2025年6月9日豊島区に訪問し、男性育児の支援を行う政策「For PAPA プロジェクト」の視察を行いました。
私も現在子どもを育てる父親の当事者です。父親になることで見えてきた子育て支援の課題として、子育て支援者の多くが女性であり、地域の中で子育てをするうえで父親が参加しやすい場や、父親としての悩みを相談できる場が少ないということを体感してきました。男性の育休取得率が、2023(令和5)年度全国で30.1%、横浜市では46.6%へと上昇を続けるなかで、父親の産後うつは11%という数字も出されていて、父親への育児支援に関する施策を、早急に講じる必要があると考えてきました。2024年10月2日の横浜市会決算総合審査において市長に対して、「父親として女性に相談しづらい」、「父親の育児の悩みを支える相談支援体制を早期に構築すべき」ということや、「父親同士がつながりを持ち、育児不安を軽減し合えるような機会を充実すべき」ことを提案していきました。また、2025年6月2日の横浜市会「こども青少年・教育委員会」においても父親育児支援について、こども青少年局長に提案を行っています。
事業の概要
豊島区では2023年度からFor PAPAプロジェクトがスタートしています。
(1)男性の妊娠期からの育児知識や意識の向上、
(2)受援力(まわりに「助けて」と言える力)の醸成、
(3)行政と民間の連携強化を通じた支援体制の充実、
という3点についての取り組みを通じて、「男性の産後うつへの対応・予防、母親の負担軽減を図り、安心して子育てができる社会の実現を目指す」とされています。
事業費は2023年度は7百万円、2024年度は1千万円、2025年度は1千万円で、東京都子供・長寿・居場所区市町村包括補助事業費が10/10充てられています。実施にあたって2023、2024年度は、一般社団法人Daddysupport協会への委託がなされています。Daddysupport協会は、医師や当事者によって設立された団体で、父親の育児支援に取り組んでいます。
男性の育児支援に向けた調査
For PAPAの事業はすでに注目すべき実績がいくつかあり、その1つが「男性の育児支援に向けた調査」です。2024年2月と、2025年1月〜2月の2回実施されています。結果の公表されている、2024年に実施された「令和5年度「豊島区男性の育児環境に関する調査」単純集計結果」によると、
●豊島区の父親の育児休業取得率63.3%と高い傾向にある。
●1歳までの子育てにおいて76.5%の父親が精神的な負担を感じたことがあり、精神的な不調を感じたことがある父親も41.8%に上る。
●妊娠届の提出は71.6%が母親のみで対応し、妊娠初期から妊婦健診への父親の同伴ありは41.6%にとどまるなど、父親が妊娠出産に伴う手続き等を経験するタイミングは、母親に比べて遅い傾向にある。
●父親は、子の出生後も45.3%が毎日10時間以上を仕事と通勤時間に割いており、家事育児時間や睡眠時間を確保する際の阻害要因となっている可能性がある。
●認知・利用につながった官民の子育てサービスに関しては、「配偶者の紹介」で知った父親が6割強、「行政による案内」で知ったが4割前後となり、この2つが上位を占めている。
という特徴が明らかになっています。
男性の育児支援に向けた調査から明らかになってきた傾向としては、(1)育児情報量に差が生じやすい、(2)相談や交流へ積極的でない傾向、(3)産前は制度面に関する相談・質問が多い、ということが整理されていました。
(1)については、男性向けイベントには情報収集に熱心な層が選挙区的に参加する傾向があるが、他方では情報収集が困難であったり、配偶者から情報を得るのみという男性も一定数いるということで、情報格差が生じているということ。
(2)については、子育て支援施設を利用していても「相談は苦手」という場合が多く、何をどう悩んでいるという「具体的」な話が出づらく、「相談員が同性でない」ことの難しさを感じるということが指摘されています。
(3)については、産前と産後では悩みや知りたいことが変化する印象があり、産前は経済的支援や行政サービスについて、産後は配偶者とのコミュニケーションや生活の変化に関する悩み相談が増えるということでした。
同性の相談相手という部分については、男性保健師の採用と配置に取り組んでいるということで、2か所ある保健センターにそれぞれ1名ずつ男性保健師を配置されています。とはいえ、全体では女性保健師が20名、男性が2名(内1名は現在育休中)という状況ですので、まだまだ父親が男性に相談しやすい、必ずできる、という状況には至っていません。そもそも保健師の96.8%が女性(※厚生労働省:令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況)ですので、この分野において男性の採用を増やすのも簡単ではありません。
父子手帳「MAP for PAPA」の作成
