デザイン思考と、政策形成プロセスと。デンマーク、CIID。

2013-05-07 23:41:15 | カテゴリ:活動報告


CIID

デンマーク視察3件目の訪問先は、CIID(COPENHAGEN INSTITUTE OF INTERACTION DESIGN)。名前の通りインタラクションデザインについての機関ですが、デザイン思考で調査・研究・教育を行っている機関です。

まずはご覧頂きたいのが、こちらの動画。

もしかしたらご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれませんが、CIIDがTOYOTAから依頼を受けて行ったプロジェクトの成果です。

CIIDは基本理念に、(1)ingenious(独創的な)、(2) well crafted(よく出来ている)、(3) meaningful(有意義な)の3つを掲げ、「美しい経験をデザインする」というビジョンのもと、コンサルティング、リサーチ、教育の3部門から構成されています。これまでのクライアントは主に企業でしたが、近年では中央政府や自治体など公共部門からの仕事も受託しているといいます。

上述のTOYOTAのほか、novo nordiskというインシュリンメーカーと糖尿病に関するプロジェクトを行ったり、Lufthansa Technikとのプロジェクトでは、ファーストクラス客室のプロトタイプを作成し、そこから得られる体験を調査したり、APCとは都市インフラに関するプロジェクトを行ったりしています。

CIID

そんな中で、公共部門の取組みとしては、図書館のプロジェクトが挙げられました。情報の電子化が進む中デジタルなものに関心が移り、「本」から人々が遠ざかってしまい、図書館に来る人が減ってしまったという課題がありました。政府は、図書館にデジタルの要素を取り入れることで、人々が図書館に関心を持つようにしたいと考え、CIIDに依頼。CIIDは、「ライブラリーで新しいタイプの音楽を発見すること」をコンセプトに、デジタルミュージックを物理的な図書館スペースの中で発信し、ネットでも貸し出しが出来るシステムを提案したり、図書館で電子書籍のレファレンス番号を探し、自宅でネットから借りられる仕組みを提案したりしました。

また、デンマークでも最も重要な分野である医療に関しても、テレ・メディカルのプロジェクトを担当しました。デンマークは冬の時期にうつ病患者が増加し、社会問題になっているといいます。デンマークでも、イギリスでも行われた調査の結果、実際に面会して行われるうつ病の治療と、遠隔診断(テレ・メディスン)での効果にはそれほど違いが無いということが分かりました。デンマーク政府として、テレ・メディスンを認可する直前までプロジェクトは進行していて、CIIDの担当部分は今年の1月に終了したといいます。今年の8月から来年1月まで試験試行が行われ、1年後には本格運用されることを期待しているといいます。

CIID

こうしたプロジェクトの背景にあるのが、デザイン思考です。CIIDの強みとして、特定の領域の専門家を集めてコーディネートすることが挙げられました。専門知識を持っているだけでは不十分で、デザイン思考や、コラボレーションの能力が必要であり、そうしないと有用な解決策を創出できないといいます。テレ・メディスンに関しては、政府や企業など4分野のミックスによって、解決策が創出されたといいます。また、これまでは教育を通じて、特定分野に長けることを学んできたものの、コラボレーションに関しては知識も、経験も無いのが社会の現状であると指摘されていました。

どうやってアイディアを創出するのか

我々の視察に答えてくださったCIID PartnerのVinay Venkatraman氏は、デザイン思考は特別なスキルではないといいます(少なくともCIIDの世界ではという)。自分の考え方を抽象化し、他者とコミュニケーションする能力は誰でも持っていて、それは恐らく日常生活や環境から、自分達が学んでいくことではないかと。CIIDでアイディアを生み出す時には、チームワークが重視されるといいます。チームで100も200もアイディアを出し合い、絞り込みを行い、更にまたアイディアを出し合い、絞り込みを行い、という作業を何度も繰り返すことで、アイディアを創出するといいます。

このデザイン思考についての例え話で、コーヒーとミルクが持ち出されました。デザインというのは、コーヒーに入れるミルクのようなもので、ミルク無しでもコーヒーは飲めるが、ミルクがあるとカプチーノができたり、カフェオレが出来たりするのだと。デザイン思考とは、日常の中でミルクを注ぐように、誰でもできることなんだと、表現がされました。デザイン思考は「何をデザインするか(What to design)」でありトレーニングは必要なく、デザインの実践に関しては「デザインの仕方(How to design)」であり、実践すればするほど上達するのだと。

