
2026年8月18日、札幌市白石区にある「えほん図書館」を視察しました。全国的にも珍しい未就学児専門の図書館として2016年11月に開館し、今年で開館10周年を迎えます。館長よりご開設の経緯や運営の工夫、課題についてお話を伺った後、館内をご案内いただきました。
開設の経緯と基本コンセプト
えほん図書館が生まれた背景には、国の「子どもの読書活動推進に関する法律」(平成13年制定)があります。同法に基づき札幌市も平成17年に「札幌市子どもの読書活動推進計画」を策定し、5か年ごとに改定を重ねる中で、平成27年の第3次計画策定時に「静寂性が求められる従来の図書館は、小さな子どもにとって利用しづらい」という課題が浮かび上がりました。この課題への対応として、白石区の複合庁舎の建て替えに合わせ、平成28年11月にえほん図書館が誕生しています。同じフロアの隣には「白石区民センター図書室」が併設されています。
基本コンセプトは大きく2つです。1つ目は「乳幼児期からの読書のきっかけづくり」。多くの絵本に囲まれ、乳幼児が主役になれる空間を用意することです。2つ目は「乳幼児の読書活動と、それに関わる大人(保護者等)を支援する場」であること。本を並べるだけでなく、イベント等を通じて「読書は楽しい」という体験を重ね、生涯にわたる読書習慣の土台をつくることを目指しています。
運営体制と厳しい財政状況
令和8年度の運営費は約6,140万円。職員体制は事務職員4名、会計年度任用職員(司書)8名、事務補助1名の計13名です。このうち人件費が約3,900万円、建物の維持管理費(光熱水費、清掃費等)が約1,000万円、図書システムのリース・保守費が約650万円と、固定費だけで5,600万円を占めており、新刊購入や事業費に充てられるのは残りの約400万円にとどまるとのことでした。限られた予算の中でも工夫を重ね、来館者に喜ばれる運営を実現している点が印象的でした。
施設面積は515㎡。うち閲覧スペースが300㎡で、可動式パーテーションで区切られた「おはなし会」用の部屋(52㎡)は、大きなイベントの際には壁を外して一体利用できる設計になっています。バックヤードは非常に手狭とのことで、限られたスペースを最大限活用している様子がうかがえました。
蔵書と特色ある取り組み
蔵書数は約28,000冊(開館当初は15,000冊)。1メートル20センチにも及ぶ超大型絵本や紙芝居、バリアフリー対応の布絵本、点字絵本のほか、保護者・読み聞かせボランティア向けの専門書も揃えています。隣接する区民センター図書室(一般向け、約28,000冊)と合わせ、施設全体で約56,000冊を保有し、兄弟姉妹での来館にも対応できる運用がなされています。蔵書スペースが手狭になってきたため、上限を28,800冊と定め、対象年齢を超えた本や複本を中央図書館へ回付するなど、計画的な蔵書管理を行っています。
最大の特色は「声を出して絵本を読める図書館」であることです。静寂性を前提とする従来の図書館の課題を克服し、読み聞かせや子ども同士の会話、多少の泣き声も自然に受け入れられる空気が館内に流れていました。人気の定番絵本については貸出禁止本として館内に常備し、貸出中でも館内で読める仕組みも整えています。貸出にはICチップを活用したセルフ貸出機(2台)を導入しており、利用率は導入当初の45%から現在66%まで向上しています。カード1枚で10冊まで一括貸出が可能で、職員の業務効率化にも寄与しているとのことでした。
絵本マイスターとぬいぐるみおとまり会
未就学児を対象に絵本1,000冊を読むことを目指す「絵本マイスター」制度は2018年に開始し、これまでに1,010人が達成しています(令和8年7月末時点)。100冊、300冊、500冊、800冊と節目にに記念品を渡し、1,000冊達成者には館長自らが表彰状を手渡すという丁寧な仕組みが、繰り返し来館し、たくさん本を読もうという動機づけにつながっているようでした。
年齢別おはなし会(0歳児は毎週木曜、1・2歳児は毎週火曜、3歳以上は月1回)のほか、5・6歳児向けの「ぬいぐるみおとまり会」など、発達段階に応じたプログラムを展開しています。「ぬいぐるみお泊り会」は、子どもが大切なぬいぐるみを土曜日に預け、司書が子どもの好みに合わせて絵本を選び、翌日ぬいぐるみが館内で過ごす様子をアルバムにして「ぬいぐるみが選んでくれた絵本」とともに返却するという取り組みで、子どもの読書への関心を引き出す工夫として大変興味深いものでした。
登録ボランティア団体(約20団体)や個人ボランティアが、おはなし会や本の修理、展示の装飾などを幅広く支えており、年間330日の開館日のうち202回ものイベントを実施できているのは、ボランティアの存在が大きいとのことでした。近隣の高校の探究学習との連携や、防災センターとのコラボレーションなど、地域資源を活かした事業展開も見られました。
利用状況と少子化の影響
来館者数は開館直後の平成30年をピークに、直近3年は減少傾向にあり、令和7年度は約12万1千人となっています。背景には札幌市全体で5歳以下人口が年4〜5%減少しているという構造的な要因があり、対象年齢人口の減少幅と来館者減少幅のバランスを一つの指標として運営を評価しているとのことでした。一方、おはなし会等の行事参加者数は増加傾向にあり、来館のきっかけづくりへの取り組みが一定の効果を上げていることがうかがえます。札幌市には行政区が10区ありますが、えほん図書館は白石区にしかないため、利用者の約7割が白石区と隣接する豊平区の住民で占められ、他区からのアクセス性に関して課題が指摘されていました。絵本マイスターもえほん図書館でのみ実施されているので、参加できる子どもも限定的になってしまっています。
満足度調査では、総合満足度・施設・職員対応がいずれも97〜100%と非常に高い一方、「職員による相談サービス」(61%)や「広報・SNS等による情報発信」(62%)は相対的に低い評価でした。ただし内訳を見ると「不満」ではなく「わからない」という回答が多くを占めており、周知の課題であることが分かります。この課題に対し、X(旧Twitter)での発信を強化した結果、フォロワー数は1年間で約3倍(490人→1,468人)に伸びたとのことで、地道な広報改善の成果が表れていました。
まとめ
横浜市でも中央図書館に「のげやま子ども図書館おやこフロア」が設けられるなど、子ども連れで楽しめる、声を出したり、体を動かしたりしても良いコンセプトをもつ図書館が近年増えていますが、単館で未就学児向けの図書館として設置されているのは珍しい事例です。様々な取り組みがありましたが、中でも「絵本マイスター」は子どもたちの達成意欲を満たしながら、読書を楽しめる環境を作り出していて、参考になる事例だと思います。子どもの読書に関する効果も様々指摘されていますし、絵本を通じて読書習慣や、図書館を利用する習慣が身についていく良いきっかけになっているのではないかと感じます。
一部の人気絵本は貸し出し禁止で館内利用限定
外国語のえほんも豊富に
高校生との連携事業もあり
点字絵本等のバリアフリーえほんコーナー
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