日本初のデータサイエンス学部。滋賀大学視察報告。

2017-07-05 10:08:10 | カテゴリ:活動報告


藤崎浩太郎

7月4日、横浜市会「政策・総務・財政委員会」の視察で、滋賀県彦根市にある、滋賀大学を訪れました。滋賀大学は「日本初」のデータサイエンス学部が、2017年4月から設置されています。横浜市においては、横浜市立大学にデータサイエンス学部が、「首都圏初」として2018年4月に設置されます。

データサイエンス教育研究拠点形成:滋賀大学の取組

データサイエンス(DS)教育は滋賀大学において、価値創造のための新たな科学と位置づけられています。ICTの技術が進歩するにつれ、センサーをはじめ、様々なビッグデータが日々多様な領域で集積されています。そうした社会環境の中で、データの分析・解析を行なう統計学としてのデータアナリシスと、大規模なデータを加工・解析するためのスキルであるデータエンジニアリングという2つのスキルを身につけ、活用することで、ビジネスや教育など様々な領域における課題を読み取り、新たな知見を得て、新たな価値を創造していこうとするものです。その役割を担うのが、「データサイエンティスト」となります。

これまで日本においては「統計学部」という専門の学部が不在でした。統計学自体は、経済学部や工学部、医学部などで学ぶことができますが、専門の学部としては存在しておらず、分野ごとに点在しているだけでした。その結果、統計学を活かして分野横断的な分析を行なう、データサイエンス分野で日本は世界的に著しく遅れをとってしまっています。例えば統計学部の設置数で言うと、アメリカには100程度、イギリス・韓国には50程度、中国には300以上の学部が設置されています。その結果、多様な分野のデータが溢れているなか、データを横断的に統合し活用する時代において、日本における統計学の専門家、データサイエンティストが、不足する状況になっています。アメリカでは統計学の重要性が非常に高まり、大卒の学士よりも、院卒の統計学修士の取得者がこの十数年上昇し続けており、企業などで務めると初任給で1,000万円を超える状況にあると言います。

データサイエンス学部で育成される人材像は、文理融合人材とされています。統計学やコンピュータ科学の「理系」領域と、Project-Based Learning(PBL)と呼ばれる問題解決型学習を重視した手法で、マーケティングや企業経営、製品企画、教育、政策立案などの様々な領域における価値創造の経験・ノウハウづくりが構築される「文系」領域から、データ駆動型価値創造人材が育成されます。データサイエンス学部はDS教育研究拠点と位置づけられ、データサイエンス学部に先立って設立された、「データサイエンス教育研究センター」と、データサイエンス学部、今後設立予定の「大学院研究科」の3つによって拠点が形成されます。

データサイエンス教育研究センターでは先行して、
・DS基盤研究:機械学習、最適化等の最新の研究、国際シンポジウム
・DS価値創造プロジェクト研究:各領域でのデータ活用(企業や自治体など連携)
・DS教育開発:プロジェクト研究を通じたデータ駆動型PBL演習教材やMOOCなどの各種教材の開発
・DS調査・情報発信:海外動向把握、普及啓発
という4つの取組みを推進し、学部教育などにも活かされています。拠点の様々な取組を通じ、世界的に先進的で質の高いDS教育/研究の実現が目指されていて、滋賀大学で蓄積されたノウハウを、日本で今後設置される後発の大学へ提供し、日本全体のDSの層を厚くしていくことも、滋賀大学の役割として認識されています。合わせて、滋賀大学の全学部でDS関係科目を履修できるようにし、一般的なDSリテラシーの向上も目指されています。

滋賀大学データサイエンス学部

企業や自治体との連携についても進められています。教育面では、実務家によるデータ利用・解析事例に関する講義を行ったり、PBL演習への実務データ提供、学生インターンの受け入れなどが、研究面では、価値創造プロジェクトの推進(共同研究、受託研究)、PBL演習教材開発、方法論等の開発、といったことがお壊れていて、既に連携実績が上がっています。2016(平成28)年度にはデータサイエンス価値創造プロジェクト研究として、総務省統計研修所、玉田工業株式会社、京都銀行、株式会社オプトホールディング、滋賀銀行、NPO法人ビュー・コミュニケーションズ、大学共同利用機関法人情報システム研究機構統計数理研究所、株式会社アイディーズ、PwCあらた有限責任監査法人、独立行政法人統計センター、滋賀県立彦根東高等学校、滋賀県立虎姫高等学校、滋賀県警察、国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター、竜王町、関西アーバン銀行、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、滋賀県商工会連合会と、価値創造のための連携が行なわれています。