CIID

デバイスとコンテンツの関係性と、コミュニティデザインと

CIIDでは日常的に、政府や企業とワークショップを行い、デザインをどう利用するかを学ぶといいます。またデザイン思考とは試行錯誤型アプローチであり、デザインの世界では一般的に行われていたものを、他の分野でも使われるようになってきた文化(方法論でも、新しいモノでもなく)であるといいます。

デバイス(機器、装置)とコンテンツ(提供される内容)の関係で言えば、一般的にはデバイスが先に創られるが、利用者にとってはコンテンツが重要であるにも関わらず、しばしばデバイスとコンテンツの関係性が薄いということが起きていると指摘されていました。関係性が優れていれば、利用者はデバイスを意識せずとも、コンテンツを利用できるのだといいます。

いま日本の様々な地域で、「コミュニティデザイン」が注目され、取組みが行われています。私がこれまで視察で訪れた、延岡市の取組みも、海士町の取組みも、そしてたまプラーザで行われている「次世代郊外まちづくり」の取組みもそうです。住民参加により「駅舎にはどんな機能が必要か」を話し合い、その中から駅舎のデザインも出来上がっていく。住民参加で町の今後の10年計画を作成し、住民自ら何が出来るかをデザインしていく。たまプラーザ駅周辺の街歩きや、ワークショップを重ねながら、まちづくりの基本構想をデザインしていく。これからの未来、どんな地域をつくって行きたいのか、その為に何ができるのか、そして何が必要なのか。

今回の視察の目的は、政策形成の今後のあり方を探るため。その方法の1つであるフューチャーセンターの最前線を知るためです。デザイン思考によるアプローチは、住民参加型の政策形成プロセス、フューチャーセンターにとって、非常に重要な要素です。特に、多様化し、高齢化する社会の中で、既存の解決策ではなく、地域毎、住民毎、異なる解決策が必要になっています。従来通りの行政が政策を作り、一律で施行され、制度変更には時間がかかる、というようなやり方では対応しきれないのは明らかです。多様化する社会には、住民参加により政策を形成し、住民自らが参画し、臨機応変に設計変更をできるようなアプローチが必要です。まさにデザイン思考、未来志向の取組みが必要だと考えます。

しかしながらこれまでの行政は、デザイン思考的なアプローチはほとんど取られてきませんでした。デザインと言えばせいぜい施設の設計。コミュニケーションデザインや、インタラクションデザインという考えからは、ほど遠い場所にあったと言わざるを得ません。その例が、横浜市の場合は新市庁舎整備計画でしょう。誰のための市庁舎か、市庁舎を市民がどう活用するのか、といった視点が抜け落ちています。将来どんな横浜市を築いていくための市庁舎なのか。市民不在、住民不在のまま、行政が主導して建物(デバイス)を作ろうとする一方、何を行い、どう活用するか(コンテンツ)が抜け落ちている訳です。

なせデンマーク政府はCIIDの力を借りるのか

とはいえ実はデンマーク政府も、最近になってデザイン思考の有効性に気づいてきたといいます。背景には、CIIDが政府に何年もデザインの必要性を説いてきたことがあります。これはつまり、利用者である住民志向の重要性に政府が気づいたことだと言えます。今でもCIIDは年に数回、いくつもの政府に対してデザイン思考の重要性を説き、デンマーク政府に対しても講演を行ってきたということ。その結果、より良い福祉国家を維持・構築するには、ユーザーセンタード・デザイン(利用者にとってサービスなどが使いやすく魅力的であるようにすること)が有用であり、必要なことだと認識したのだというこうとでした。

今回の視察を基に、行政を促し、横浜市の政策形成プロセスを変えていくのは私たち市議の役割でもあり、また、変えたい、参画したいという市民の皆さんと連携していくのもまた、私たちの役割です。

※CIIDで学んでいる日本人の方ともお会いしました。CIIDについて、現場からのブログが更新されています。こちら

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施設内にはプロトタイピング用の工作室があり、3Dプリンターやレーザーカッターも設置されています。

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