宜野湾市の「ぎのわん健康プロジェクト」。視察報告。

2024-11-20 17:13:35 | カテゴリ:活動報告


ぎのわん健康プロジェクト

2024年11月20日、所属する「健康福祉・医療委員会」の視察で宜野湾市を訪問し、「ぎのわん健康プロジェクト」について調査を行いました。

宜野湾市の健康課題

宜野湾市内にあった米軍のキャンプ瑞慶覧(西普天間住宅地区)が2015年に返還され、跡地利用の先行モデル地区として、沖縄県港医療拠点形成が進められています。中心となるのは琉球大学医学部及び琉球大学病院の移設で、移設を契機に西普天間住宅地区を核にした健康増進を推進するために、「沖縄健康医療拠点健康まちづくり基本方針」が策定され、「西ふてんまウェルネスタウン」という地区名称が選定されています。

宜野湾市の健康課題としては、
 (1)平均寿命と健康寿命の乖離
 (2)65 歳未満の死亡割合が高い
 (3)肥満が多く、肥満を原因とした疾患が多い
 (4)健康への関心が低い
という4つに整理がなされています。基本方針では「「自然に健康になれる」まちづくり」というテーマが掲げられ、現在産学官連携によるプロジェクトが進められています。

琉球大学と取り組む「ぎのわん健康プロジェクト」

重要なプレイヤーの1者が、琉球大学です。医学部と附属病院がウェルネスタウンの中核になる予定です。琉球大学と宜野湾市が連携して取組んでいるのが、2022年度にスタートした「ぎのわん健康プロジェクト」(健康行動プログラム構築実証事業)です。基本方針で整理された4つの健康課題を前提に、全市民を対象にした健康づくりの「ぎのわんモデル」を構築、健康状況やライフステージに応じた取り組みの推進、大学の知見を活かした学術的エビデンスの構築、パイロット事業で健康づくりプラットフォームを構築し市民主体の健康増進の推進、に取組まれています。

沖縄といえば、以前は長寿日本一で有名でしたが、都道府県ランキングでは2020年に男性43位、女性16位と、順位が低下し続けています。その背景には、戦後の食習慣が影響していると考えられていて、戦前における沖縄の伝統的食形態が、米国の食形態の影響を受け脂質摂取が増加し、現在は若年者の食塩摂取の増加という状況にあり、炭水化物(イモ類)とカリウム(野菜)の摂取量が減少していることが明らかになっています。こうした課題に対して2025年度までの4年計画で、プロジェクトが実施されています。

ヘルスリテラシーを身につけるための調査事業

プロジェクトには「研究」、「健康づくり」、「人材育成」の3つの柱があり、それぞれの視点から具体的な事業に取組まれています。「研究」と「健康づくり」の視点で取組まれている事業の1つが「小学校での研究・健康づくり支援」です。市内9つの全小学校が参加し、子どもと保護者がヘルスリテラシーを身につけ、健康づくりを実践できるようにすることを目的に、対象者のAとBへのグループ分け、オンラインアンケート調査の実施、食育動画の視聴が行われて、効果検証作業が行われています。

児童がほぼ半数になるようにグループ分けがなされ、2023年度と2024年度にかけて3回の調査が行われています。アンケートに答えられる年齢ということを考慮し、3年生以上が対象となっています。さらに年度をまたぐため、アンケート調査の実施は3年〜5年生を対象として、6年生は動画視聴の実施のみとされていました。前期介入のAグループは、授業中やホームルーム、給食の時間など、学校ごとに対応可能な時間に動画を視聴してもらい、事前のアンケートと同じ内容のアンケートを動画視聴後に行い、前後の比較が行われています。Bグループに対しては、次年度に動画を見てもらって、同様に事後アンケートが取られています。アンケートは児童はGIGAスクールで配布されたタブレットから、保護者はスクリレというアプリを使ってスマホからの回答となっています。小学生が対象とされたのは、早い段階で知識を身に着け大人になる頃には、食生活への態度を定着させたいというのがメインであるとともに、沖縄県医師会が制作した食育の副読本「くわっち〜さびら」が小学生向けであったことが影響しているということでした。子どもたちが視聴する動画は、この「くわっち〜さびら」を動画化したもので、3〜5分の動画が5シリーズ制作されています。

同様な取組みとして「地域での研究・健康づくり支援」という、地域を対象にした事業があります。事業名の通りで、こちらは小学生ではなく、地域住民がヘルスリテラシーを身につけ、健康づくりを実践できるようにすることが目的となっています。自治会単位でAとBへのグループ分けが行われ、2023年〜2025年の毎年1回ずつ調査がなされているところで、オンラインアンケート調査の実施、健康教育・健康支援事業の実施、健康情報発信、健康づくり実践状況把握、健康データ収集、が行われています。公民館にチラシを配布して、QRコードから同意やアンケートフォームに誘導し参加してもらい、登録されたメールアドレスに動画を送って視聴してもらったり、健康イベントの開催案内を行って、対面(オフライン)での健康講話を行っています。また、イベントの状況を動画で撮影し、YouTubeで配信しているそうです。

小学生、地域、それぞれの調査結果についてはデータ管理と分析を外部に委託していて、まだ結果が出されていないとのことでした。小学生の方の調査は終わっているので、2025年3月頃には結果が分かるのではないかとのことでした。地域への介入の結果がポジティブな内容であれば、今後もオンライン活用などを進めることになり、もしネガティブな結果であっても、オンラインではなく対面開催が重要という判断ができると考えられていました。市民の行動変容を促すための施策実施にあたって調査を行うことで、目的とする効果が得られるのかどうかを事前に把握しようとしている点が興味深く、研究機関である大学との連携があるからこそできる優れた取り組みだと感じました。

企業との連携でスマート健康増進プロジェクトへ

「人材育成・健康づくり支援」事業では、健康づくり推進サポーターの認定や、宿泊研修・セミナー・勉強会の開催に取組まれていました。公民館での健康教室や健康づくり動画の配信、健康アプリ、スマートバンドを活用した健康づくり支援、市職員や大学職員が参加する合同勉強会、地域・行政・大学が参加する健康まちづくりに関する宿泊セミナーの開催、などが行われています。

2024年3月には、宜野湾市と琉球大学に、沖縄セルラー電話株式会社が加わり3者による沖縄県港医療拠点に関する連携協定が締結されています。今後は、3者による「健康まちづくりプラットフォーム」を構築し、スマホアプリ等を通じたデータ活用、行政提供データの研究活用などを進める「ぎのわんスマート健康増進プロジェクト」が展開されていく予定となっていました。

ぎのわん健康プロジェクト

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