認知症診断と事故救済により、認知症の人と家族を支える神戸モデル。

2024-08-02 14:12:04 | カテゴリ:活動報告


認知症神戸モデル

2024年8月2日、所属する常任委員会「健康福祉・医療委員会」の視察で神戸市議会を訪問し、「認知症神戸モデル」について視察を行いました。

条例に基づいた認知症施策

神戸市は人口約150万人、高齢者人口が約43万5千人、高齢化率が29.1%となっています。認知症高齢者数の推計は5.6万人、MCIは6.7万人となっています。神戸市には「神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例」があり、平成30年4月1日に施行されています。条例制定に至る背景の1つに、平成19年に愛知県大府市でおきた、認知症の男性が電車にはねられた死亡事故でJR東海が振替輸送代などの賠償を家族に求めて提訴を行ったという事件があります。平成28年に最高裁が家族に賠償責任は無いとしたものの、認知症による事故で家族らが責任を負わされる可能性が残った事故であり、また加害者に賠償責任がない場合は、被害者が救済されないという課題が残っています。そこで、認知症の人や家族を社会全体で支えていくまちづくりを推進するために、神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例が制定されています。

条例の目的は、認知症の人にやさしいまちづくりの理念を定めることや、市の責務や市民・事業者の役割を明らかにし、やさしいまちの実現に資することとされ、基本理念では(1)認知症の人の尊厳が保持され、その者の意志が尊重され、社会参加を推進し、安全に、かつ、安心して暮らし続けられるまちを目指すこと、(2)認知症の人とその家族のより良い生活を実現するために必要な支援を受けられるよう、まち全体で支えること、の2つが示されています。施策の4本柱としては、①予防及び早期介入、②治療及び介護の提供、③事故の救済及び予防、④地域の力を豊かに、が位置づけられ、早期診断体制の確立や、救済制度の創設が明確にされています。

認知症神戸モデル

認知症神戸モデルは、(1)早期受診を支援する認知症助成制度、(2)外出時の「安心」を支える認知症事故救済制度、(3)社会全体で支える仕組みの超過課税の導入、の3つから成っています。この中で注目されてきたのは超過課税で、個人市民税均等割の超過課税、一人あたり年額400円の超過課税が条例で定められています。課税対象者が約72万人、年間財源は約3億円となっています。認知症神戸モデルの財源は、この3億円が全てで、一般財源等他の財源は使っていないということでした。

認知症神戸モデル1:認知症診断助成制度

認知機能健診を身近な地域の医療機関で受診が可能となるよう医師会と協力し、459か所の登録医療機関で受診が可能となっています。受診料は無料で、インターネットや電話等で事前に申し込み、受診券を発行してもらうという仕組みです。対象者は65歳以上の市民で、年に1度の受診が可能となっています。その結果精密検査が必要となれば、第2段階として認知機能精密検査の受診が勧奨されます。精密検査は61か所の登録医療機関で受診でき、検査費用の自己負担分は全額助成され、自己負担なく受診可能となっています。2024年4月からは、さらに認知症新薬投与対象者の可能性がある場合は、新薬適用有無の診断も行われるようになっています。

認知症神戸モデル2:認知症事故救済制度

救済制度には、認知症と診断された方が対象となるものと、全市民が対象になるものがあります。認知症と診断された方が対象となる仕組みとしては、(1)賠償責任保険に市が加入し、認知症の方が責任を負った場合に最高2億円の支給が行われること。(2)事故が生じると24時間365日相談ができるコールセンターでの相談受付。(3)所在が分からなくなった際のかけつけサービスとして、GPSの初期費用・かけつけサービスの提供(月額利用料は利用者負担)、の3つとなっています。全市民対象としては、(4)事故に見舞われた市民への見舞金(給付金)支給制度があり、賠償責任の有無にかかわらず、最大3千万円支給されます。

認知症神戸モデルの実施状況

制度開始から2024年3月までに、診断助成制度については、認知機能健診を77,805人が受診されています(受診率18%)。認知機能精密検査を勧奨した方が19,283人、そのうち16,282人受診されています。事故救済制度については、賠償責任保険加入者数が11,323人、支給状況は47件23,541,771円、GPS安心かけつけサービス契約者数は373人となっています。事故救済制度を使った支給内容としては、飲食店で食事中に座席を汚損したケースに損害賠償保険で約14万円、他人の所有する靴を持ち帰り汚損したケースに給付金で約1万円、歩行中によろけてマンションエントランスのガラスをカソンしたケースに保険で約12万円、他人の自転車を持ち帰り損害を与えたケースに給付金約2万円、隣家の壁を傷つけたケースに給付金約4万円、水漏れを起こして階下に損傷を与えたケースに保険で約29万円、などの事例が紹介されました。

1人400円、年間3億円の超過課税は一旦基金として積まれているとのことでした。保険会社には年間4,000万円程度を支払い、認知症診断にかかる費用が支出されていますが、今のところは全額は執行しきれず、収入が超過しているため余剰金が生じている状況です。ただし、今後は高齢者人口の増加や、受診率の向上を目指していること、さらに認知症新薬検査による一人あたりの検査費用の上昇なども見込まれるため、支出は増大していくことが見込まれていました。

認知症神戸モデル

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