コペンハーゲン市、市民参加型の試行錯誤行政。

2013-05-09 16:41:45 | カテゴリ:活動報告


コペンハーゲン市役所

コペンハーゲンには、「ローカル委員会」と呼ばれる地域住民参加組織があります。市内10の地域に、12の委員会が設けられ、それぞれ23人の委員が所属し、地域に関するテーマ、例えば都市計画などを審議します。地域住民と議員との、仲介役を果たすことを、主な目的として設置されています。今回の視察4件目のコペンハーゲン市役所では、ローカル委員会について伺ってきました。

コペンハーゲン市は大きな市なので(およそ56万人)、1990年から2004年にかけて、市内を複数の行政区に分けて、意見を集約すべきではないかという議論がありました。そのため、市内を4つの行政区に分けて、区議会を設置するという試験的取組みも行われました。市の財源のうち、8割を区に配分し、残りを市の中央管理とすることになっていたということですが、この試みは失敗したそうです。様々な問題がおき、4つの区の住民に対する世論調査でも、3つの区では多くの住民が反対したため、区議会の試みは失敗したということです(1つの区では賛成意見があった)。失敗の背景には、区議会を設置するだけの素地が出来ていなかったこと、予算のあり方について十分な議論をしきれていなかったこと、つまり準備不足が最大の問題だったと指摘されていました。

しかしながら、反対した地域の中から、地域委員会のようなものを創ったら良いのではないかという提案があったといいます。そこで、2005年からローカル委員会の試験を一部で実施し、上手く行ったことから、2006年より本格実施に入ったといいます。

ローカル委員会の委員の選出方法には特色があります。23人のうち7名は、市議会に議席を持つ7つの政党が1名ずつ選任します。残りの16名は地域の人から選ばれます。地域の、高齢者の代表や、スポーツ団体の代表、住民組合の代表者などから16名以上が推薦され、その中から代表者を16名選出する会合が行われます。会合は一種の選挙集会で、推薦した団体の人達が70名〜100名程度参加をし、出席した人達で16名を選出します。会合ではグループディスカッションが行われ、例えば「住宅分野」や「スポーツ分野」から何人を選ぶかが決められます。最終的にはその枠に応じて16名が選出され、市議会にて選任されます。

会合にて、対話を重ねながら選出されるという点に、大きな特徴があります。単純に投票するのではなく、まずはどういった分野の人を選ぶかから対話が行われるということは、つまり地域の課題を審議する人達を、その影響を受ける人達によって意図的に偏らせることが可能なわけです。委員の選出は、4年に一度行われる市議会議員の選挙の後に行われます。選挙で議員を選んだ後、更に自分達の地域を高齢者施策を重視させたり、スポーツ施策を重視させたりできるわけです。

デンマーク人は、必ず何かの組織・団体に所属しているといいます。だからこそ可能な、委員の選出方法と言えます。その反面、移民の人達にとっては魅力的ではないので、参加しないといいます。また、ローカル委員会には課題があり、メンバーのほとんどが60歳以上の男性で、また地域活動に積極的に参加している人達ばかり。活動的ではない人や、若い人、女性の声が反映されにくいということが、指摘されています。議員の中には、ローカル委員会の影響力が強まることを恐れる人もいるといいます。

コペンハーゲン市役所

課題が指摘されている一方、ローカル委員会の役割は重要度を増しています。

設置当初は、ローカル委員会の影響力はそれほど無く、住民の声を集めるだけの、形式的なものとして運用されていたといいます。それが時とともに、ローカル委員会の重要性を議会も行政も認識し、ローカル委員会の意見が実現されるようにもなって来ているといいます。

ローカル委員会には、全体で5000万クローネの予算がつき、12の委員会毎には300万クローネが配分されています。この予算はローカル委員会の活動、特に文化的活動、あるいは地域独自の施策実施のために使われます。都市計画などが出来上がると、必ず地域委員会が審議をします。審議に必要な情報は、行政・議会から送付され、事案に対する答申決定期日の6週間前までに情報が提供されていました。この期間も、6週間では短いということで、現在ではより長く審議時間をかけられるよう、できるだけ早く情報を提供しているといいます。