滋賀大学のDS教育研究拠点の波及効果として描かれているのは、4点で、(1)企業、自治体等との多様な連携による価値創造の深化によって、DS社会実装の新たな展開を促す、(2)DS教育基盤形成、学部教育プログラムの確立によって、専門人材不足への確実な対処を進める、(3)「危機的状況にある」DS分ウアの研究者育成によって、教員を要請するとともに専門人材不足の解消へつなげる。(4)DS教育リソース提供による教養教育普及拡大によって、リテラシー向上へつなげる、となっています。教える人材も不足する中で教員養成が重要な点や、リテラシー向上により発注者側が「よく分からないから」と丸投げするようなことも、減らせるようにしたいとの考えでした。

まとめ

自治体や地域への貢献ということが、説明の中では示されましたが、実際にはまだ拠点も学部も始まったばかりで、これからのテーマという状況でした。オープンデータなどは横浜市の取組ほどは、滋賀や彦根では進んでいないということも指摘されました。文理融合という形で、演習が重視されているものの、講義形式なら1人の教員で100人教えることが可能でも、演習だと20人程度までしか教えられないため、教員数の数が必要であり、一方では、教員人材が不足していたり、経営的には人件費がかかるなどの課題もあります。そうした費用面での課題を解決するためにも、民間企業等との連携で受託研究などを増加させることで、収入を得ていきたいという考えをもっていらっしゃいました。

日本初のデータサイエンス学部であり、研究拠点という位置づけを行っている中で、今後は県や市との関係もあるものの、企業や人材の集積を行い、新たな都市像を描けるのではないかと考えました。特に企業誘致だけでなく、大学発の起業も重要になるのではないかと質問しました。この点については、理想像として、シリコンバレーならぬ彦根バレーのようなイメージを描くことがあると言います。現在はネットワーク環境などが整っていれば、働くことが「場所」に左右されなくなっているので、学生たちがデータを見て、彦根を考えることで地域に関心を持ってもらう。そうすることで、首都圏などに卒業後出ていくのではなく、地域の中で仕事をしていくようになって欲しいということが示されました。そうなると「起業」がイメージされますので、大学のカリキュラムで起業や創業を支援する内容が用意されているのか伺いましたが、まだ学部設立1年目でそこまでは行っていないという状況でした。また、そうは言っても「オープンイノベーション」を起こしていくためには、人的交流などを行なう「場」が一定程度必要にもなるため、彦根から教員や学生がどこかに出ていくのではなく、企業等の関係する人たちに、彦根に来てもらえるようにしていけば、彦根に集積が生まれ、Valleyとなっていくのではないかと、示されました。横浜市立大学には来年度からデータサイエンス学部が設置されますが、横浜市大周辺にそうした集積を生み出す仕組み、場を作れれば、渋谷のようなバレーにも勝てるのではないかと、ご示唆頂きました。

先日開催された常任委員会では、横浜市大大学のデータサイエンス学部設置に関する報告も行なわれましたが、私がその際に指摘したのは大学院の重要性と早期設置、社会人教育の重要性です。世界的に統計、データサイエンスに関するニーズや重要性が高まる中で、学部生を4年育て、その上で修士課程を用意することは、もちろん一般的なやり方ではあり、よく分かる方法ではあります。とは言え、実際に今仕事の現場で必要としている社会人の方には、学部4年間をもう一度行なうのも、日中の授業に出席するのも困難です。既に学士を取得している人であれば、MBAのように社会人コースで、修士課程を夜間や土日などの授業で取得することができれば、そうしたコースを提供する大学には高い需要が生まれると考えます。滋賀大学でも修士号取得の重要性は認識されていて、平成33年(学部の卒業生が生まれる年)に大学院設置予定で進められていますが、文部科学省と調整をしながら前倒しで設置することも検討されています。滋賀大学は日本初ですが、横浜市大は首都圏初のデータサイエンス学部となります。大学での教育を教育だけで終わらせることなく、横浜市の発展に資する取組にしてもらいたいと思います。

滋賀大学データサイエンス教育研究センター

滋賀大学データサイエンス学部

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