10月26日は「市民・文化観光・消防委員会」の視察2日目。午前中は福岡地域戦略推進協議会にお邪魔して、取組を伺ってきました。
東アジアのビジネスハブ
福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.)は、「福岡の新しい将来像を描き、地域の国際競争力を強化するために、地域の成長戦略の策定から推進までを一貫して行う、産学官民一体のシンク&ドゥタンク」とされ、福岡を「福岡都市圏」という視点から捉え、東アジアのビジネスハブとして、国際競争力のある持続可能な地域を目指し、事業を行っています。都市圏としての福岡を中心に考えると、半径1,000kmの範囲内に、東京、ソウル、北京、上海、台北といった東アジアの主要都市が含まれ、およそ1億人の人口を抱える圏域となります。こうした立地を活かして、先駆的な地域成長モデルを確立し、世界で活躍し、貢献できる都市を目指しています。
そうした中で、福岡地域戦略推進協議会(FDC)は、福岡都市圏の成長戦略を、策定から推進まで一貫して行う「Think & Do Tank」として、国際競争力を強化し福岡都市圏の持続的な成長を実現することを目的に設立されています。2011年4月に設立された任意団体となっていて、企業から約2,000万、自治体から約4,000万、その他自主財源が約2,000万円という予算の中で、20名のスタッフで運営されています。正会員には企業や自治体など92の団体が加盟、特別会員には九州経済連合会、福岡経済同友会など7団体、賛助会員にも企業や自治体が名を連ね、133の会員からなる組織です。会長には九州経済連合会会長が、幹事長には麻生セメント株式会社の取締役財務部長が名を連ねて、顧問には福岡財務支局局長や九州地方整備局局長、福岡県知事、福岡市議会議長など、行政、議会が名を連ねています。具体的な事業は、幹事の下に事務局がおかれ、事務局長をトップに、デイレクター、マネージャー、アソシエイト、シニアフェロー、フェロー、キュレーターという役職の方が、22名いらっしゃいます。組織の構成を見ると、九州、福岡の経済界がしっかりとバックアップしていることがよく分かります。
FDC設立の前、国際ベンチマーク協議会(IRBC)という、福岡のほかバンクーバー、シアトル、ヘルシンキ、ミュンヘン、ストックホルム、ダブリン、バルセロナ、メルボルン、デジョンというイノベーション都市が加盟する国際的ネットワークに参加していて、2010年に産学官の実行委員会によってIRBCの年次総会が福岡で開催されます。この年次総会の開催が契機になり、福岡の国際競争力強化のためには都市圏での産学官連携が重要だという認識が醸成され、2011年のFDC設立の流れができてきたと言います。
プラットフォームとしてのFDC
FDCの役割として、産・学・官・民が一体となり、質の高い成長を実現するために、様々な取組を行う「プラットフォーム」である、という位置づけがあります。会員が戦略を実行する当事者であり、域外の知恵や資本を積極的に誘致・投入し、民間活力の投入と公共政策の担保を連動させ、市民力を成長の源泉に位置づけていくことを、基本姿勢としています。福岡市とFDCが共同で提案した「グローバルスタートアップ国家戦略特区」は、2014年3月に国家戦略特区に指定され、産学官連携の取組は国とも連動させた動きとなっています。また「まち・ひと・しごと創生基本方針」でFDCが事例で取り上げられるなど、国から注目されている取組ともなっています。
まだまだ課題とはなっているようですが、こうしたプラットフォームとしての考え方として、世界から多様な人材を集めることが目指されています。シンガポールなどでも、都市の発展のために、世界から優秀な人材が集積することの重要性が認識され、そのための取組が行われていますが、都市圏として成長を維持するには、人材が重要だというのは、世界的な認識になっています。また、会員は責任を持ってFDCに参画し、協働することが求められ、FDCのスタッフはそうした地域の会員のリーダーのもとで、戦略策定から実施までを担える、実務専門家(プロフェッショナル)の集団として体制が築かれています。行政組織ではないものの、行政の政策とは無関係ではいられないので、福岡市のマスタープラン、都市経営の基本戦略と、FDCの描く福岡都市圏の成長戦略は、密接に連動し、FDCの戦略が市のマスタープランに位置づけられています。
