DV加害者更生プログラム。NPO法人ステップ視察。

2019-05-24 00:08:10 | カテゴリ:活動報告


NPO法人女性・人権支援センターステップ

5月22日、横浜市内で家庭内暴力(DV)の加害者更生プログラムに取り組んでいる、「NPO法人女性・人権支援センターステップ」さんへ視察にお邪魔しました。私は以前から、DVや虐待、いじめなどの暴力問題への対策として、加害者の更生、ケアが重要だと考えてきました。暴力から守る、暴力をなくす、暴力を生まない、という3つの視点からの対策が重要だと考えています。ステップは、横浜市内で唯一、加害者更生に取り組む団体です。

海外と日本の状況

私が加害者更生に関心を持ち始めたのは、以前フィンランドでのDV対策のお話を伺ったのがきっかけです。お話を伺って目から鱗が落ちたのは、DV被害者の保護・ケアと合わせて、加害者へのサポートプログラムを提供していることでした。被害者が保護されると、3日以内に加害者に連絡しサポートを提案します。提案を受けた4人に3人がこのサポートを受け入れていることにも驚きましたが、加害者自身も悪いことをしている意識があるため、自分の精神状態をサポートしてもらえることを受け入れるのだという話でした。

日本においては、被害者を逃して、加害者から隔離していくことは行われていますが、加害者更生という発想が私にもありませんでしたし、制度としてもありません。現時点において、国の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」では、被害者の保護については記されているものの、加害者更生に関しては位置づけがありません。そのため、日本における加害者更生プログラムの提供は、民間の団体による提供だけとなっていて、そのうえ全国に10団体ほどしか団体がないということで、加害者更生プログラムに出会うことや、利用する機会は大変限られてしまっています。横浜市では、2019年度予算において「加害者更生プログラムへの運営費補助」として、83万円が計上されています。他の自治体では団体支援の予算は出ていないそうで、横浜は良い方だとも伺いましたが、それにしても僅かな予算と言わざるを得ません。

NPO法人ステップの取り組み

視察に伺ったステップでは、当事者が変わっていくことを目標に、グループワークを中心にしたプログラムの他、個人ワーク、カップル面談のほか、夫婦塾など、様々なアプローチで更生のための取り組みが行われています。プログラムは、なんと52回受けることとなっていて、毎週1回受けても1年かかるという内容になっていますが、横浜市内にとどまらず首都圏をはじめ、宮崎、福岡、秋田など全国から利用者が通っていらっしゃいます。基本は1回の受講が3,000円で、52回受講すると156,000円と決して安くはありませんが、毎週必ず通う方が多く、遠くからの方は土日に4回受講されるなど、皆さん一生懸命通っていらっしゃいます。

これまで8年間のあいだに、およそ500名の方が受講されて、8割の方が「変われた」とおっしゃいます。この「変われた」の評価は本人評価ではなく、配偶者の方が「変わった」と認めたかどうかであり、本人の自己評価ではありません。過去には、プログラムを受講している男性の配偶者が、離婚予定で家の鍵を返却するため男性に会いに来た際、男性の変化を目の当たりにし、離婚をやめて、現在では同居に戻っているというケースもあったといいます。とはいえ、ステップとしては復縁を目的とはしておらず、あくまでも自分自身が変わることを目的にし、プログラムが提供されています。

NPO法人女性・人権支援センターステップ

当事者同士での学び合い〜Aさんの事例〜

お邪魔した日には、52回のプログラムを終えたAさんとその奥様とが参加されて、お二人から体験談を聞く時間が設けられていました。Aさんがステップに通うことになったきっかけは、奥様。結婚以来長年に渡って、Aさんの怒りっぽく、威張り、声を荒げて話し、自分のルールを押し付ける行為に悩まされてきた奥様は、ある時報道などを見ながら、自分のおかれている環境が一種のDVであると気づき、すがるような思いでステップに訪れたと言います。

物理的な暴力は無かったこともあり、Aさん自身にDVの自覚はありませんでした。奥様に連れてこられたAさんは、「自分には関係がない。DV加害者ではない。」と思ったといいます。家庭がうまくいかないとは思っていたものの、まさか自分に原因があるとは思って見なかったそうです。当初は、理事長の話などを聞いても「本当だろうか」と疑って入っていたものの、プログラムを受講している他の方の体験談、成果を知っていくことで、プログラムを受講することの意味を受け入れられるようになったといいます。

