2021年12月6日、横浜市内でひきこもり当事者や経験者が集う会を主催している当事者団体「C」の代表Aさんと、運営メンバーのBさんに事務所にお越しいただいて、団体の活動や、活動を通じて感じる当事者や制度の課題についてお話を伺いました。これまで私は横浜市会において、ひきこもり支援についての質疑、提案をこども青少年局に行なったり、他都市のひきこもり支援の団体・活動の視察を行なってきましたが、当事者団体の、当事者の方から直接お話を伺う機会はなかなかありませんので、今回いい学びとなりました。
(※団体名、個人名は事情により匿名にしています。)
安心できる居場所の必要性
団体「C」の特徴として挙げられたのは、「何らかの支援につなげない」ことでした。一般的には、ひきこもり支援といえば、就労や社会参加につなげていくためのステップを様々用意しているという形態をとります。しかし団体「C」では、ただ集まり、話をしたり、時にはそれぞれ読書をするだけの会があったりしながら、その「場」での交流を通じて、結果的に元気になっていく人が多いといいます。似た環境にあるひきこもり当事者が同士が、互いにプレッシャーを与えることも感じることもない、安心できる環境があり、その会場まで外出する機会、その場で人と話す機会が、本人を回復させていくということです。定期的にいくつかの会場で当事者会を開催していて、参加頻度は人それぞれですが、「参加しよう」と自分で決めて一歩踏み出していくことが、当事者にとって大事なことだといいます。
当事者といっても、年齢もひきこもりの年月も理由も人それぞれです。中には、就労につながるための組織・窓口を利用したものの、その環境がプレッシャーになってしまうこともあるそうです。支援団体につながっても、その団体の人から叱咤激励されてしまったり、精神科医からも「10年も引きこもっていたのだからがんばらないと」と説教されてしまったりすることもあり、そうしたことが当事者にとっては強いプレッシャーに感じてしまい、足を運べなくなってしまうといいます。
当事者本人も、それぞれが自分の置かれた環境を理解していて、それをどうにかしようと一歩踏み出しても、行った先でプレッシャーを与えられると、自己否定につながってしまい、社会との接点を結果として失いかねません。
就労支援も、就労をしたいと明確に思っているひとにとっては良いものの、就労支援が強化されればされるほど、追い込まれて自殺を選択する人が増えてしまうのではないかと懸念されていました。これまでのご経験として、働く意志をもって就労が実現しても、労働環境が悪いと「適応することができなかった」と自己否定につながってしまったり、一生懸命勉強して資格を取得して就労しても、理不尽に「君の人間性に問題がある」といったことを言われてしまい、安定的に働くことができなくなってしまった、というお話もありました。就労ばかりが目標とされれば、就労できない自分、就労しても継続できない自分が、「価値のない存在」と自己否定になってしまい、将来を描けなくなってしまうという懸念です。
そうした懸念、課題の反対側にいるのが、団体「C」のあり方です。2時間程度の開催時間でも、参加者が少なければ早く終わることもあり、年に1度の参加の人も、就職したけれど団体「C」の集まりにたまに来る人もいるそうです。ただそこに安心して居られる場所があること。話を伺って感じたのは、「何も役割のない」場所であり、それは友達との時間と似ているということです。幼馴染とか、高校、大学の同級生との付き合いは、何か求められることもなく、何か求めることもなく、ただたまに集まって、顔を見て、悩みを話したり、楽しかった話をしたり、励まされたり、でも説教されることもなく、むやみに頑張れと言われることもないような、ただ自分が素の自分で居られる関係だったりするなと思います。
必要とされる「安心できる居場所」と継続の難しさ
当事者団体は、都内や横浜市内、神奈川県内にいくつかあるものの、もっと多くの、もっと多様な当事者会があると良いのではないかというのが、AさんとBさんのご意見でした。団体「C」はAさんを代表に何名かの運営メンバーで運営されていますが、運営する人たちの色が出るので、多様な当事者がいるように、多様な色の当事者会があったほうが、当事者それぞれに合った場所を見つけられるようになるのではないかということです。
一方で、当事者会の継続は難しく、立ち上がっても短期間で終わることも多く、全国で出来ては無くなりを繰り返しているそうです。課題の1つは、リーダーシップを発揮する人がほとんど居ないという課題です。当事者は沢山いても、自ら当事者会を立ち上げようとする人が居ないというのが、当事者会が増えない理由です。
課題のもう1つは金銭面の課題です。ひきこもり当事者はほとんど自由なお金を持っていません。「ひきこもれるくらい、家にお金がある」と誤解されることもあるようですが、実際は、家にお金があっても本人がそれをもらえるとも限りませんし、当事者自身が「親に負担をかけたくない」と、自身の生活を切り詰めていることが多いそうです。当事者会を開くにも、会場費がかかったり、会場へ行くための交通費がかかったりします。団体「C」が会を開いて、参加者から数百円の参加費をもらうことがあっても、その数百円が出せなくて参加できない、という方もいらっしゃいます。立ち上げた代表者も当事者で、自分の生活を作っていくために働いて、仕事が忙しくなれば会に関わる時間が確保できなくなり、代表や運営を担える人材が少ないため、引き継いで継続することが難しくなってしまいます。
神奈川県の場合「神奈川県立青少年センター」を無料で使えるのは非常にありがたいそうですが、桜木町まで簡単に行ける人ばかりではありません。色んな場所で開催するために、公共施設を借りようとしてもほとんどの場合有料です。当事者会の特性として、当事者自体が住んでいる地域から離れた場所に参加したいというニーズがあります(近所の人、同級生等に出会いたくない、知られたくない)。そのため、公共施設を利用する際の利用登録で、その自治体の住民が5名必要だとか、参加者が住民かどうかなどが問われると、そもそも公共施設を利用することも困難になる、という課題もあります。
当事者会の将来像
団体「C」さんとしては、今後独自の拠点を設けたいという将来像を描いていらっしゃいます。空き家など、無償もしくは低廉な家賃で場所を提供してもらい、光熱水費等を支払える収益を生みだせるくらいになりたいという目標です。こうした将来像を描くことができる人も少ないのかもしれません。当事者であり、当事者団体を立ち上げ運営しているAさん、Bさん達が、当事者会、当事者同士の支援の輪を広げていく役割を今後担ってもらいたいですし、そのために応援をしたいと思います。
お二人からは、役所、市政の課題や、期待も伺いました。その1つは、行政の窓口にひきこもり当事者・経験者が居るとありがたい、という課題です。ひきこもり当事者への理解が社会的にまだまだ浸透していないこともあり、役所の窓口でも理解無い対応で苦しむ当事者の方がいます。せっかく窓口まで足を運べても、職員の対応で必要な支援につながらなくなってしまっては困りますので、重要な課題の指摘だと思います。また、「青少年相談センター(ひきこもり地域支援センター)」のマンパワーを心配する意見もありました。場所も阪東橋に1ヶ所と限られ、職員さんは良い方が多いが、利用者が増えればセンターが回らなくなってしまうのではないかと懸念されていました。こうした課題は、今後の課題として当局と共有し、より良い体制づくりに取り組みたいと思います。
※参考情報:
NHKの「#こもりびと」という特集サイトが、充実した情報発信をしています。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/hikikomori/
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