障害者の雇用と賃金の改善を目指して。NPO法人レジスト視察報告。

2019-06-18 00:14:38 | カテゴリ:活動報告


NPO法人レジスト

6月17日、川崎市の元住吉にある「NPO法人レジスト」さんへ視察にお邪魔しました。レジストさんは、障害者が働く場所である就労継続支援B型事業所の「レジネス」を運営されています。精神障害者が対象です。

障害者の就労については、低い工賃が課題となってきました。横浜市の場合、平成29(2017)年度実績で、就労継続支援A型事業所では平均時給が899円、B型だと176円で、月額平均ではA型が77,714円、B型が13,928円となっています。私はこの低賃金の状況を改善していきたいと考えています。人口減少と税収減が迫っているなか、一方では福祉の予算をはじめ、歳出は増加傾向が続きます。いかにして、障害福祉の現場の仕事や工賃のありかたを変えていけるか、多様性の中で、一人一人に合った仕事や働き方を作りだし、仕事に見合った賃金を得られるようにしていけるかは、重要な課題だと考えています。

おしゃれなデザインを施した商品と店舗

今回視察にお邪魔したのは、レジストさんが元住吉のブレーメン通り商店街に軒を連ねる、「Bremen Fairytale」というお店を知ったことがきっかけです。Bremen Fairytaleは、レジネスで製造されているコーヒーの他、全国の福祉作業所で製造されたお菓子やお茶などの商品を取り扱う、福祉のアンテナショップとなっています。その特徴は、店舗の内装や、商品のデザインを向上、統一させることで、魅力ある商品づくりと、店舗づくりに取り組んでいることです。店舗経営は、福祉事業ではなく自主事業として、商店街の一般の店舗と同様なかたちで行われています。自社製品のコーヒーなどのパッケージデザインは、ブレーメンの名の通り童話の音楽隊をモチーフにしたデザインに統一され、手にとって見たくなるデザイン。他社製品も、ものによってはパッケージ無しで仕入れ、お店で独自のパッケージングを行うこともあります。それも商品を手にとってもらえるようにし、お店全体の統一感を演出するため。福祉事業に関係するお店であることは、ほとんど主張されること無く、お店の成り立ちを知らなければ、福祉を感じること無く買い物をして帰っていけるつくりになっています。

店舗を出した当初は「るぴあ」という名称で、デザインにも工夫がなされていなかったものを、2017年にクラウドファンディングを通じて資金調達を行い、プロの力を借りて内装から商品デザインまで改善を行っています。福祉の世界から、福祉の視点のままビジネスを興したものの、ビジネス目線での知識・経験が無いなか苦労されたそうですが、プロの指導から学び取ったことを活かし、デザインの重要性を理解し、店舗運営が続けられています。

ブレーメンフェアリーテイル
店舗外観

売り場をつくり、売上をつくり、笑顔の循環に

もともと店舗を出された目的は、働く障害者の賃金向上でした。低売上・低賃金で、意欲が減退し、障害が悪化し、仕事に消極的になってしまう、という負の循環を、高売上・高賃金によって、意欲が向上し、就労を安定させ、前向きな仕事感につなげられる「笑顔の循環」に変えていこうというのがレジストの皆さんの目的です。この、売場・販路の確保はとても重要だと考えています。

私もこれまで、障害者就労に関わる方々との対話のなかで、いかにして商品力を高められるか、それを販売するための販路を作れるか、安定供給の体制を作れるか、ということを議論してきました。本当に欲しいと思ってもらえなければ買い続けてもらえませんし、価格も設定できません。いい商品を作れても、販路がなければ売れません。商品と、販路があっても、供給が不安定では営業ができません。これらのテーマに取り組んでいるのが、レジストさんであり、Bremen Fairytaleです。

とはいえ、経営状況は芳しくないのが実情だそうです。店舗単体では黒字化出来ていない状況が続いていて、法人全体として店舗経営とどう向き合っていくかについては、何度も何度も議論が重ねられていると言います。1つの課題となっているのは、ソーシャルワークとしてやるべきことなのかどうか、というテーマです。他ではあまり見られない事業であり、逆に言えば福祉事業の枠組みや常識からは外れていると見られてしまうような取り組みでもあります。確かに、一般のビジネスと同じ土俵に立ってBremen Fairytaleを運営しているということは、市場原理の中で儲けを生み出すことでもあり、これまでの福祉の文脈とは異なるのかもしれません。しかしながら、従来どおりでは実現できなかった高賃金を実現したり、当事者の自助や自立を実現していくためには、従来の枠組みから飛び出す新たな取り組みが必要だと考えます。

Bremen Fairytale
並べられた商品

利用者の自主性と自助を大切にする運営

出発点となった作業所のレジネスでは、コーヒーの生産が行われています。もともとの法人設立段階では、「Peer Cafe」として、当事者同士で運営するカフェがスタートでしたが、途中からコーヒーの製造、販売の比重が大きくなり、現在はカフェ経営はなく、事務所兼作業所として事業が行われています。視察の調整段階から、作業現場も見てほしいと理事長からご提案を頂いて、午後の作業が始まる13時にお邪魔しました。13時にはまず、利用者のみなさんによる会議から始まります。今日の利用者は10名。それぞれが自分の体調などを伝えた上で、在庫確認や、作業の優先順位付けを行い、作業の分担を利用者自らで決めていきます。開始後も、利用者同士が声を掛け合いながら作業が進みます。これは、理事長がレジストを立ち上げた原点による運営手法です。

もともと障害者の作業所などに勤務していた理事長は、指示するばかりの現場では当事者の自由を奪っているのではいかと疑問を感じ、当事者同士が助け合うピア・サポートに関心を持つにいたり、「Peer Cafe」事業を立ち上げることになったといいます。利用者の打ち合わせでは、従業員が指示を出さず、利用者同士の自主性が大切にされています。あくまでも、利用者が決めたことを支えるために組織があるという運営が徹底されているようでした。理事長としては、大きい施設を目指すのではなく、今のまま小さな規模でも利用者が生き生きとしている施設運営をしていきたいと考えていらっしゃいます。

作業所では、コーヒーの焙煎や選別、ラベルシール貼りなどが分担して行われています。現在賃金は作業内容に応じて、100円〜最低賃金(983円:2019年6月現在)となっていました。店舗経営にも、法人運営にも様々課題を抱えながら取り組んでいらっしゃいますが、目指す目的はこれからの福祉の方向性を示すでもあり、期待したい取り組みです。

NPO法人レジスト
理事長と。同い年でした。

Bremen Fairytale
Bremen Fairytale
Bremen Fairytale
Bremen Fairytaleの内装と商品。

NPO法人レジスト
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NPO法人レジスト
作業する皆さん。

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