ローカル委員会での合意形成方法は、委員会毎に異なっています。あるローカル委員会では、ディスカッションによる合意形成を重視し、一切投票を行わない所もあれば、ディスカッションを最大限重ねつつも、最終的には投票で決めるところもあるといいます。デンマークでは議論することの重要性が認識され、小学校からその習慣がつけられていきます。授業でもそうであり、学校の廊下などには、テーブルや椅子が置かれ、いつでも議論できるようになっているといいます。その背景に、民主主義のベースには、議論を重ねることが重要であるという考え、伝統が、国の中で共有されていることがあります。

屋台を出して、地域の声を聞く「ディベートワゴン」

ローカル委員会の意見は、議会、行政に重視されているものの、本当に地域の声になっているかを確認することも重要だと、議会は考えています。そのため、ローカル委員会の委員達も、直接地域住民の声を汲み上げようとしています。その方法の1つが、「ディベートワゴン」です。ディベートワゴンは、ホットドックを路上で販売する、屋台車のようなワゴンを使って地域を回り、直接街を歩く住民の声を聞くという取組みです。このワゴンを使った方法は、12のうちのどこかの委員が発案、実施し、それを真似て12の委員会で実施されている、住民発案の取組みです。ローカル委員会の一般的な認知度がまだ低いため、このワゴンがローカル委員会が出していると知らない人も多いといいますが、花を植えるキャンペーンのために、チューリップの球根を配る活動にも使われるそうです。

コペンハーゲン市役所

写真は、魚を販売する屋台。

こういった取組みは、横浜市も学ばなくてはいけません。市民意見募集やパブリックコメントが行われても、回答数はほとんどが2桁。多くても3桁です。370万都市において、非常に少ないと言わざるを得ません。原因は簡単で、そもそも認知がされていないこと。待っていても意見は集まらないのですから、ディベートワゴンのように、積極的に外に出て市民の声を聞く必要があります。「次世代郊外まちづくり」では、たまプラーザ駅前にテントを張って、取組みの告知と、意見募集を行った「オープンワークショップ」の例もあるわけですから、今後策定されていく中期4ヶ年計画など、市民に直接影響のある施策に関しては、各区の中心的な駅前などを利用して、市民意見を集める必要があると考えます。

市民参加型の試行錯誤行政

ローカル委員会の取組みで注目すべきなのは、行政が試行錯誤を行い、その背景には市民の意見や、市民参加があることです。また参加のベースは、議論を重ねることである点。そして、議論のための情報と、時間が用意されていること。これまで議会で、オープンデータを取り上げてきました。過去のブログにも書きましたが、情報は参加意識を醸成するためには書かせません。議論の場が用意されても、議論の土台となる情報が少なければ、十分な意見を表明できません。オープンデータの推進により、情報を得やすくすること。フューチャーセンターのような「場」で、未来志向の議論を重ねられること。これからの行政・議会にとっては、欠かせない取組みです。

コペンハーゲン市役所

市役所の中には自転車と一緒に入れます。デンマークでは自転車での移動が普及し、過去には大臣が自転車通勤をしていたこともあるそうです。

コペンハーゲン市役所

市庁舎の中には、駐輪場があります。

コペンハーゲン市役所

中庭から見た、市庁舎の外観。

コペンハーゲン市役所

市庁舎内のホールの内装。

Comment

  1. でんでん より:

    大変勉強になりました。
    地方自治、コミュニティの形成について大学院で研究していました。
    ローカル委員会について、より深く知りたいのですが、
    参考となる資料・論文・ホームページなどございますでしょうか。

    ちなみにこのローカル委員会とは、英語で「Local Committee」でしょうか。
    宜しければご指導、情報のご共有をお願いできればと思います。

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