2024年12月20日立憲民主党横浜市会議員団の視察で金沢市を訪問し、「歩けるまちづくり」についての視察を行いました。
江戸時代から残る街路
金沢市は江戸時代から戦禍にも、大きな災害にも遭わずにきたため、城下町の都市構造が現存しているという特徴があります。約180kmもの距離の街路が、江戸時代から変わらず残っているそうです。そのため、道路空間の狭い道が多いという課題があり、2007年3月に「新金沢交通戦略」が策定され、この戦略で「歩行者と公共交通優先のまちづくり」が明確に位置づけられています。その後「第2次金沢交通戦略」(2016年3月)の策定においては、まちなかを拠点にネットワークでつなぐまちづくりが追加されつつ、歩行者と公共交通優先のまちづくりは継続され、2023年3月の「第3次金沢交通戦略」では、「歩行者・自転車・公共交通優先のまちづくり」となり、自転車施策が追加されています。
江戸時代から続く都市の構造は、それ自体が時代背景としても徒歩を前提にされた街路となっています。さらに、歴史文化遺産も数多く保存されているため、金沢の街自体が歩くことに向いた町並みでもあります。一方で、近代のモータリゼーションという文脈においては不便でもあり、道路拡幅が困難な金沢の街とは相反する流れでもありました。こうした状況を捉えて、金沢市では「歩行者優先のまちづくりが必要」と判断されています。当時の「歩けるまちづくり」の視点から、①細街路が残る街、②歴史ある街並み、③自動車への依存、④交通量の増大、⑤公共交通機関利用者の減少、⑥交通事故の発生、⑦都心部での大気汚染、⑧高齢者の移動増加、⑨まちなかの空洞化、という9つの現状が把握され、(1)人と環境にやさしい交通手段の利用推進、(2)歩行者の歩行と自動車等の通行が調和した良好な交通環境の整備、(3)歩くことによるまちを愛する意識の醸成、(4)まちの顔となるまちなかの魅力と回遊性の向上、という4つの課題が整理されています。
歩けるまちづくり協定による歩行者空間充実
こうした課題に向き合いながら、具体的な歩行者空間を充実させていくための手法に、「歩けるまちづくり協定」の締結があります。協定の基本方針としては、(1)歩く人にやさしい交通環境、(2)まちを歩く意識の醸成、(3)まちの回遊性の向上、が示されています。これまで6地区で締結されていて、堅街商店街では歩行者専用道路規制の拡大が、横安江町商店街ではトランジットモール化による歩行者専用空間の整備などがなされています。協定締結にあたっては、現地調査や交通量調査、検討会の開催を踏まえ、地域交通プランを作成し検討会を繰り返し、住民説明会も行いながら、協定の締結や交通規制がはじめられています。
材木地区では一方通行や交差点指定方向外進入禁止に取り組まれ、車両交通量の減少やと、それに伴う歩行者・自転車交通量の増加という成果が見られています。アンケート調査からも、歩きやすくなり、安全に通行できるようになった実感を、地域の方が得ていることが示されています。長町武家屋敷地区では、7:00〜19:00の歩行者専用道路規制が実施され、自動車交通量の減少効果が出ています。一方で許可車両と路線バスの通行は認められていて、通常の路線バスが入れない狭い道路のために、小型の車両を使った「金沢ふらっとバス」が運行されています。
自転車利用の促進
金沢市は自転車通行空間整備でも先進的に取り組まれてきました。2011年3月には「金沢市まちなか自転車利用環境向上計画」が策定され、2020年3月には「金沢市自転車活用推進計画-かなざわ快適創出サイクルプラン-」が策定されています。自転車活用推進計画は、「はしる」、「とめる」、「まもる」、「いかしひろめる」の4つの柱に整理されていて、自転車通行空間整備の推進や事故多発箇所での安全対策の推進、駐輪場利用環境の向上や新たな駐輪施設の整備、交通安全教育の充実やシェアサイクル「まちのり」の利用促進などが定められています。
具体的な施策の推進においては、全国初の組織で形成された「金沢市自転車ネットワーク協議会」が中心となり、国交省、石川県、石川県警、金沢市が連携して、道路空間のあり方が検討され、歩行者、自転車、自動車のそれぞれが安全、安心に通行できる道路空間の創出が目指されています。自転車通行空間の整備延長については、2007年の1.0kmから、2022年の41.8kmまで延びているとともに、自転車運転中の事故は2008年の659件から2022年の159件へと大幅に減少し、安全な自転車通行につながっています。事故対策については、ガイドラインに基づいた整備以上に取り組まれている箇所もあります。紹介された対策箇所では2007年から2017年まで毎年1〜3件の事故があり、路面標示などの安全対策が講じられた結果、2020年〜2024年9月まで事故0件が実現されていました。
金沢市のシェアサイクルは「まちのり」という名称で、横浜市のbaybikeと同様に株式会社ドコモ・バイクシェアがシステムを提供し、株式会社日本海コンサルタントが運営主体として受託し、実施されています。元々はレンタサイクルとして運用されていて、2012年3月から運用されていましたが、利用者の9割が観光客、サイクルポートの設置費用が高い、利用者が増えるとともに機器類の故障や再配置業務が増加し採算が合わないという課題が示されてきました。こうした課題から2020年3月にプロポーザルによる事業者選定を行い、新たなシステムに変更されています。
システムを変更したことにより、故障の問題があった路上端末機だったシステムが車載型になるとともに、サイクルポートは21か所から75か所に増加、自転車は一般車155台が電動アシスト自転車500台に充実、利用時間も7:30〜22:30だったものが24時間化され、料金体系も見直されて、利便性と採算性の向上に取り組まれました。その結果、市民を中心とする月額会員が顕著に増え、利用者は右肩上がりで2020年の103,785人から、2023年の298,521人へと増加しています。
MaaSなど複合的な取り組みの展開
その他にも、官民連携での「金沢MaaSコンソーシアム」による「のりまっし金沢」というデジタル交通サービスや、駐車場附置義務の緩和がなされる「まちなか駐車場」施策の取り組み、バス専用レーンの取り組みやパークアンドライドの推進など、長年にわたって取り組まれている交通施策と、新たな技術を用いた交通施策を複合的に行いながら、従来からの道が狭い問題だけでなく、人材不足等の公共交通を取り巻く課題や、持続可能な交通ネットワークを構築しようと取り組んでいるのが、金沢市の大きな特徴でした。
横浜市におけるウォーカブルシティや自転車通行空間の充実については、今年10月の道路局決算審査で扱ったばかりのテーマでした。都市の歴史や成り立ちは、金沢市と横浜市とでは全く異なりますし、そのため都市構造も異なります。とはいえ、日本における歩行者や自転車を優先したまちづくりをリードしてきた金沢市の長年の蓄積や、効果を測定し活かしながら戦略を見直していく姿、あらゆる交通施策を総合的に動かしている交通戦略の作り方など、学びの多い視察となりました。
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