2026年4月8日、コペンハーゲン市にあるデンマーク首都地域の観光局「Wonderful Copenhagen」(ワンダフルコペンハーゲン)を訪問しました。ワンダフルコペンハーゲンでは「CopenPay」(コペンペイ)という、サステナブルな観光施策が展開されています。コペンペイは簡単に言えば、環境や社会に良い行いをすれば報酬(Reward)が得られるという仕組みで、2024年に実証実験事業としてスタートしています。
コペンペイとは
ワンダフルコペンハーゲンは2018年に「Tourism for Good」という持続可能な観光戦略を策定するなど、SDGsに貢献する観光政策に取り組んでいます。観光が目的地をより良くするというビジョンを実現するためには、観光客のマインドセットの変化が必要であり、それを促す取り組みとしてコペンペイに取り組まれています。前提となったのはBooking.comとの調査で、観光客の10人中7人が「訪れた観光地を来たときよりも良い状態にして帰りたい」と考えていることが判明しています。この結果に基づき、良い行いをした観光客にインセンティブを与えるというコペンペイのコンセプトが生まれます。
「CopenPay」という語感が日本の◯◯Payという電子決済をイメージさせますが、コペンペイは社会貢献に参加すると、無料サービス等の報酬があるという仕組みです(報酬に対する行政からの補助金は無し)。観光客ができるアクティビティの具体例としては、都市庭園のガーデニングを手伝うこと、公共交通機関・自転車を使うこと、ゴミ拾いを行うことなどがあり、報酬としては無料カヤックツアーやランチ無料、飲み物無料、朝食無料、無料スキー体験、無料ガイドツアーなどが提供されます(必ずしも無料である必要はなし)。現金を介すことのない報酬となっています。この報酬は観光客だけでなく、市民にも同等に提供されています。コペンペイを通じて、観光客と地元の人が出会う場を作り、良い観光や良い街を共に考えることを目指しているということで、ここが重要なポイントです。
デンマークらしい性善説に基づいた仕組み
デンマークらしいポイント、として説明されたのは性善説に基づいた「信頼ベース」で成り立っている事業であるということです。例えば公共交通機関の利用でも報酬が得られますが、実際に利用したかどうかの証明を必要とせず、自己申告によって運営されています。
そのほか成功のポイントとして、簡潔で簡素に参加できるようにしていることが示され、専用アプリもつくらず、1つのWebサイトで全て必要な情報を得られるように設計されています。報酬の利用期間、期限も週単位で示されています。Webサイトについてはパートナー企業の増加にともない、カレンダーベースの新たなプラットフォーム開発が進められていて、特定の日に利用可能なアクティビティ等が分かりやすく表示されるようになる設計なっているということでした。
これまでの経緯
2024年の実証実験は4週間の期間で実施され、26のパートナー企業によって報酬が提供され、約5,000名が参加します。この結果を受けて、2025年は9週間の期間、100社のパートナーの参加に拡大し、参加者は約25,000人へと増えます。
2025年には、実証実験を踏まえた更なる取り組みが進められました。1つ目は、26から100にパートナー企業が増える中で、それでも全てのパートナーが同じ熱量で参加できるかが試されています。2つ目はアクティビティや報酬を増やすことです。2025年は食品ロス問題に取り組み、自然公園のような従来は観光地になっていなかったパートナーの獲得につながっています。ドイツ国鉄やスウェーデン国鉄との連携を進め、飛行機を使わず鉄道で観光に来た人への報酬を設けています。3つ目は長期滞在の推奨で、30軒のホテルと提携し、4泊以上の宿泊者には1日自転車無料やベジタリアン料理の無料提供といった報酬が提供されました。
更に同年には2つの大きなイベントが実施されています。1つ目はローンチイベントで、観光客、地元住民、パートナー企業など250名が参加しています。コペンペイを知ってもらうためのイベントで、コペンペイのアクティビティを体験し、その後ベジタリアン料理の提供と、ロングテーブルという企画が行割れています。立場を超えて参加者同士で楽しみ、交流を深め、企業はそれぞれの活動内容を共有でき、地元住民は街の隠れた名所を教えてくれて、コペンペイのスタートを飾る素晴らしいイベントになったといいます。もう1つは、鉄道旅行者向けのイベントで、世界最高のシェフである、「アルケミスト」のラスムス・ムンク氏が招かれています。ムンク氏は廃棄されてしまう余剰食材(surplus food)を使った料理をホームレスの人に提供する活動をしていて、デンマーク国内全域で提供していることなどが講演されたイベントで、電車で来れば参加できるという条件でした。ワンダフルコペンハーゲンとしてもこのコンセプトを広げるために、市内の多くのパートナーと提携を進めたそうです。
コペンペイは観光客の増加を目的にしていない
コペンペイの説明で極めて重要なコンセプトだと感じたのが、「コペンハーゲンに人を呼び込むための取り組みではなく、コペンハーゲンにいる人々をそっと促そうとする(nudge)取り組み」であるという考えです。様々なプロモーションも展開されていて、コペンペイの利用者数も増えていますが、オーバーツーリズムを防ぐ取り組みだという説明がありました。
デンマークの企業にはサステナビリティアジェンダがあります。コペンペイに参加し、滞在中の観光客にサステナブルな行動を促す取り組みをコペンハーゲン市と協働で取り組むことに、企業としても価値があります。ワンダフルコペンハーゲンがコペンペイの広告・キャンペーンを行うことで、参加企業の認知や価値が向上しますし、従業員のモチベーション向上にもつながっているそうです。
上述した、観光客と地元の人が出会う場を作り、良い観光や良い街を共に考えることを目指している、という点はこのコンセプトの一部です。観光客が地元のゴミ拾い等のポジティブな活動に参加する姿を見ることで、地域住民が観光客をコミュニティの一部として前向きに捉えるようになるとともに、ユニークなアクティビティを住民が知り、惹きつけられ、観光客と一緒に参加する機会にもなっているそうです。日本では「関係人口」が注目されてきていますが、交流人口である観光客を、部分的にでも関係人口にしていくような機会を、コペンペイが創出しているようでした。
コペンペイの成果
なぜコペンペイを使うのかについて企業に依頼した調査が実施されています。その結果として、
・48%:ユニークな経験をしたいから。
・23%:無料もしくは手頃に体験できるから。
・22%:サステナビリティに共感。
・8%:新しい人に出会いたい。
という結果が示されています。更に重要な点としては、
・98%:人に薦めたい
・43%:帰国後にも環境を考慮した活動をしたい
という結果で、参加しての満足度が高く、コペンペイが個人の行動変容に影響を及ぼしていることが分かっています。
コペンペイという仕組みやアクティビティが注目され、世界中のメディアで取り上げられて2年間で10,000件の記事になり、ソーシャルメディアは83万5千のエンゲージメントを得ています。自転車レンタルの利用は59%増加したという数字もあります。
今後の取り組み:DestinationPay
コペンペイの価値が上昇している中、2026年の準備も進められています。今後はハイシーズンのみの取り組みから、通年での事業展開へと広げる計画となっていました。
また2025年12月からは、コペンペイのモデル(フレームワーク、ツール)を世界中の都市に無料で提供するグローバルな取り組みである「DestinationPay」(ディスティネーションペイ)に着手されていました。世界中の関心のある人、都市との連携を進め、グローバルネットワークを形成し、各地において良い影響をつくりだしたいと考えられています。2026年2月には350の観光地が参加したウェビナーが開催され、すでにベルリン、ブレーメン、フィレンツェなどいくつかの都市が2026年に導入予定で計画が進行しています。本格的なグローバル展開は2027年を予定しています。
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