認知症ケアを軸にした、まちづくり。大牟田市視察報告。

2015-06-27 14:37:16 | カテゴリ:活動報告


大牟田市

6月25日福岡県大牟田市へ、会派の仲間と視察に行ってきました。午前中は、大牟田市が取組む空き家を活用した地域包括ケアシステムの推進について。午後は、地域認知症ケアコミュニティ推進事業について。

空き家を活用した地域包括ケアシステムの推進

大牟田市は「三池炭鉱」で栄えた街。昭和35年に20万人以上まで上昇した人口はピークを迎え、現在はおよそ12万人。例外なく人口減少の影響を受け、空き家ストックの活用方法が課題になっています。大牟田市の場合は、空き家を住宅の分野に留めるのではなく、地域包括ケアシステムという福祉分野の中に位置づけているのが特徴です。担当する福祉分野の職員の方も、住宅関係の部署に異動し、経験を積み、もう一度福祉に戻ったりしているそうです。

地域包括ケアの中で、「すまい」と「すまい方」について整理が行われています。「高齢者が尊厳を保ちながら、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる」ことを目的とし、ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とし、医療、介護、予防など福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが、日常生活の場で適切に提供されるような体制を整えようとされています。生活の基盤は「すまい」であり、住宅確保要配慮者などが安心して住宅を確保できる支援の仕組み構築が目指されています。

これまでの取組では、まず市内の空き家の分析が行われました。一言に「空き家」と言っても、再利用可能な住宅から倒壊寸前で危険なものまで様々な事情があります。まず1次調査として、民生委員の方々の力を借りることになります。各地域の民生委員さんは地域のことをよくご存知です。地区ごとに依頼し、空き家をマッピングしてもらいました。その結果、市内におよそ3,000軒の空き家があることが判明します。2次調査では地元の有明高専建築学科の協力で、全戸の老朽度調査が行われました。老朽度調査では、「Aランク:そのまま使用可能」、「B:若干の修繕が必要」、「C:かなりの修繕費がかかる」、「D:損傷が著しく倒壊の危険あり」という4つの分類が行われます。その結果、約1,000軒の住宅が活用可能だと判明します。

こうした空き家の所有者を把握し、小規模多機能サービス拠点や、交流サロン、グループリビング、母子生活支援施設などとして活用していこうと、空き家所有者向けの無料相談会が行われています。課題や対応策など相談会の趣旨を伝え、最終的には市の住宅情報システム「住みよかネット」に登録してもらうことが目的。現在8軒の空き家が登録されています。

こうした取組を支えているのが、「大牟田市居住支援協議会」です。協議会が家主と、住宅確保要配慮者の仲介を行っています。協議会では、「居住支援関係団体」として介護サービス事業者、認知症サポートチーム(医療)、介護支援専門員、障害者自立支援、社会福祉士、社会福祉協議会、司法書士会といった分野の団体が、「不動産関係団体」として宅地建物取引業協会、不動産ネット協同組合が、そして「行政関係」として長寿社会推進課、地域包括支援センター、福祉課(障害福祉)、児童家庭課(児童福祉)、建築住宅課(住まい)の、3分野の関係団体が協働・連携を行っています。鍵となっているのが、事務局を務める大牟田市社会福祉協議会です。

単純な空き家紹介であれば、民間でも可能なものも十分あります。市場に流通している空き家や、空き室は行政の支援がなくても流通します。一方では所有者が相続や、撤去費用など何らかの理由で流通させていない物件もあります。また流通していても、連帯保証人や身元保証人がいないと、不動産仲介業者が断ってしまうこともあります。前者については上述の住みよかネットが対応していますが、後者については解決のためにNPO法人が設立されています。単身高齢者や障害者など、不動産仲介業者には断れられやすい方でも、弁護士、司法書士、税理士、建築士、社会福祉士、ファイナンシャルプランナー、精神保健福祉士、不動産仲介業、方々が協力して、住まいを確保できるよう取組まれています。

こうした居住支援協議会の取組から、「官・学・地域住民」連携による空き家活用モデルプロジェクトとして、「サロン田崎」が生まれています。活用された民家は、居住していた方が亡くなった後、その息子さんが「活用してほしい」と申し出た物件。有明高専建築科の協力の下、学生たちが床の貼替えなど改修工事を行い、2015年1月24日にオープンしています。NPO法人「しらかわの会」が運営し、地域の交流拠点として毎日開けられています。音楽イベントや料理教室が行われてきた他、日々集まる場所として、会議する場所として、地域の方に活用されているということでした。サロン田崎の近くには白川地区の公民館もありますが、有料であったり、無機質な空間であることから、サロン田崎のほうが人がよく集るそうです。