Aさんにとって最大の障害は「怒り」だったといいます。プログラムを通じて、相手を受け入れたり、感情をコントロールしたり、ポジティブな思考法を学んでいたっといいます。ステップまで1時間半以上かかるようなところから通っていたAさんですが、学んだ知識や、実践した経験を、仲間と共有し、つなげて行くことを通じ、仲間や自分の進歩が感じられ、一体感が得られ、毎週通い続けられたそうです。奥様の評価では、プログラムを受けた後、Aさんの怒りは8割位は収まり、「機嫌が悪いな」と思うくらいで、Aさんが謝ることも、褒めることもできるようになり、周りを支配しようとすることも減り、独立したお子さん達からも「お父さん感じが良くなった」と言われるようにまでなったといいます。

プログラムを受講する経緯と学んだこと

Aさんの他に、現役でプログラムを受講している方、受講を終えた方が、5名参加されていました。それぞれが、なぜプログラムを受講することになったか、また何を学んだかの共有も行われました。

受講するきっかけは、

・妻との離婚を機に、自分を変えたいと思って参加した。
・妻が逃げ、精神科に行ったが病気では無く心理的なものと指摘され、自分でステップを探して来た。
・妻にDVをしてしまい、自分を助けてもらいたくて来た。
・他のカウンセリングではスッキリできず、紹介してもらった。
・家を出た妻がステップのカウンセリングを受け、紹介された。

など、理由はそれぞれ異なりますが、「自分を変えたい」とか、「また同居できるようになりたい」という意思を持って、通い始められていました。

学んだことは、

・人の話を聞くことができず、支配欲が強く、思い通りにならないと不機嫌になっていたが、その根本を変えられた。
・傾聴に重きを置いて実践し、褒めたり、感謝の言葉を伝えられるようになった。
・瞬間湯沸器なみに怒りがすぐ爆発していたが、ポジティブな思考を学び、相手のことを思いやれるようになった。
・自分の考え方に沿わないと面白くないと感じていたが、人は人なんだと受け入れられるようになった。
・怒りのコントロールを学び、妻の対応が自分の思い通りでなくても、怒らなくなった。

など、それぞれの方の実践を通じての経験が共有されていました。

理事長は、「変われる人は8割で、変われない2割は妻が悪いと思ったままの人」だとおっしゃいます。本気で自分を変えたいと思える人が、52回の受講を続けることができます。受講者を終えた方からは、途中で「もう自分は変わった」と思って、行かなくなりそうになったものの、結局変わりきれていないことに気づくことで、また通うようになったという話も伺いました。学んだことを記録し試し、試した結果を受講日にまた共有し学び、ということを繰り返しながら、同じ状況におかれた「仲間」とともに乗り越え、変わったと認められる日がやってくる。ステップの理事長はじめスタッフの皆さんへの感謝の言葉も多く、52回のプログラムを終えた後にも通っている方もいらっしゃいました。

まとめ

DV、暴力をしてしまうことにおいて、加害者が暴力をふるってしまう原因を取り除き、暴力をなくしていくことが、ひいては被害者を守る最大の方法だと考えます。被害者を逃し、守ることも重要な支援策ですが、「暴力はなくせない」と捉えて、加害者をそのままにしておくのでは、再発を防止できません。これはDVに限らず、虐待やいじめなど他の暴力にも言えるのではないかと考えています。

プログラム受講者の方々の話から見えてくるのは、「支配欲求」と「怒り」の2つが大きな課題であることです。相手が自分の思い通りにならないことで、怒りを覚え、暴力をふるってしまう。受講者は、傾聴や受容を学び、相手を知り、相手を認めることを実践し、ポジティブな思考を身に着けていくことで、支配欲求から開放され、怒りが低減し、暴力を必要としなくなります。

重要なのは、その方法を知っているかどうか、だと思います。夫婦・家庭環境におけるコミュニケーションや、父や母としてのコミュニケーションの方法を知ることができていたら、生まれなかった暴力もあるのではないかと考えます。

国の法制度において、加害者更生が位置付けを持たないことや、それに伴って横浜市においても、積極的な加害者更生プログラムの展開ができずにいます。法制度の整備も重要ですが、それを待たずにでも横浜市でできることをやっていくことも必要だと考えています。

NPO法人女性・人権支援センターステップ
テレビの取材が入っていました。

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