岡山市の地域公共交通に関する取り組み、乗合タクシーの視察報告。

2019-11-09 00:27:01 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

2019年11月8日、所属している「郊外部再生・活性化特別委員会」の視察2日目は、岡山市を訪れました。岡山市では堺市と同様に、乗合タクシーによる地域交通事業に取り組んでいます。

岡山市では2018年度に「岡山市総合交通計画」が10年計画で制定され、「あらゆる人の交通環境を向上させ、人とまちを元気にする」という計画のコンセプトが掲げられています。高齢者・身体障害者をはじめ、妊婦や外国人等の交通弱者を広義に捉えて、「人中心の交通体系」を目指した計画となっています。政令指定都市のなかで第3位の自動車分担率(交通手段における自動車利用の割合)の高さ(岡山市:公共交通10%、自動車56%。横浜市:公共交通64%、自動車10%。(2010年国勢調査))が影響し、公共交通機関の利用が低く、路線バス利用者は20年で3割の減少、それに伴い運行区間は20年で24%減少と、特に人口減少の大きい周辺部で大幅な減便となってきました。そのため路線バスの減便・廃止を抑制することが岡山市の課題となってきました。また駅から800m、バス停から300m以上離れている、交通不便地域には約20万人の市民が居住し、そのうち65歳人口は約5万人と、交通不便地域における移動手段の確保も課題となってきました。

デマンド型乗合タクシーの導入

そうした課題、環境のもと、岡山市では2018年4月からデマンド型乗合タクシーの制度が導入されます。岡山市での乗合タクシー路線設置は住民発意となっていて、「新たな生活交通の導入」として、地域住民が主体となり、デマンド型乗合タクシー制度の導入を市に申し入れを行います。「地元検討組織」と呼ばれる、自治会や民生委員など、日頃から地域活動に関わる方々10〜20名くらいで構成させれる組織が形成され、ニーズの把握や運行計画の作成のほか、運行事業者の選定も地元検討組織が担い、事業者との契約も地元検討組織が行います。「地域公共交通会議」での合意を経て、国へ許可申請を行い、試験運行、本格運行と、市のサポートを受けながらも、地元検討組織が主体となってデマンド型乗合タクシーの導入を行っていきます。

主体は地元組織となりますが、もともと交通不便地域であり、デマンド型乗合タクシーの運行経費は市によって補填され、赤字が前提となっています。1年〜1年半の期間試験運行が行われますが、この試験運行期間中は赤字部分は100%市が負担します。一方本格運行開始後は、市の負担は90%で、残りの10%は地元組織が負担します。これはコストの分担というよりも、地元組織に経営意識を持ってもらうことが狙いであり、より多くの方が1度に利用してもらったり、過剰に1人きりで利用することを防ぐことなどが目的とされています。この10%の負担金は、地元組織が集める協賛金から支払われています。この協賛金は、スーパーや銀行、病院などから、1口5,000〜10,000円などで、地域が集めていて、停留所を商業施設等に設置することで得ていたり、チラシに広告を入れることで得ています。現在は3地区で本格運行が行われていて、1地区あたりの市の負担は年100万円〜300万円程度となっています。支払いの仕組みとしては、運行経費の支払いは地元組織が運行事業者に行い、補助金は市が地元組織に出すという形になっています。

市費負担

デマンド型ですので、堺市同様に、電話で予約があった場合のみ配車が行われます。各地区、1日に4便から10便のダイヤが組まれています。運行経費は1台あたり2,600円と設定されています。利用者の支払いは、3地区それぞれ異なっていて、千種地区「モモタク」は300円均一、馬屋上・野谷地区「あいタク」は500円均一、追川分校学区「ブンタク」は500円均一が基本となり、区域外利用での別料金や6歳未満無料などの割引サービスもそれぞれ設定されています。一番小さい地区は稼働率が20%程度で、年間約70万円の補助を市が行っていて、1便あたりの赤字は2,000円程度と見込まれていました。高齢者の利用が多く、平均すると1台あたり2.2人程度が乗車しているという状況です。

堺市同様に赤字を前提とした制度となっていますが、御津・建部地区で運行されているコミュニティバスが、年5,000万円の予算を投じ、空車でも運行していることを考えると、費用面でも、効率面でも乗合タクシーの方が優れていると考えていらっしゃいました。また、市長も交通不便地域への行政支援に積極的で、今後も実施地区が増える予定であり、郊外部における交通不便地域の解消により市民の不満は減少してきていると仰っていました。今後の課題としては、利用者が増えていることによって、地元組織が負担する10%の金額が大きくなっているので、「10%」の負担がきつくなっていくことが示され、この負担割合の見直しが課題になるかもしれないと指摘されていました。

まとめ

堺市と岡山市と、2つの「乗合タクシー」を視察して、手段としては両者同じであるものの、基本となるコンセプトが異なることで、こんなにもあり方が違うのかと、収穫の多い視察となりました。堺市は行政主導で、面としての空白地域をバスの代わりに乗合タクシーで埋めていくやりかた。岡山市は、同様に空白地域でありながらも、住民が主体的に組織を立ち上げて、契約までも行いつつ、費用負担も一部担うという方法というやり方。いずれにせよ、民間のバス事業者などでは採算が合わずに運行できない場所に、市費で赤字部分の補填を行い、交通利便性を確保しようという考え方は同じでした。横浜市の行っている「地域交通サポート事業」は収益性が重視され、採算が合わなければ路線ができない、もしくは採算割れすれば撤退する、ということが生じます。横浜市も今後高齢化が進展していくなかで、多様な市域のそれぞれの地域事情に応じた地域交通支援の選択肢を幅広く用意し、活用できるようにしていくことが重要だと考えます。

藤崎浩太郎

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