障害者就労の工賃向上。久遠チョコレートの挑戦。

2019-07-24 00:35:40 | カテゴリ:活動報告


久遠チョコレート

7月23日、愛知県豊橋市にある「一般社団法人ラ・バルカグループ」(以下ラ・バルカ)の視察にお邪魔し、理事長の夏目浩次さんからお話を伺いました。

障害者雇用330名創出のチョコレート事業

ラ・バルカでは、「久遠チョコレート」というブランドで、チョコレートの製造・販売を行っています。製造しているのは、障害者の方々。テリーヌを中心に、全国の拠点で同じブランド、同じレシピで、世界中から仕入れた質の高いカカオと、地域ごとの食材をかけ合わせて、140種類以上のテリーヌが製造されてきました。創業以来5年を経過した現在、全国で24店舗38拠点(2019年下期)で事業が展開されています(※全国夢のチョコレートプロジェクト)。拠点の中には、製造だけを行う事業所もあり、小売と製造両方を行う事業所もあります。これまで330名の障害者の雇用を創出し、現在は年商6億円にものぼっています。事業展開は、フランチャイズ方式によって拡大されていて、ラ・バルカ本部直営は6ヶ所。それ以外は、法人格を問わずに加盟していて、参加条件としては、障害者や困難がある方を雇用することとされています。就労継続支援A型作業所で参加し雇用されているのは、17名。残りの雇用は、B型作業所となっています。また熊本店では、13名の不登校や引きこもり経験者などの困難を抱える若者の雇用が行われています。

久遠チョコレート
テリーヌの数々

平均工賃6万円!

驚くべきは工賃で、全国の久遠チョコレート参加事業所の平均が月約6万円。厚生労働省によれば、2017年度のB型作業所の平均工賃は、月15,603円となっていますから、その工賃の高さが際立ちます。夏目さんは、もっと上げられるのではないかと考えていて、実際、本部で雇用している16名の障害者には、月15〜16万円の給料を払っているそうです。グループ全体の年商6億円のうち、本部は2億8千万円となっていて、久遠チョコレートの製造・販売以外にも、OEM供給などチョコレート事業の幅も広く、市場としてはまだまだ拡大するチャンスがあると考えていらっしゃいます。また、ラ・バルカで働きたいという障害者の方も多くいらっしゃるそうで、もっと拠点を増やしていく必要があるとも考えていらっしゃいました。

SDGsラボと公民連携

夏目さんからお話を伺った場所は、「SDGsラボ」と呼ばれていて、株式会社ベルシステム24が運営する久遠チョコレートの製造工場。製造専門で、豊橋駅近くの本店からも車で数分の場所です。ラ・バルカとベルシステムの協働事業で、企業としては法定雇用率を満たしながら収益をあげられ、SDGsの目標の一部を達成することができるというメリットがあります。また、2018年7月には、北海道の下川町と、ラ・バルカ、ベルシステムとの3者で「SDGsの推進と持続可能な地域づくりに関する連携協定」締結され、下川町は閉校した小学校の校舎をチョコレート工場として整備、ベルシステムが製造、ラ・バルカがノウハウ提供を行うというかたちで、SDGsの推進が行われようとしています。こうした、企業等と連携をしながらSDGsを推進していく久遠チョコレートの場所をSDGsラボとしていて、まだまだ企業との連携の可能性は高くあるという印象でした。
(※ラ・バルカは第2回ジャパンSDGsアワードで副本部長(内閣官房長官)賞を受賞されています。

久遠チョコレート

誰でも働きやすい環境づくり

ラ・バルカでは、障害者本人の雇用だけでなく、障害児の親の雇用も行っています。名古屋店では、1階が久遠チョコレートの店舗で、2階を放課後等デイサービス事業所とし、看護師を配置し、医療的ケア児を預かれるようにしています。本部でも訪問看護の事業所を設けていたり、子どもの事情に合わせて週の半分は店舗出勤、半分は在宅ワークで受発注管理をしている従業員が居たりと、個々人に合わせた働き方ができるように工夫されています。

