2024年11月14日、新たな都市活力推進特別委員会の視察で、大阪イノベーションハブ(OIH)を訪問し、大阪のスタートアップ支援について調査を行いました。OIHは公益財団法人大阪産業局が運営しています。大阪産業局は大阪府と大阪市が連携して「大阪」の産業振興を行うために設立された組織です。
関西全体での発展を目指す
OIHの特徴として重要な点は、大阪にとどまらず「関西」全体での発展という視点で取り組みが行われていることです。京阪神とも表現されますが、大阪のOIHと、京都のKOIN、神戸のANCHORが連携し、グローバルスタートアップ・エコシステム拠点に選定されています。大阪、京都、神戸それぞれの拠点だけでなく、大学や経済界がそれぞれの共通点や強みを活かし、大学発のスタートアップに強い京都、実証実験に強い神戸と、役割分担をし、連携が進められています。自治体がスタートアップ支援に取り組む目的には、自分の自治体において起業がなされ、最終的には法人税収や、雇用機会の創出、人口の増加につなげたいというのが本音だと思います。しかし「関西広域連合」という連携が行われる等関西全体で発展を遂げようと連携が進められてきたこともあり、自治体を超えて連携が進められているところが、スタートアップ支援の強みにもなっていると考えます。OIHのKPIとして、2021年度〜2025年度の5か年において、スタートアップへの総投資額400億円という数字を定めていて、すでに300億円を超えているということでした。
大学と起業支援
もう1つの大阪を超えた連携の枠組みが、大学間連携です。KSACという大学発スタートアップ創出支援のプラットフォームがあります。元々は「KEIHANSHIN STARTUP ACADEMIA COALITION」(京阪神スタートアップアカデミア・コアリション)として2021年度に発足していますが、大阪、京都、神戸に加えて、奈良、滋賀が参加したことで、2024年からは頭文字のKをKANSAI(関西)に変えて取組まれています。KSACには26大学が参加し、自治体や企業、経済界など、合計78機関が参加しています。KSACでは事業化の可能性等がある研究に対して「GAPファンド」を提供したり(文部科学省JST基金)、起業をめざす人材育成などを行っています。「起動」という関西スタートアップインキュベーションプログラムでは、2023年度の採択者の5企業が全て大学発のスタートアップであり、大学における起業が活発に行われていることが伺えます。大学の先生が起業する場合は、技術などをもつご本人はCTOに就き、CEOは別の人に任せることも多いそうです。KSACによって、従来の産学公連携よりも更に踏み込んだ連携を進められるようになり、また研究成果をビジネスに繋げやすくなっているということでした。他にも、大阪大学の「イノベーターズクラブ」をはじめ、いくつかの大学に「起業部」があり、大学生の企業活動が活発に行われていることや、「KANSAI STUDENTS PITCH Grand Prix」というイベントの開催実績について説明をいただきました。
京阪神や関西という形で連携をしつつも、各都市が独自の活動も展開しています。京都は大学が集積し、大学コンソーシアム京都による連携が有名ですが、大学や研究機関の集積と、「京都」ブランドを活かして、IVS(Infinity Ventures Summit)という大規模なスタートアップイベントを誘致し、2023年から3年連続で京都で開催されています。京都府・市が協力しているとはいえ、参加企業や参加者を集め盛り上げるために、関西として協力が行われています。OIHの支援における特徴の1つに、大阪に所在していない、居住していない企業・人にも支援を行っていることが挙げられます。自治体として費用対効果を考えれば、当該自治体に居住・所在しているところに限定して支援したくなるものですが、「関西」として発展しようという考え方や、全国に対するアプローチにおいて、長期的にみて大阪へのメリットがあるということを考えていること、またVC(Venture Capital)は、良いスタートアップがあればどこへでも行くので、地域に縛られずに支援を行おうと考えている、ということでした。
今後の課題と所見
OIH設立から11年が経過して、全国的に自治体によるスタートアップ支援も増え、民間におけるコワーキングスペースやオープンイノベーション拠点、インキュベーション施設が増えてきているなか、プレシード期などでスタートアップ間での繋がりを必要としている人たちも大勢いるということで、OIHへの期待や役割は一層増しているといいます。今後は、「Deeptech KANSAI」など、OIHの強みを活かすことや、大手企業とVCがイベントなくてもOIHに来てもらえるような仕掛けづくりをしていきたいと仰っていました。
横浜市でもYOXOなどのスタートアップ支援事業が行われていますが、OIHは2013年にスタートしていて自治体におけるスタートアップ支援の先駆けの1つです。私は2014年に一度視察に訪れていて、横浜市に対してスタートアップ支援事業を推進することを提案し続けてきたなかで、参考にしてきた取り組みの1つです。横浜市の「大学・都市パートナーシップ協議会」には30大学が参加していて、本市にも多くの大学が所在しています。大学間連携や大学と市の連携、そして大学における起業支援は今後横浜市においても推進できる分野ではないかと考えます。また、横浜市も「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」の一員として、「グローバル拠点都市」に選ばれていますが、都市間連携にはもっとやれること、可能性があると感じます。東京が中心となった都市間連携だけでなく、横浜市としてもリーダーシップを発揮して、横浜や神奈川の経済の発展を狙いながら一層の取組みが必要だと考えます。
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