FDCの事務局長の石丸修平氏は、経済産業省で務めた後、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に参画し、その後FDCに転じたという経歴の持ち主。FDCで地域戦略を検討するにあたっても、SWOT分析やベンチマーク等を用いて徹底した「地域診断」が行われます。診断によって福岡の強みや弱み、機会や脅威が分析され、「アジアの成長と共にビジネス拠点として成長」することを前提とした、戦略が策定されていきます。
観光MICEを中心にした事業化推進
今回の視察の主なテーマは、観光・MICE(MICEとは、多くの集客交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称)。横浜市の文化観光局を所管する委員会の視察であり、横浜市の観光MICEは文化観光局が担当しています。FDCの事業はMICEを軸に、中小企業振興、資金調達、ウォーターフロント、高等教育、グローバル研究開発など16の戦略テーマを据え、観光MICEを始め、人材・イノベーション、食・フードエキスポ、都市再生・都心、スマートシティ・モビリティ、という5つの部会で事業を推進しています。
事業化の基本的な流れは、部会でプロジェクトの検討、決定が行われ、コンソーシアムにおいてフィージビリティスタディ(実現可能性調査)を行います。部会やコンソーシアムには、会員が自主的に参画し、開かれた検討が行われています。最終的に事業体を構築し自立的な組織により、事業運営を行っていきます。こうした流れによって、幾つもの事業を並行して立ち上げていくことになります。FDCは案件を生み出し、事業として自立させたら手を離し、次のプロジェクトに移行していきます。
こうした流れのなかでFDCの役割は、コンソーシアムや事業体はFDC会員が実施主体になって推進するので、事務局として支援することになります。事業化のプロセスには、(1)官と民をつないで案件形成、(2)官による案件支援、(3)民が中心となった案件経営、という(1)から(3)への流れがあり、FDCは(1)と(3)に関わります((2)は公平性の観点から非関与)。
観光部会では、MICEの誘致受入・企画をワンストップで行う国内初の組織「Meeting Place Fukuoka(MPF)」が、2014年4月に設立されています。これは様々な引き合い、相談があった際に、従来は別々の窓口で対応せざるを得ず、特に海外からの引き合いについては弊害が大きかったため、MPFを設立することで、スムーズな対応を可能にしています。MPFも部会での検討から始まり、コンソーシアムを経て、自立した組織として立ち上げられています。既に設立時の目標を超える、MICE誘致実績を上げていると言います。
その他の部会で特徴的だったのは、人材部会から生まれた「イノベーション・スタジオ福岡」です。市民や企業など多様なバックグラウンドを持つ人材が集まり、アイディアのプロトタイピングと現場でのテストを繰り返し、アイディアの精度を高めながら、新しいビジネスを生み出そうというプログラムです。この取組を行う意図は、活動を可視化することで注目度を高め、優れた人材を福岡に集めようというものです。また都市再生部会では、街づくりに取り組みながら、そのノウハウを域外輸出して、産業化しようという目標が立てられています。そのために、水辺の活用など、イノベーション経済のエンジンとなる都心を段階的につくる行動を起こすことが戦略とされています。都市における施策のノウハウを、域外で販売しようという考えは、以前シンガポール視察でも得られた知見です。
FDCのMICE戦略のゴール設定は、2020年に東アジアのビジネスハブとして、域内総生産(GRP)を2.8兆円増加させること、雇用を6万人創出すること、人口を7万人増加させること、とされています。MICE開催における経済効果は、5.4万円/人とされています。福岡経済の89.4%は第3次産業であるため、域外のヒト・モノ・カネを呼び込むことで、福岡都市圏の産業振興を実現していくというのが重要な要素となります。福岡は上述のようにアジアの大都市群の中心に位置するため、東京や京都などと比べて交通費が安く抑えられるというメリットがあります。また、都市がコンパクトであり物価も安い事がメリットとされています。