2025年1月20日、横浜市会運営委員会視察で熊本市議会を訪れました。視察項目としては、1.議会におけるデジタル化の推進、2.議会活性化の取組、3.議会運営等の3項目でした。
議会におけるデジタル化の推進
熊本市議会では「SideBooks」(貸与タブレット)と、「LINE WORKS」(個人端末)を活用しています。タブレットについては執行部(行政側)から貸与されているものの、セキュリティの都合上アプリを自由に入れられない、プリントアウトができないといった制約が課されています。利用しづらい側面があるため、議員の個人端末にLINE WORKSをいれて、連絡やオンライン会議、日程調整などが行われています。
デジタル化の契機となったのは熊本地震だったと言います。当時はFAXが中心的に使われていて、避難所との物資のやり取りについてもFAXが活用されていたそうです。そうした状況のなか当時一部の企業から、パソコンやタブレットが避難所等に支援され、デジタル化が徐々にはじめられています。2016年9月の議会活性化検討会からタブレット活用の検討が始まり、2019年6月に本格導入が決定しています。2021年2月にはクラウドの導入(LINE WORKS)が始まっています。
SideBooksの特徴として、会議中に使用している資料や当該ページの通知ができることや、議員に資料提供やお知らせを通知することができることが挙げられています。導入によって、情報伝達の迅速化、ペーパーレス化、資料の差し替えの簡易化、資料の共有の簡便化などが挙げられている一方、印刷ができないことや複数の資料を同時閲覧できないことなどがデメリットとして挙げられています。このデメリット解消のために、LINE WORKSを活用し、個人端末からの印刷等を可能にしています。本会議等の完全ペーパーレス化は2020年9月に取り組まれていますが、予算書・議案書については一部希望議員に配布がなされています(2022年度から議員48人中、会派ごとの希望に応じて16部配布)。
LINE WORKSではドライブにおいて会議資料や報道資料、議会局からのお知らせが共有される他、常任委員会ごとでのトークグループの活用、オンライン委員会でのビデオ通話機能の活用、日程調整や安否確認のためのアンケート機能の活用などに取り組まれています。情報伝達の迅速化や情報共有の円滑化、未読・既読の確認、ペーパーレス化の推進、デジタル化への意識向上といったメリットがあったほか、特にデメリットは無いと捉えられていました。課題としては、既読率の向上とSideBooksの併用のあり方(SideBooksとLINE WORKSの2つを使う手間)が挙げられています。
オンライン委員会等環境整備
コロナ禍の2020年12月に会議規則・委員会条例を改定、2021年2月にオンライン委員会運営要項等の制定がなされています。実績としては、2021年に2委員会、2022年に1委員会、合計3回のオンライン委員会の開催が行われています。2023年4月に国において、地方議会のデジタル化促進に関する地方自治法が一部改正され、2024年2月には全国市議会議長会より標準議会規則及び委員会条例について改正がなされ、オンラインによる委員会の取り扱いが「標準」規定とされています。
2024年度に熊本市議会では会議規則及び委員会条例等についての見直し検討に取り組まれ、2024年12月19日付けで改正されています。改正内容の1つとして開催要件が拡充され、コロナ対策のみならず、重大な感染症や大規模災害等でもオンラインでの参加が可能となっています。また対象者も拡大され、従来所属委員に限定されていたものを、参考人・公述人についてもオンラインで意見聴取が可能となっています。
議会活性化の取組
地方自治用第100条第12項、熊本市議会会議規則147条第1項に基づき、「議会活性化検討会」が設置されています。2024年度は月に1回程度開催されています。これまでの検討内容としては、例えば一般質問における執行部答弁の追跡調査が挙げられています。答弁で「検討する」「研究する」などの答弁がなされた際に、その後執行部がどの様に対応したのか状況報告を求めるという調査です。その他、一般質問の時間・回数の見直しや、クールビズの実施、議会関係資料における押印の見直しなどに取り組まれています。
主権者教育の推進に関する決議
「若者の政治離れ」という課題に対して、若者が議会や議員と触れ合う機会の創出に取り組まれています。方策の1つが「若い世代との意見交換会」です。対象となる学校、学年に対して、市議会や議員等に関する項目について事前のアンケートが行われ、そのアンケートの回答への感想やアンケート内容に対する疑問について、グループ形式で意見交換が行われています。特徴としては、議会に来てもらうのではなく、議長及び議会の広報委員が学校に出向くという出前スタイルで意見交換を行っている点が挙げられます。これまで4か年度、4校に訪問されています(市立千原台高等学校、熊本県立大学、市立必由館高等学校、市立総合ビジネス専門学校)。意見交換後には参加者からアンケートがとられ、議会や議員の理解促進につながっている様子が捉えられています。意見交換会の効果としては、議員を身近に感じ、議員や議会の仕事の理解促進につながり、政治や選挙に対する意識が向上したことが挙げられ、課題としては議会の仕組み等についての説明の充実、今後の展開の仕方、議場見学などその他の取組の検討が挙げられています。
高校生議会の開催
2023年8月の「議会活性化検討会」において、「高校生・大学生議会」開催の提案があり、同年9月に「高校生議会」の開催と実施方法についての検討がなされています。検討の中では、(1)議案審議、(2)一般質問、という2つのパターンが検討され、(1)議会審議のパターンでの実施が決定されています。議案審議パターンはテーマが付託され、委員会においてテーマについて議論し、意見の取りまとめ、採択が行われるという、議会審議・意思決定に即した設計となっています。
参加対象となったのは「熊本魅力推進生徒会」参加校から高校生21名とされ、「高校生における国際交流」、「高校生におけるにぎわいの創出」、「高校生における都市交通」の3つのテーマが委員会付託され、議論の後意見の取りまとめがなされています。事後アンケートでは、参加動機としては議会の仕組みを知りたかった、熊本をよりよくするための話し合いに参加したかったということ、参加して感じたこととしては、議会の仕組みを体験し理解が深まった、自分の意見が市のためになるのか考えると感慨深かったなどの意見が出されています。議会として捉えた効果は理解を深め、交流の場になったということ、課題としては市議会についての説明時間が不足していたことや事前周知不足、意見取りまとめや報告書作成等の作業がタイトだったことなどが挙げられています。
議会運営等について
横浜市会運営委員会では今年度、議会基本条例の見直し作業が行われています。その中でも議論の1つになったのがクールビズの通年化(服装制限の緩和)です。熊本市議会では2014年第2回定例会からクールビズが導入されて、期間は横浜市会と同様5月1日から10月31日までとされています。横浜市においては議会も、行政もこの半年間のみのクールビズですが、熊本市の執行部では2024年11月1日から軽装勤務の通年化が実施されています。熊本市議会での通年化はまだなされておらず、今後他都市の実施状況を研究し検討を行うこととされています。
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