大牟田市

地域認知症ケアコミュニティ推進事業

近年認知症ケアについて、行政や地域、民間団体による様々なアプローチが行われてきています。大牟田市ではいち早く2001年から、大牟田市介護サービス事業者協議会の専門部会として、認知症ケアの研究会が発足し、取組が始められてきました。その当時から認知症の方がひとりの個人として尊重され、地域でくらせるよう、(1)ノーマライゼーションの視点、(2)人権の尊重、個人の尊厳、(3)人生の継続性、QOLの向上、の3つの基本理念が掲げられてきました。翌2002年には研究会と行政のパートナーシップがスタートし、認知症介護に関わる実態調査も行われています。調査によれば「地域で認知症の人を支える意識や仕組みが必要ですか?」という質問に、2661人が「思う」、512人が「思わない」と回答しています。この結果を受け、地域づくりの提言、活動の基盤づくりが始まります。地域の基盤づくりの基礎的なエリアとなるのは、小学校区です。

大牟田市には現在21の小学校区があります(2012年度末に2つの学校が統合し学区減少)。これまで介護予防拠点としての地域交流拠点がほぼ小学校区毎に24か所、小規模多機能型居宅介護が43か所整備され、その内両者を兼ねる併設施設は20か所となっています。小規模多機能と交流拠点を併設することで、要介護者のみが集まる場所ではなく、地域住民同士の交流が行われる場所にしようという考えです。

大牟田市の認知症ケアの取組で特徴的なのは、地域ぐるみで認知症のネットワークを構築していることです。大牟田市の地域包括ケア実現の考え方の中には、「認知症の人を支えるまちづくりを軸にした地域包括ケアの推進」ということが位置づけられています。認知症をきっかけにした地域協働、官民協働が大牟田市の強みであり、認知症の人が住みやすい地域は、誰もがすみやすい地域であるとされています。「ほっと安心(徘徊)ネットワーク」では、見守る地域の意識を高めるための理解促進の取組や、声掛け、見守り、保護のための実効性の高いしくみづくりなどが取組まれ、「安心して徘徊できる町」が目指されています。そのために、警察と大牟田市長寿社会推進課、生活支援ネットワーク(介護関係団体、地域包括支援センター、民生委員・児童委員、社会福祉協議会、薬剤師会)と地域支援ネットワーク(町内公民館長・福祉委員、校区社協、老人クラブ、商店、学校、PTA、交番など)とが連携して家族からの捜索願に対応する仕組みが構築されてきました。

また地域で支え合うために、「徘徊模擬訓練」が2004年から取組まれています。徘徊役の人が設定されたルートを歩き、実際の指示系統に従って情報が伝達され、捜索・声掛け訓練が行われ、最後は報告会、反省会が開催されるものです。この訓練に向けては、(1)校区実行委員会の設立、(2)認知症サポーター養成講座の開催、(3)全体連絡会議の開催、(4)広報活動、が行われています。サポーター要請講座はこれまで18校区で34回開催され、730名のサポーターが要請されています。2007年度の第1回目の訓練では参加者が453名だったものが、2014年度では3,083名に、徘徊役に声をかけた人は97名から1,506名に、参加校区は7校区から21校区にと、訓練を重ねる毎に参加が増えています。

大牟田市ではこうした取組を通じて、今後「校区まちづくり協議会」を各校区につくる予定で、現在15校区で設立されています。今回の視察でお話を伺う中で、横浜とは違うなと感じたのは「自治会」が担い手としてあまり登場しないことです。大牟田市では自治会組織として「公民館」が機能していますが、加入率が40%にまで低下していることがその背景にあるようです。その代わりに重要な役割を担っているのが、民生委員さんでした。今後は校区まちづくり協議会が全校区で展開され、更に各校区に15か所程度の拠点を設ける計画もあるようでした。人口を考えると、およそ1〜2名の民生委員さんにつき1か所拠点があるようなイメージになります。高齢化が進み、認知症が地域で課題になる中で、「徘徊=ノー」ではなく、「安心して徘徊できる町」を目指すことで、まちづくりの考え方やコミュニティのあり方が根本から変容していこうとしているのが、大牟田市の特徴でした。

大牟田市

Post comment