見学することはできませんでしたが、模式図やパネル展示により、ごみピットから焼却炉、廃熱ボイラー、蒸気の循環、集塵装置を経て煙突に至る一連のプロセスについて説明を受けました。あわせて、体験型の展示コーナーでは、来場者が実際に足踏み式の装置を操作し、焼却炉への送風バランスを調整する「発電体験ゲーム」も用意されており、燃焼用空気の調整が発電効率に直結する仕組みを体感できる工夫がなされていました。
最後に見学した蒸気タービン発電機の部屋では、毎分6,000回転する高速のタービンによって発電が行われている様子を見ることができました。市内3清掃工場全体でつくられる電力は、地下鉄3路線を賄えるだけでなく、一般家庭の約4万世帯分に相当する規模になるとのことです。化石燃料を使用する火力発電と比較して二酸化炭素排出を抑制できる点でも、地球温暖化対策に寄与しているとの説明を受けました。
所感
駒岡清掃工場は単なるごみ処理施設にとどまらず、(1)厳しい自主管理値に基づく環境配慮、(2)高効率発電による再生可能エネルギー的な電力・熱供給、(3)災害時に自立稼働できる防災拠点機能、(4)地域協議会を核とした地域共生、という複数の視点が一体的に組み込まれた施設であることが優れていました。特に、清掃工場が生み出す電力で市営地下鉄の使用電力を100%脱炭素化しているという点や、災害時に電力供給が途絶えても自らごみを燃やして自立的に発電を続けられる仕組みは、脱炭素と防災対応を同時に実現する事例として参考にすべき点が多いと感じました。
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