地域交通の充実に向けて、堺市の乗合タクシー視察。

2019-11-08 14:28:52 | カテゴリ:活動報告


堺市乗合タクシー

2019年11月7日、所属している「郊外部再生・活性化特別委員会」の視察で、大阪府堺市を訪れました。今年度の特別委員会は「郊外部を活性化させる持続可能な地域交通について」をテーマとし、今回の視察では「堺市乗合タクシー運行事業」について、調査を行いました。

デマンド型乗合タクシー

堺市では2012年6月に「堺市地域公共交通会議」を設置し、乗合タクシー事業についての検討が開始されます。2014年には大阪第一交通株式会社との実証運行が開始され、2015年12月には総合評価一般競争入札を経て大阪第一交通㈱と本格運行業務の契約を締結し、2016年4月から本格運行がスタート。現在市内9ルートで、乗合タクシーが運行されています。

システムはデマンド型となっています。路線バスと同様に、運行ルートや停留所、ダイヤが設定されていますが、利用者からの予約があった場合のみ、乗り合いタクシーが配車・運行されます。車両は一般のセダン型のタクシー車両で、乗客定員は4名。全日運行されていて、概ね8時から18時くらいの間に、5便ダイヤが設定されています。運賃は大人300円(子供150円)、おでかけ応援カード提示で100円、障害者150円(子供80円)となっています。予約は乗車1週間前から2時間前まで可能で、タクシー事業者の既存の予約システムを利用していて、電話で予約をする方法となっています。

堺市の乗合タクシー事業は、「公共交通空白地域における移動手段の確保」が目的とされています。市内の鉄道駅から800m圏、バス停から300m圏という範囲から外れていている、空白地域が運行ルートとなっています。そのため、そもそもの課題として採算がとれないような路線である、というところから制度設計がなされ、その部分が徹底されていました。

利用実態

利用者数及び、1台あたりの平均乗車人数は緩やかに伸びていて、2016年度の本格運行開始時が1台平均1.6人、16,201人の利用だったものに対し、2018年度は平均1.8人、23,647人の利用まで伸びています。利用者の区分としては、65歳以上である「おでかけ応援カード」提示者が81.6%と多数を占めていて、大人11.9%、子供1.3%、未就学児2.4%、障害者2.8%となっています(2018年度実績)。ルートによって利用状況は異なっていて、最も利用の多いGルートでは、2018年度は7,799人の利用、配車率87.5%であったのに対して、最も少ないDルートでは1,077人の利用、配車率18.5%となっています。駅からの距離など、ルートの特性によって利用状況が変わる部分もあるようで、またGルートはバスが入れないような狭い道の多い地域で、乗合タクシーによって公共交通の需要が開拓された場所でもありました。

公共交通における重要なポイントの1つが、市費負担です。タクシー1台配車にかかる運行経費は2,750円となっています。利用者の支払う運賃と、2,750円の運行経費との差額が市の費用負担で、事業者に支払われます(例:利用者が大人2名で600円の場合、2,150円が事業者に市費から支払われる)。2018年度の運行経費が36,142,200円で、運賃収入が2,923,230円であり、その差額33,218,970円が市費負担となっています。収支率は8.1%。利用者一人当たりにかかる市の費用負担は、1,405円となっています。

市費負担の考え方と方向性

お話を伺っていると、どうしても採算性をどう捉えているのかに関心がいきました。横浜市が実施している「地域交通サポート事業」は、事業の採算性が重視され、サポート事業で生み出された路線を維持するために、住民同士で利用促進の取り組みが行われたりしています。一方で堺市の場合は、そもそもが空白地域という利用者が低く、採算が合わない地域での路線設定というところから、事業が生み出されています。そのため、乗車人数が多くないことが前提であり、市費負担が生じることが当然のものとして取り組まれていました。以前は年間1億円程度の予算でコミュニティバスを運行した時期があったようですが、コミュニティバスを全廃し、乗合タクシーに移行しているため、予算的にはコミュニティバスより低く抑えられている状況でした。

「利用促進」ということも無く、制度の周知を行ってはいても、積極的に乗ってもらおうというものでもない、という考え方でした。便数の設定は、2時間に1本程度となっていますが、これも路線バスと比較した時に、便数が少ない地域だと1〜2時間に1本ということもあるので、乗合タクシーの便数もその程度とされています。どんどん乗ってもらうための乗合タクシー路線という位置づけではなく、乗合タクシーがあることでその地域に住み続けられるようにしたい、という位置づけになっています。今後利用がある程度伸びて予算が増えても、コミュニティバスの時の予算1億円の半分くらいであれば良いと考えていらっしゃいました。

路線の設定においては、どの路線も駅との接続がなされています。様々な都市で地域交通の取り組みがありますが、駅との接続がないケースもあり、利用者の利便性に課題が指摘されることもあります。堺市においては、全ての路線が駅に接続されています。これは、交通施策として、乗合タクシーを利用することで、他の公共交通機関に乗り継いで、市内外へ移動できる交通体系を作ろうと考えたことが発端であり、逆に言えば駅に行かないという選択肢は、そもそも無かったということでした。

予約システムに、スマホアプリなどを用いることについても質問をしましたが、現在は第一交通が通常業務の一環で受付をしているため、追加の費用が発生していないことや、利用者が高齢者中心であることもあり、アプリの導入がコスト削減につながるか分からないとのことでした。今後、タクシーの配車アプリとの組み合わせはあり得るかもしれないとのことでした。市費負担の一人あたり1,405円を見ると、普通にタクシー利用をした方が安く済むのではないかも質問したところ、距離など条件もあるものの、通常のタクシー運賃として支払うよりも安く抑えられているということでした。こうした料金で運行できるのも、あまりタクシーが稼働しない昼の時間にのみダイヤを組んでいるので、お客さんを乗せずに待機しているよりも、市と提携することで安価でもビジネスにしようという考え方があってのものでした。

藤崎浩太郎

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