高齢者は引っ越しできない?民間事業者と高齢者をつなぐ福岡市の取組。

2015-06-28 00:26:56 | カテゴリ:活動報告


住まいサポートふくおか

6月26日には福岡市役所にて、「高齢者住まい・生活支援モデル事業」(住まいサポートふくおか)についての視察を行いました。福岡市においても大牟田市同様、保証人や緊急連絡先を確保できない高齢者が、住まいを確保できないという課題に直面してきました。

高齢者の住みかえ需要と、民間事業者のミスマッチ

高齢化と高齢者の単独世帯が増加していく中、「夫が他界し収入が減り、安い部屋に転居したい」とか、「足腰が弱くなってきたから、低い階層の部屋に転居したい」というニーズが高まる一方、民間の賃貸住宅事業者へのアンケート結果で26.2%の事業者が、「高齢者だけで住む世帯(単身者、夫婦世帯)」の入居を断る場合があることが判明します。同アンケートでは「ホームレス(自立支援施設退所者等)」が32.6%で1位。3位が24.0%の「生活保護受給世帯」で、高齢者は2位という結果でした。また連帯保証人がいない高齢者の入居を断る理由として「金銭的な保証及び緊急時の連絡先(緊急時の対応)がともに得られないため」という回答が67.1%にのぼっていました。

その一方、福岡市の住宅総数854,000戸に対して、空き家は104,500戸で、空き家率は12.2%となっています。福岡市の住宅の特徴としては、共同住宅率が77.6%(全国平均42.2%)、借家率が61.0%(同35.5%)、単身世帯率は47.7%(同32.4%)、バリアフリー化率は45.1%(同50.9%)となっています。世帯の推移に関する将来推計では、2020年に単独世帯率が50.4%と半数を超え、2040年には57.2%まで上昇するとされています。

住まいサポートふくおか

高齢者住まい・生活支援モデル事業

こうしたなか構築されてきたのが、高齢者住まい・生活支援モデル事業です。住まい支援事業では、緊急連絡先や保証人を確保できない高齢者を支援するため、福岡市社会福祉協議会(市社協)をコーディネーターとして、高齢者の入居に協力する「協力店」や入居支援を行う「支援団体」による「プラットフォーム」構築が行われ、高齢者の民間賃貸住宅への円滑入居と、入居後の生活支援が提供されています。プラットフォームとは、高齢者の入居にあたり、必要とする居住支援関連の事業を実施する民間企業やNPO団体等で構築されていて、市社協や協力店と連携し、必要とされるサービスを提供することにより、高齢者の入居支援と生活支援を行っています。

事業スキームとしては、入居困難者である高齢者から相談を受けた市社協が、プラットフォームの「家賃債務保証セクター」と連携し家賃債務の保証を行い、協力店は家主に保証人補完効果の説明や、入居の説得を行い、高齢者と家主の間で賃貸借契約が結ばれる、という流れになります。

生活支援事業では、見守り、緊急時対応、死後事務委任、埋葬・納骨、権利擁護や、家事、買い物、外出、配食や、医療・介護・保健サービス等のコーディネートが提供されています。

住まいサポートふくおか

(出典 福岡市作成資料より)

事業の進捗と明らかになったこと

昨年の10月にスタートして以来5月末までで、205件の相談を受けたといいます。その内実際に賃貸借契約まで至ったのが、23件。相談件数は、具体的に困っていない方や、対象外の方からの相談も含むということで、出だしとしては好調に推移していると判断されていました。プラットフォームで提供されているサービスのうち、特に必要とされているのが、(1)見守り、(2)死後事務委任、(3)家賃債務保証の3つであることもわかってきました。この3つは保証人や緊急連絡先に期待されることでもあるので、市社協がコーディネーターとして機能することで、保証人等がいなくても、住みかえが実現する可能性が高まることが見通されています。

厚生労働省の「低所得高齢者等住まい・生活支援モデル事業」の指定を受けて行われていますが、今後はモデル期間中に実証研究を行うことで、財源や、困窮原因の追究等、課題を整理し事業手法を確立し、将来的には障害者世帯や外国人世帯、子育て世帯等の、他の住宅困窮者への事業拡大が目指されています。また協力店からの寄附によって、モデル事業終了後も永続的に事業を実施できるモデルの確立が目指されていました。

大牟田市においても、福岡市においても、高齢者が住まいを確保できないという課題を乗り越えようと、様々な取組が重ねられていました。一方市場としては、高齢化が進むことで、高齢者も重要な顧客として存在しています。高齢者は定期的に年金で収入を得られること等から、家賃の滞納も低いと言います。行政が関わることで、高齢者と民間事業者の溝を埋め、住宅確保が促進されることで、高齢者にとっても、民間事業者にとっても、win-winの関係が成立しています。ただその一方では、社会福祉協議会や民生委員さんへの負担が大きくなっている面もあります。地域においては担い手を増やしていくこと、市場においては行政が介在しなくても対応が可能になることが、期待されるなと思います。

藤崎浩太郎

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