もう1つ重要な実績が、「父子手帳」の作成です。「母子健康手帳」は妊娠の届出をすると役所でもらえますが、「母子」という名前がついた冊子です。父親向けの情報提供にと作成された豊島区版父子手帳には、心構えのような「5つの大切なこと」と、妊娠初期、妊娠中期、妊娠後期、産後・育児期、の4つ期間における母親とこどもの変化、気をつけたいこと、そして「ダディアクション」として父親がパートナーや家事育児、仕事について父親のやること・できることについてのチェックリストが設けられています。最後のページには、支援先リストを記入する欄があり、医療機関や行政機関、子育て支援・サービスに関する機関などを自ら記入するようになっています。この父子手帳の作成についても、Daddysupport協会への委託が行われています。
父子手帳づくりで工夫した点としては、まず妊婦面接での配布が挙げれられていました。妊婦面接は女性が来ることが多いものの、現場の職員の感覚では、3〜4割くらいは夫婦同席で参加されていて、女性だけでの参加でも父子手帳を渡しているそうです。既存情報へアクセスできない層に対して、確実に情報を提供していくために、一律で提供できる妊婦面接の機会が活用されています。パンフレットを開くと「「父だから、男だから、頑張る」の次の時代へ。」というメッセージが大きく書かれ、その下には「いざとなった時、だれかに頼れるように」と、受援力を向上させるためのメッセージが記されています。妊娠期に具体的な子育てのイメージを持てていない男性が「有用性」を感じられるようにと、ニーズの高い経済的支援を含む行政情報補前半に、後半では配偶者とのコミュニケーションへの提案など、ニーズを踏まえた情報掲載となっています。
このほか、公民連携による男性育児支援体制の構築のために、「官民連携ネットワーク会議」を開催しているほか、妊娠期の男性向けセミナーなど、啓発事業に取り組まれています。個別の事業としては、「パパズカフェ」、「サロンDパパ」といった、パパ同士の交流会の開催、パパの応援講座としてパパ向けの遊びの紹介、父親向け講座として先輩パパとの交流会、パパのベビーマッサージなどが開催されています。
地域の子育て団体・サークルの設立・育成の支援などを行っているかについて質問をしましたが、現時点でそのような取り組みは行われていませんでし。女性の子育てサークルは豊島区においても数多くあり、作ろうとしてきた過去もあるそうです。女性は様々な形で集まってもらった時に、グループになってもらって自己紹介をしてもらうと、自然と仲良くなっていく面があるものの、男性に同じような取り組み方をしても難しいのではないかと考えていらっしゃいました。「区民ひろば」(※地区センターのような場所)に週末子ども連れのパパが来ることも増えているそうで、そこで何か支援策を強化していく必要があると認識されていて、今後の課題となっていました。
所感:相談をしづらい男性、というテーマ
私は自身の子育て経験や地域における学びの機会を通じて、冒頭に記した通り父親同士、男性同士での支援(ピアサポート)の必要性や、そうした機会の充実を議会にて提案してきました。豊島区においては、すでに調査を通じてこうした課題が明確に可視化、把握され、支援策を講じる前提とされていました。豊島区の状況と、横浜市の状況がすべて同じとは限りませんが、同じような傾向にあるだろうと想定して、先行事例に学び、横浜市政としても対策を講じていく必要があると考えますし、横浜市として独自に調査を行うことも必要ではないかと考えます。
横浜市においては「男女共同参画センター横浜北」においても、男性の育児をテーマにした講座等が行われるようになってきています。そこでは参加対象者を「パパ」とし、集まった父親同士でのグループワークなどが行われ、男性同士でも話しやすくなるようにと工夫がなされていました。青葉区においては、日曜日に男性による父親の育児支援を行う団体が発足し、キャリアコンサルタントによるキャリア相談をできるようにすることで、仕事の相談を入口に父親が悩みを言える場を提供し始めています。
2025年6月2日の横浜市会「こども青少年・教育委員会」では、「児童虐待による重篤事例及び死亡事例検証報告の概要等について」という報告が行われ(※資料はこちら)、事例Ⅰとして父親とその子どもの「心中による虐待死」が報告されています。その中では検証委員会委員の「課題解決に向けた改善策の提言」として、「援助希求的な態度を取りにくい父親が気軽に話せる場所や、相談できるツールの確保が求められる。SNS など、様々なチャネルを通じて相談につなげる取組の工夫が必要」という指摘がなされています。
横浜市においても、苦悩を相談できないまま、自死、虐待死という重篤な事例が生じ、課題も明確に指摘されているなかで、他都市においては既にこの課題に向き合い、支援事業に取り掛かっているわけです。横浜市政として早急に対策を講じることが必要ですし、今後もこの課題に取り組んでいきます。
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