また福岡都市圏だけでなく、九州として捉えれば、歴史や文化をもつ地域が圏内に豊富にあり、行政区域の福岡だ、大分だ、といったことは市民、旅行客には関係ないので、越境した施策にも取り組まれています。現在福岡のマリンメッセの稼働率は年80%を超え、これ以上の受け入れが難しい状況にあります。そのため年間40〜50件の引き合いを断っていて、年190億円もの経済損失となっていると分析されています。そのため、福岡への引き合いを久留米や北九州に転換することができれば、圏内としては損失にならないと考えられています。また、北海道まで飛行機で3時間程度であることを考えれば、福岡でのMICE開催でも、アフターコンベンションの誘導としては、日本全国が考えられるので、国内で圏域を分けてMICEを捉えること自体に、変化が必要ではないかという指摘がありました。
MICE戦略の具体目標として示されたのは、ICCA基準での国際会議開催件数の国際ランキングを、2012年の97位から、2022年には50位以内に向上させるという指標があります。2012年はMICE開催軒数が23件となり97位(横浜は18件で125位)でした。目標達成には、会議件数ベースで22件増、会議参加者ベースで30,000人増、直接消費額で1,000億円増、という条件が必要となっています。ベンチマーク都市は、メルボルンということで、シンガポールも調べたものの、施設やコンテンツが、とても戦えないと判断したということです。MICE都市福岡の強化ポイントとしては、医療・医学のコンベンションが世界的に件数が増えていて、福岡も医療系には強い地域でシェアを有するため、この分野に注力しているということでした。ただ、医療分野は競争も激しい状況にあります。今後はアジアや大学がキーワードとされています。というのも、福岡県内には36の大学、21の短大が立地していて、医療系、理工系学部をもつ大学との連携によるMICE誘致に注目されていました。とは言え課題もあり、大学教員・研究者の評価基準は「論文」であるため、学会を開催すること自体は教員等にとってインセンティブがありません。そこで大学と協議を始めていて、学会活動・誘致を活発にできるよう試行錯誤をされていました。
FDCの成果と課題
これまでの成果としては、(1)会員数が設立当初の36から133に増加したり、内閣府経済財政諮問会議から「地域経済再生の司令塔」と評価されるなど、協働の基盤を発展させてきたこと。(2)日本政府や海外の政府・自治体、国際機関など、域外へのワンストップ窓口を確立してきたこと。(3)部会などの取組を福岡市の政策に反映させたり、規制緩和を実現したり、MPFやウォーターフロント再整備など事業体の目論見を検討してきたこと、の3つが挙げられています。
一方課題として、事業化における活動支援、広域化のために自治体の参加促進や連携強化、任意団体から事業推進力強化に資する法人化、という事が挙げられています。質疑の中では、産学官民の内「民」との連携がこれまで疎かだったことも課題であり、地域づくりを行うNPO等との連携を模索されているという話がありました。これまで会員のハードルが高く、一般の市民が参画しづらい面もあり、市民がFDCに参画しやすい枠組みを作っていきたいとのことでした。また市民との連携のアイディアでは、自治会活動に一生懸命取組方々が認められる「評価」をする仕組みづくりができないかと言うものがありました。商店街の活性化にも取り組み始めていらっしゃいます。
印象的だったのは、「福岡には危機意識が足りない」という指摘です。正直に言えば横浜から見ると、福岡はかなり先進的に、積極的にイノベーションを起こし、グローバル経済の中で成長していこうと取組んでいるとしか言えません。しかしながら事務局長としては、他の地域が現在直面している少子高齢化などの社会環境の変化による課題は、福岡では10年後くらいに必ず来るのに、現状ではなんとかなってしまっているがゆえに、その認識が足りず、まだまだ動きが鈍い面があるようでした。横浜市も同様に、首都圏に位置し、まだ人口も増えていて、利便性も高い地域であるがゆえに、危機感が足りないと感じています。成長を目指すのであれば、そのために必要なことを、既存の枠組みを廃して、ゼロから立ち上げる覚悟で取り組んでいく必要があると考えます。
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