夏目さんはもともとは、建築設計の仕事をされていたそうです。当時駅などの設計をしていて、バリアフリーの設計も行っていたそうですが、一部の障害者のためという考え方で設計することが夏目さんの考えに合わず、高齢者でもバッグを引く人でも「誰でも」使いやすい、フラットな設計にすればいいのに、と思いながら悶々と悩み、会社を辞める決断をしていったそうです。そうした中、障害者雇用の状況を知り、自分自身が進学や就労を様々な選択肢から選ぶことができたように、障害者もA型かB型か、ではなく、多様な就労機会から選択できるようにしたい、という考えに至り、障害者雇用に関する事業を始められました。当初はパンに挑戦したものの、意外と重労働で、利益を上げるためにサービスレベルを向上させるには、ついてこれない人も出てきてしまい、これでは誰かを排除しないと事業をできないという状況になってしまいます。そこで、他の方法を検討していく中、チョコレートに出会ったと言います。

チョコレートは、溶かして固めるという作業だけ。カカオの種類を変えたり、中に混ぜる材料を変えたりという方法で種類を増やすことができ、それでも基本作業は溶かして固めるだけ。これなら誰でも製造に参加でき、障害者に限らず、色んな人が働けると理解し、チョコレートでの事業展開に乗り出すこととなります。夏目さんは、「頭の柔軟な足腰の強い」組織を目指していて、色んな人が働きやすい環境の中で、成長を達成できるようにすることが、頭の柔軟な足腰の強い組織につながっていくと考えていらっしゃいます。

これからの目標はブランド力の向上

6期目を迎えた現在、これからの夏目さんの方向性としては、久遠チョコレートのブランドをもっと高めていきたいと考えていらっしゃいました。これまで、名古屋タカシマヤの「アムール・デュ・ショコラ」や阪急うめだ本店の「阪急バレンタインチョコレート博覧会」など、全国の百貨店で開催されるチョコレートの大規模なイベントにも出店実績をもっていますが、その中でもより多く売れるように、ブランド力を高めていくことが今の目標とのことでした。久遠チョコレートの店舗に行かれると分かりますが、障害者の事業であることは、知らなければ全く分からないという店舗づくり、商品づくりをされています。福祉事業としてのブランドではなく、チョコレートのブランドとしての「久遠チョコレート」の価値をより高めていくことで、より多くの障害者や、困難を抱える方たちの雇用創出と、より高い工賃の実現を果たしていきたい、という気持ちが伝わる目標です。

まとめ

横浜市の2017年度のB型作業所の平均工賃は、全国平均より低い月13,928円です。私が、ラ・バルカの久遠チョコレートに関心をもった理由の1つが低い工賃を向上されられないか、という課題認識です。これは先日、川崎にあるNPO法人レジストさんを視察した動機と一緒です(※参考ブログ「障害者の雇用と賃金の改善を目指して。NPO法人レジスト視察報告。」)。そしてもう1つ課題認識をもってきたのは、様々な作業所が別々に、それぞれ、お菓子などの商品を製造・販売をしているものの、生産量が少なかったり、販路がなかったり、商品の魅力を表現できていなかったりと、利益を出せる状況にないことがもったいない、と感じていたことです。複数の事業者が協働して、同じレシピで高い品質の製品を、安定的に生産して、一般の消費者が普段から購入したくなり、購入できる売り場を設けて、利益を上げることができないものかと考えてきました。そうしたなか、ラ・バルカさんの取り組みを知り、今回視察にお邪魔しました。

視察を通じて、障害者であろうと、より高い品質の商品を作れ、消費者に選ばれ、売上を高め、工賃を向上させられることを、確信することができました。一方では、福祉の側面だけでなく、企業誘致や中小企業支援といった観点から、また農業の6次産業化といった観点からも、久遠チョコレートの方法は存在できていることが、これからの地方自治体にとっては重要な点だと感じました。働く場を求める障害者やその家族と、SDGsなどを通じて社会に貢献していこうとする企業、地域経済の活性化を行おうとする自治体とが、協力しあうことで、それぞれが成長しうる可能性は非常に大きいと考えます。

(※横浜市内には妙蓮寺にお店があります:久遠チョコレート横浜店

久遠チョコレート
真ん中が夏目理事長。左は、今野典人市議。

久遠チョコレート

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