行政の配布する資料は見づらい。分かりづらい。そういった感想をよく伺います。限られた予算の中で、できるだけ多くの情報を提供しようとすると、どうしても詰め込みすぎたり、字が小さかったり、どこを読めばいいのか分からなかったりしてしまう傾向があります。とはいえ、その情報は誰のための情報なのか、という視点が重要です。情報は発信することが重要なのではなく、受け取って理解してもらうことが何より重要です。
アンケート調査のデザイン
今年から健康福祉局を所管する常任委員会に所属しています。昨日は委員会が開催され、その中で当局の報告事項として、「障害者の外出支援制度見直し案」に関する市民意見募集についての報告が行われました。内容は、これまで無料であった福祉パスを有料化する一方、ガイドヘルプ・ガイドボランティアの対象者や範囲の拡充などが行われる予定のものです。障害者手帳所持者のうち、1万人を無作為抽出しダイレクトメールとして送付し、ハガキでアンケートに回答してもらうという方法です。
こちらのリンク先(PDF)をご覧いただくと一目瞭然ですが、分かりづらい。ネット上ではカラーですが、印刷物は白黒のため余計に分かりづらくなってしまっています。アンケートの回答項目も、理解できるとか理解できないとかで、賛否を問うものでもなく、意見は自由にかけるといっても、ハガキには面積に限りがある。ホームページを見ると、メールでの回答も可能になっているものの、アンケート用紙にはその案内がない。
これは、①アンケート回答対象者が内容を理解しづらい、②回答者の意思を正確に伝えられない、という2点の問題を抱えています。今回のケースは、回答者は受益者です。これまでと、これからに、どんな変化があって、自分たちにどんな影響があるのかを、横浜市としては十分に理解してもらうための資料です。そして、郵送されて独り歩きする資料です。担当者から直接渡されて、説明を受けるわけではないのです。誰が読んでも理解できるようなデザインが必要です。職員の方が制作したということで、その努力を否定するつもりはありませんが、餅は餅屋です。デザインにはデザイナーがいますし、そのためのソフトもあるわけです。(横浜市がイラストレーターを購入すればいい、ということでは勿論ありません。)
こういう事を言う場合、費用はどうするのかということになります。この予算の考え方も、考えようです。例えば横浜市では、生活保護受給過程の中学3年生に、高校進学率を向上させるための学習支援事業を行い、対象生徒の高校進学率100%を達成しましたが、担い手は横浜国立大学の学生ボランティアでした。また、横浜市の予算や財政状況を分かりやすく伝えるために制作されている「ハマの台所事情」は、市内の専門学校生と共同で作られていたりします。全ての行政文書をデザイナーにデザインしてもらうことは難しいですし、その必要性がない資料もあります。とはいえ、市民から幅広く意見を求めるための資料くらいは、ボランティアなど協力を求めて、分かりやすいデザインにしてもらいたいところです。
広報のデザイン
横浜市の情報が十分に伝えられるかどうか、のメインステージは広報事業です。毎月発行され戸別に配布される「広報よこはま」がその中心といえます。インターネットももちろん重要ですが、投じられる費用、配布のために動く人の数など、広報誌の配布には大きなコストが投じられています。横浜市の広報事業の問題は過去のブログにも記載しましたが、この広報よこはまの満足度が低い。また、折角配布していても「横浜市の現状がよく分からない」という声もよく耳にします。それもそのはずで、広報誌に記載されているほとんどの情報が「今月どんなイベントがあるか」です。予算決定直後は、予算の概要が広報されますが、細かいことは各局のホームページなどを見ないとなかなか分かりません。また、議会での議論も「議会だより」が配布されますが、決まったことが知らされるだけです。
今横浜市や各区において、何が課題であり、どんな議論が行われているのか。政策の決定プロセスが、なかなか市民には見えないのが現状です。政策決定過程が明示され、様々なデータや見解が市民に共有され、意見を表明する場が様々用意され、政策に市民意見が反映される、というプロセスがあることが理想的です。これを全て印刷物を配布することで行うことは困難ですが、やりようはあると思います。インターネットの活用しかり、紙面の見直ししかり、広報の考え方の見直しとそれに伴う広報行政の見直ししかりです。
人口減少、市場規模の縮小に伴い、市内外への情報発信の在り方が変わり始めています。より多くの観光客に来てもらい、市内での消費を増やすこと。居住地として横浜市を選んでもらい、市民税収入を増やすこと。横浜市に事業所を開設してもらい、法人市民税収入を増やすこと。いわゆる「シティプロモーション」です。今住んでる人には、地域への郷土愛を強めてもらう。市外の方には、住みたくなる、訪れたくなる情報を発信する。単なるイベント告知としての広報ではなく、関心をひき、地域への参加を促せる広報。市外へ向けて横浜ブランドを高められる、戦略的なPR活動。お願いして、お金を払って取り上げてもらうプロモーションではなく、取材したくなる、話題にしたくなるような今横浜市にも必要だと考えます。
流通のデザイン
広報の取組みとしては、平塚市が「広報ひらつか」を電子書籍版としてEPUB形式での発行を行っています。ホームページからダウンロードできるほか、iTunesからもダウンロードできます。これは、広報誌の流通デザインの改革です。広報よこはまは、自治会などを通じて戸別配布しているとはいえ、配布率は80%強と100%には達していません。これ以上配布しようとするには、相応のコストもかかります。広報誌の配布をやめて、全部電子書籍化をしろ、という話ではありません。電子化によって、配布のコストが大幅に低減し、配布のありかた、情報の伝え方を変えることができます。
現状でも、ホームページを見れば、広報誌のPDF版も、HTML化された本文も見ることができます。とはいえ、テキスト配信されていたメルマガをEPUB形式で電子書籍としても見れるようになっている昨今、同じ内容でも電子書籍の見やすさは特筆すべきものがあります。また、見やすさだけでなく、配信の頻度や、配信内容も簡単に変えることができます。例えば子育て世帯向けの内容に特化し、紙幅の都合上記載でいなかった内容を配信できるようにしたり、動画や写真を使ってより伝わりやすい内容にしたりすることが可能になります。電子書籍を利用するターゲットに合わせて、柔軟に発信ができるのです。
ただこういった取組みをしても、認知してもらい、利用してもらわないと意味がありません。電子化の情報を、結局は既存の広報誌で伝える、みたいなことだけでなく、ソーシャルメディアの活用や、全く新しい先進的な取組として構築し、マスメディアにも取り上げられるようにするなど、戦略的な広報、PR活動が必要です。そして何より、情報の発信者の視点だけではなく、情報の受け手の視点、情報を利用する側の視点に立って、デザインすること。横浜市が発信する情報を欲しい、と思ってもらえるようにすることが重要だと考えます。
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